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第3章 公爵家編

56.公爵家のお嬢様とお友達になった

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目覚めたリンジーの姿に向かってロッドフォード家の当主のイーニアス・ロッドフォードと次期当主のジョーディ・ロッドフォードが涙と鼻水まみれの顔でハグをしようとジャンプする。

しかし、リンジーの回し蹴りがクリーンヒットしてぶっ飛ばされる。

理由はいくら心配とはいえリンジーの部屋の扉を
飛び蹴りで破壊して入ってきたからだ。


「まぁ、誰でも怒るよなぁ…」


と思う俺。
淑女かどうか以前に部屋の扉を壊されたんだから。


「……お見苦しいところをお見せしてしてしまいました。
わたくしはリンジー・ロッドフォード。
ロッドフォード家の長女で聖女をしておりますわ。
以後お見知り置きを」


スカートを両手で持っていかにも優雅なあいさつをするリンジー。

聖女。

主に回復系や治療系の魔法を使って多くの人を助ける活動をしている女性たちを指す。

この世界の最も大きな教会
『大教会デウス』に参加して活動する者もいれば
独自の教会を構えて活動する者
どこにも所属しないで活動する者
ボランティアで活動する者もいる。

リンジーは公爵家でありながらボランティアで活動するとても珍しいタイプの聖女だ。


「…私はA級冒険者のウェル・ベルクと申します!」


俺も改めてしっかりとあいさつする。
貴族はグランベル家のエリスお嬢様で慣れているつもりではあったがやはり少し緊張する。


「ウェル様がわたくしを病から救って下さったのですか?」


「はい、そうです」


俺は即答した。


「やはりそうなのですね!
本当にありがとうございます」


丁寧にお礼を言うリンジー。


「いえ!  イーニアス様の依頼を冒険者として真っ当したまでのこと。
私にはもったいないお言葉です」


それに対応するように返答するリンジーとウェルの姿を見て、しっかりした子どもで将来が楽しみだ
という目で見るアルデンとレッティ。


「…コホン…私からも説明しよう」


イーニアス様がリンジーの回し蹴りから復活した。
改めて威厳のオーラを発動するが手遅れ感がハンパない。


「…お願いしますわ、お父様」


そして、リンジーお嬢様に全て説明する。

リンジーがかかったのは病気ではなく
固有魔法『ポイズンカース』という魔法によるもので、半年もの間眠っていたということ。

つまり、それにより意図的に誰かが行って犯人を探したということ。

犯人は執事のコボルトであったが既に死んでおり
暗殺専門の闇ギルドのメンバーであるベルモットが変装していたということ。

そのベルモットを俺が一瞬で倒したということ。

全てリンジーに話すことになった。


「…そのようなことが…じいや…」


コボルトはリンジーが赤ん坊のころから一緒に長い時間を過ごした人物。

その者がもう死んでしまい、もう会えないと言うことに悲しむリンジーお嬢様。


「…皆の者…私とリンジーとジョーディだけにしてくれるか…?」


親子水入らずになりたいイーニアス。
それを理解して


「かしこまりました」


と、早々に立ち去るレッティ、アルデン、俺。
俺は部屋を出るとき、ちょっと心配そうに振り向くがすぐにレッティ、アルデンについて行った。

恐らく執事のコボルトさんがいなくなって悲しむ時間がほしいのだろう。
その悲しみはリンジーお嬢様だけでなく同じく子どものころからずっと一緒にいたジョーディ様もそうだ。
もちろんイーニアス様も。

俺は3人が悲しみ、泣いている声や音が聞こえる前にその場を離れた。


そして、俺は客室に案内されて


「たった1秒しか『魔導気』を使っていないのに結構疲れるなぁ。俺もまだまだだなぁ」


ということで『魔力』と『気』の回復のため
ベッドで一休みすることにした。


6時間後。


「ウェル様…起きてくださいませ」


「むにゃ?」


女の子の声がする。

誰だろう?
いや、聞き覚えがある。


パチッ


俺は目を覚ました。

そしたら目の前に凄く整った顔立ちの女の子が…。

って!?!?!?


「う!  うわ!?   リンジーお嬢様!?!?!?」


驚いて思わず飛び起きてしまった。


「あら、ウェル様?
淑女が殿方を起こしに来たのに『うわ!』というその反応は傷ついてしまいますわ」


上目遣いで罪悪感を促す言い回しのリンジー。


「え…えっと…もう大丈夫なのですか?」


俺は混乱しているが、とりあえずこの質問をするウェル。


「えぇ…お陰様でもう大丈夫ですわ。
ディナーの準備ができましたので呼びに来たのですわ」


あ、なるほど。


「あ、ありがとうございます。
では参りましょう!」


俺はベッドから下りた。


「はい、参りましょう」


笑顔で返すリンジー。


そして、大食堂に向かう途中での会話では。


「それにしてもよくお一人で私を呼びに行くことをお許しになられましたね」


そう、過度の過保護であるリンジーの父親のイーニアス様と兄のジョーディ様。

この2人がいくら恩人とはいえ単身で男の元へ行くなんて断固として許さんと言いそうなもの。


「わたくしが説得しましたわ。
行かせてくれないと『二度と口を聞かない』と言いましたので」


リンジーお嬢様…それは説得ではなく脅迫!
あの2人のことだから「二度と口を聞かない」は
クリティカルヒットだったのだろう。


「それにしてもウェル様?
わたくしに遠慮せず普段の喋り方で話してくださいませんか?
わたくし、ウェル様とお友達になりたいですわ!」


公爵家のご令嬢とお友達!?

すごいことになったぞ!


「あ、はい…いえ、わかった!
それならその…ウェル様ってのも辞めてもらえるかな?
なんかこう…くすぐったい」


前世でもこの世界でも~様なんて呼ばれたことがないから慣れない。


「そうですのね…。
では、ウェルでよろしくて?」


「うん!  俺のほうこそよろしく! リンジー!」


そんなこんなで俺はリンジーと打ち解けた。

だが、このことをイーニアス様とジョーディ様に知られたら発狂して国外追放されるかも!?

絶対秘密にせねば!!!!
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