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第3章 公爵家編

57.貴族のカギ

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大食堂に向かう途中の廊下で
ロッドフォード家の長女リンジー・ロッドフォードの


「ウェル様とお友達になりたいですわ!」


の一言でグッとリンジーとの距離が縮まった。

そして、ウェル、リンジーと呼び合う仲になる。

前世ではなかったから凄く嬉しい。

しかし、屋敷の中ですらリンジーが男と一緒にいることを警戒する父親のイーニアス・ロッドフォード様と兄上のジョーディ様に知られたら発狂してしまうかも。

下手したら俺は国外追放されるかもしれない。

そう頭でよぎっていたら。


「大丈夫ですわウェル。
ウェルにあのお二人が何かしようとしたら一生許しませんわ」


笑顔で返すリンジー。
しかし、その笑顔は怖い。
そして、なぜ心を読まれた!?


そして、大食堂の扉を開けたらイーニアス様とジョーディ様が既に席についていた。

料理も既に並べられて準備されていた。


「今日はリンジーお嬢様の快復祝いだ!
ドンドン作ってやるから腹いっぱい食いやがれ!!」


シェフのアルデンさんはめちゃくちゃ張り切っている。
そして、公爵家のシェフとは思えないワイルドな口調。

俺は嫌いじゃないけどね。

では、いただきます!


お腹空いているがやはりここはスープから。

ナイフやフォークは外側から順に端から使うんだったな。

エリスお嬢様の元で執事をやっていたからテーブルマナーもバッチリだ。


そして、公爵家と談笑しながら食事を続けていると


「…平民の方なのに食べ方がキレイですわね…」


リンジーはその姿に気になったようだ。

俺が平民だからテーブルマナーは恐らく学んでないと思われたのだろう。
なのでテーブルマナー関係なく好きなように食べれるよう工夫されている料理ばかりだ。

俺に対するシェフのありがたい気遣いだろう。

しかし、俺は既にテーブルマナーが身についているので所作一つ取ってもキレイに食べることが習慣づいている。

それに気づいたリンジーはほんとによく見てるなぁ。

そして、俺は考えた。

この人たちにグランベル家のことを話すべきかどうか。

グランベル家は全員殺害されたとするのが一番都合がいい。

だから、メイドで剣士のココさんとエリスお嬢様と俺の3人だけの秘密にしてきた。

だが、公爵家の力を借りることができたら、もっと効率よくグランベル家を暗殺した闇ギルド『ナハト』を追い詰めることができるかもしれない。

この人たちと会ってから感じたリンジーへの愛情。
そして使用人たちへの信頼。
そこから悪い人たちでないだろうと判断して決意した。


「その事ですが、イーニアス様、ジョーディ様、リンジーの4人にしてもらっていいですか?」


今回もそうだが信頼できるこのメンツで色々話したい。

また、暗殺を企てるスパイがいるかもしれないからな。


「む?  リンジー…?」


「…ウェルくん…ちょっといいかな?」


はっ!!  しまった!!!

つい呼び捨てでリンジーを呼んでしまった!!!

お父さんとお兄さんからすごい殺気が!?!?!?


「お父様?  お兄様?
『一生口を聞きません』ことよ?」


しゅん


しゅん


イーニアス様とジョーディ様が一瞬で凹んだ!?
リンジーつよし!!


「……ま…そうだな…ではお前たち、席を開けてくれるかな?」


威厳を少し取り戻した口調で
使用人たちを大食堂から立ち去るよう指示を出す。


「かしこまりました」


そして、使用人たちはいなくなり
大食堂は俺とイーニアス様とジョーディ様とリンジーの4人だけとなった。


「実は…俺はグランベル家という貴族で執事をやっておりました」


「グランベル家…!!
まさか…あの貴族たちの生き残りか!」


イーニアス様の態度が急変した。

『ナハト』のNo.8『ベルモット』と戦っているときもそうだが、イーニアス様はどうやらグランベル家のことを知っているらしい。


「はい、俺はエリス・グランベルお嬢様に仕える者です」


「しかし、グランベル家の屋敷が火事になり
グランベル家は潰えたと聞いていたが…」


ジョーディ様及び貴族の間では有名な情報だ。
しかし、真実は違う。


「いえ、違います。
グランベル家の最後まで仕えていた俺を含めた3人は生き残りました」


「なんと!?  
ということはエリスは無事なのか!?」


「はい!  メイドのココさんも無事です!」


貴族の情報は偽りで屋敷に住む人たちは全員無事であることを伝えた。


「そして、グランベル家が焼失したのは事故ではなく暗殺です」


「そうか…暗殺であったのか…」


イーニアス様はそれほど驚いた様子はない。
むしろ、暗殺されたことは予測していたようだ。


「そして、その暗殺を行ったのが闇ギルド『ナハト』です」


「闇ギルド『ナハト』…。
コボルトに成り代わってリンジーを暗殺しようとした組織か…。
まさか、グランベル家もそうだったとはな」



そう、グランベル家もロッドフォード家も闇ギルド『ナハト』が関わっていた。


俺は事の経緯を話す。

グランベル家にいた人たちは全員無事で
エリスお嬢様と俺は冒険者として貴族レベルの地位を獲得しようと奮闘していることを。

ココさんとは別行動をして暗殺しようとした闇ギルドの捜索をしていることを。


「そして、エリスお嬢様も闇ギルドも
貴族のカギを狙っているそうです。
グランベル家は違ったみたいですがカギとはなんでしょうか?」


カギ。

グランベル家のエリスお嬢様を暗殺しようとした理由。
そして、ロッドフォード家のリンジーお嬢様を暗殺しようとした理由。

もしかしたら繋がっているかもしれない。


「…そうだな…私の知る限りの話そう…」
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