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3章 旅立ち

6話

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 水族館からそう遠くないコンビニ内、二つの寝袋がもぞもぞと動く。

「ふぁ~……おやよ」

「おやよ」

 テントの設営が面倒くさくなった二人は、手近な建物に入って夜を明かしていた。

 頭ボサボサの寝惚け眼で寝袋を片付けるノエルが、アザラシと触れ合い海水臭くなった身体を気にする。

「……シャワー浴びたい」

「……あぁ、確かになぁ」

 一日でも風呂のお預けをくらうと、どうにも身体がむず痒くなってしまうのが日本人の性。

 考えてみれば、今は高級ホテル、高級施設が使い放題なのだ。野宿する必要とか無かったかもしれない。

 東条はスマホを取り出し、近場のスーパー銭湯を検索した。

「お、近くにいいとこあんじゃん」

「お風呂?」

「おう。いろんな種類の風呂がある銭湯」

「お~」

 水浴びとシャワーしか体験したことのないノエルの瞳が輝く。

「んじゃ行くか」

「よしゃ」

 適当に缶詰をパクって食いながら、彼等は呑気な入店音を背にコンビニを出た。




 ――温かい光で照らされた木々が生える美しいフロントは、ホテルと言っても何ら遜色ない。

 昨今のスーパー銭湯は、値段も手ごろでホテル以上にリラックスできる場所も多い。
 風呂好きからすると嬉しい楽しい万々歳。

「早く行こっ」

「あぁ」

 東条は待ち切れないとばかりに走るノエルを、速足で追いながら落ち着けと宥めた。



「……お前風呂にまでカメラ持ってくつもり?」

 服を脱ぐ東条が、呆れ混じりに彼女の手元を見る。

「ダメ?」

「いや、まぁ、ルール的にアウトじゃね?」

「わかた」

 なるべくルールには従っていこうと決めたのだ。人の文化を体感してこそ、旅に意味が生まれるというもの。

 ノエルはぽい、とカメラをロッカーに放り投げた。

 そして、初めて目にした東条の裸体をガンミする。

「……まさ、ボロボロ」

「んー?」

 刻み込まれた、大小夥しい数の戦闘痕。

 今まで彼が通ってきた道の険しさを、彼自身の身体が体現している。

 東条は洗濯機のコンセントを繋ぎ、脱ぎ散らかされた服を放り込んで洗剤を適当にぶち込む。

 火傷後をなぞり、サムズアップした。

「かっけーだろ?」

「……ん」

 全てを乗り越え尚笑う彼は、確かにカッコよかった。



 ――「おー」

 ノエルは目の前にひらける大浴場に興奮し、タオルを靡かせ走り出す。

「まてまて、風呂は身体洗ってからだ」

 東条は早速飛び込もうとするノエルを、風呂好きの威厳を以て制止した。

「ん。分かった」

 逸る気落ちを抑え、洗い場に歩いていく二人。



 そんな彼等を見つめる、湯煙の中の住人には気付かずに。

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