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第三章

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「せやかて普通さ、彼氏がこっちにおるのに東京で就職する? 卒業までまだあるんやし、もうちょっと就活したってええやん。そりゃさ、就活サイト見とるときに『他の県にするんやったら泊まらせてもらおかな』とは言うたけど、あんなんあきらか冗談やん。せやのにさ」
「もう決めたって?」
「そう言うてた。なんでそないなことするんやろ。もう俺のことや好き違うんやろか」

 深いため息とともに、早瀬は再び頬をテーブルにくっつけた。困った香澄は青崎を見るけれど、首を振るだけだった。

「何で俺のこと、置いて行くんやろ」

 早瀬の言葉に胸が切なくなる。早瀬だって本当は就職が決まったことを祝いたかったに違いない。けれど、遠藤がいなくなるという事実が受け入れられないのだ。

 置いて行く方よりも置いて行かれる方がずっと寂しい。それを香澄はよく知っていた。

 けれど就職ということは遅くとも三月には大阪を発ってしまう。こうしている間にも、一緒にいられる時間はどんどん少なくなっているのだ。

「でも、やっぱり仲直りはした方がいいと思うよ」
「それは、わかっとるんですけどね。わかっとるんですけど……」

 早瀬は誰に聞かせるでもなく、ただただ小さな声で呟いた、

「でも、どないして仲直りしたらええんかわからへんねや」

 悲しそうなその呟きに、香澄はなんとかしてあげたいと思うけれど恋愛経験なんて皆無に近い香澄に言えることなどない。どうすれば……。

「あっ」
「え?」

 思わず声を出してしまった香澄に、青崎と早瀬は不思議そうに視線を向けた。

「どうかしたんですか?」
「えっと、その――猫神社って、知ってる?」
「猫神社?」

 どうやら青崎もそして早瀬も知らなかったようで、顔を見合わせてから首を振る。香澄はてんじんさんの奥にある猫神社の話を二人に聞かせた。そして。

「そこで願うとどんな願いも叶うんだって。だからもしかしたら、早瀬君が遠藤さんと仲直りしたいって願ったら叶うかも知れないよ」
「神頼み、かぁ」

 香澄の言葉に早瀬は気が乗らないようで、なんとも言えないとばかりに呟くともう一度ため息を吐いた。

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