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第二章

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 ***


 翌日、香澄はテンテンからことの顛末を聞いた。ハルの想いは無事奈津に届き、その魂は迷うことなく虹の向こうへと向かったそうだ。

「お前にもありがとうと言っていたぞ」
「私はなんにもできてないよ」
「そうか?」
「え?」

 テンテンが香澄の目の前で白猫の姿に戻る。どうしたのかと振り返ると、そこには奈津の姿があった。

「昨日ね、ハルが会いに来てくれたの」

 奈津は少し寂しそうに、でも晴れ晴れとした表情で言う。昨日会ったときよりも顔色がよくなったように見えた。

「今日はそのお礼を言いに来たの」
「お礼って」
「ハルがね、夢の中で言ってたの。猫宮司が力を貸してくれたから会いに来られたんだって。だからお礼。ハルと、もう一度会わせてくれてありがとうございました」

 そう言って背中に背負ったリュックの中から取りだしたおかかおにぎりを二つ、テンテンの前に置いた。フィルムを外してやると、嬉しそうに頬張り始める。
 そんなテンテンの様子を見ている奈津に、香澄は尋ねた。

「もう、大丈夫、ですか?」

 けれど香澄の言葉に、奈津は小さく首を振った。

「大丈夫になる日なんて、来ないと思う」
「あ……。そう、ですよね。私……ごめんなさい」
「ううん、でも……。ハルとのお別れは辛いけど、でもハルが私を想ってくれていたこと、それから私がハルを大好きなことはこれからも変わらないから。だから、頑張る」

 そう言った奈津は顔を上げてまっすぐ前を見つめていた。そんな奈津の背中を押すかのように、どこからか猫の鳴き声が聞こえた気がした。

 奈津が立ち去った境内で、香澄はテンテンと向かい合う。テンテンは以前そうしたように、何もない空間に手のひらを翳した。以前よりも大きくハッキリとした光があふれ出すのがわかる。
 今度こそ、弥生に会えるかも知れない。そんな期待が香澄の胸の中で大きくなる。あふれだした光の向こうに靄が広がる。

「おばあ、ちゃん」

 今度ははっきりと弥生の姿が見えた。弥生は香澄に気づくと優しく微笑み、何かを言おうと口を開いた。

「か……み、ちゃ……」
「おばあちゃん!」

 けれどその声がハッキリと聞き取れるよりも先に、霧は光はその場から消えた。

「まあ、こんなもんだろうな」
「おばあちゃん……」

 香澄の頬を涙が伝う。
 姿が見えて、声が聞こえた。久しぶりに会った弥生の姿に、押し殺していた寂しさが溢れ出る。

 しばらく弥生が消えた場所を見つめたあと、香澄は涙を拭った。今の自分にできることは、弥生とともに過ごしたレインボウを、そして家を守ることだけだ。

「頑張らなくちゃ」

 香澄の言葉にテンテンが「ふん」と鼻を鳴らす。尊大なはずのその態度がなぜか香澄には「まあ頑張れよ」と言っているように聞こえた。
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