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第17話 冒険者ギルド
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イステリアの冒険者ギルドは、クロエの家からそれほど遠くない街外れに在った。
冒険者のイメージは、どこの国でも荒れくれ者や日雇い労働者の様な底辺の印象が強く、一部の上級冒険者ですら、王国の騎士と比べられて、脛に傷のある者達だと考えられている。
そのせいで、冒険者ギルドの立地も街の中心地から離れており、治安も決して良いとは言えない場所だ。
だが、実際のところ、世間の印象はあながち間違ってはいない。
冒険者は、身分や過去の経歴に関係無く誰でもなる事ができる仕事であり、ギルドから依頼を斡旋してもらい、達成条件をクリアした場合に報酬を受け取る日雇いの様な仕事だ。
冒険譚に出て来る様な魔物との戦闘やダンジョンの探索といった仕事もあるが、下水道の清掃や商人の護衛にお金の取り立てなど、冒険者とは言い難い雑用や傭兵の様な仕事の方が多い。
しかも、危険を伴うものや誰もやりたがらない様な仕事が多く、金に困った冒険者が日銭稼ぎの為に働いているという夢の無い仕事だ。
最初は、クロエも冒険者の現実に愕然としたが、どんな仕事も人の為になる業務であり、誰かがやらなければならない仕事だと理解してからは、むしろ冒険者の役割の重要性を実感した。
冒険者ギルドは、堅牢な石造りの建物で、一階には依頼書が張り出された大きな掲示板があり、受けたい依頼書を持って受付に行けば良い。
他にも魔物の素材買取窓口や武器の貸出しに依頼受付の窓口などがある。
また、商談や仲間集めの為の酒場が併設されており、冒険者や飲んだくれ達が騒いでいた。
「ここも王都とあまり変わらないのね」
見慣れた光景に、ホッとため息が出た。
クロエは、真っ直ぐに受付カウンターへ向かう。
美しいクロエを見る冒険者達の目がギラついているが、無視して、金髪の受付嬢の前に立った。
「依頼ですか?」
受付嬢は、十代半ばの若い少女を見て、冒険者ギルドに依頼しにきたのだと勘違いしている様だ。
「いえ、冒険者登録をしに来ました」
本来、クロエはシエロ王国の冒険者ギルドでAランクの資格を持っており、そのランクは他の国に行っても引き継がれるはずだった。
しかし、最高ランクのAランク冒険者は、国に数える程度しか存在しない精鋭であり、そんなAランク冒険者が突然現れたら、目立つことは想像に難くない。
また、記録からシエロ王国から来たことも分かってしまうので、正体がバレてしまう可能性も高い。
シエロ王国では、ハートフィリア家の娘である事は隠していたが、用心するに越したことはない。
今までの冒険者の経歴を捨て、新規に登録し直す事で、イステリアの冒険者として、一からやり直す事にした。
「失礼ですが・・・ご両親は了承していますか?」
受付嬢は、怪訝な視線をクロエに向ける。
・・・懐かしいな。
クロエは、13歳の時に初めて冒険者ギルドに登録をしに行った時の事を思い出していた。
「・・・両親はいません」
クロエは、3年前と同じ手を使う事にした。
クロエは、少し俯いて、暗い顔をする。
冒険者になる若い少年少女の殆どが孤児であり、両親を失って、独りで生きて行く為に、仕方無く冒険者になる者が多かった。
それ故に、受付嬢も状況を察して、悲しそうな表情を浮かべて、登録用紙を渡してくれた。
若い少年少女の冒険者は、その殆どが1年以内に死ぬ。
未成熟な身体では、過酷な冒険者の仕事に耐えられない上に、無鉄砲に危険な魔物退治の依頼を受けて、命を落とす者が後を経たない。
「こちらが、冒険者の登録証になります」
受付嬢が渡してくれたのは、鉄のプレートだった。
プレートには、クロエと名前が刻まれており、冒険者ランクと身分を証明してくれる。
因みに、冒険者ランクは、AからDの4段階に分かれており、プレートの種類で見分けがつく様になっている。
金:Aランク
銀:Bランク
銅:Cランク
鉄:Dランク
クロエは、新人なので、鉄のプレートであるDランクからスタートする事になった。
「・・・懐かしいな」
クロエも3年前は、Dランクからスタートした。
たった3年でAランクにまで駆け上ったが、今回は急いでランクを上げる必要は無い。
ゆっくり、のんびりと冒険者の仕事を愉しもう。
「ありがとうございます」
クロエは、受付嬢にお礼を言うと、早速、依頼掲示板を確認する。
そこには、数百以上の依頼書が貼り出されており、地下水路のネズミ駆除や拐われた子供の捜索に海の魔物退治や海賊船からの護衛やオーソドックスなゴブリン退治まで、様々な依頼があった。
依頼書の右上にはAからDの印が押されており、受注可能な冒険者のランクが指定されている。
「・・・これって」
クロエは、気になる依頼を発見して、手に持った。
「私の捜索依頼?」
依頼書には、クロエ・ハートフィリアの捜索と書かれており、クロエの肖像画が描かれていた。
依頼主はハートフィリア家であり、人生100回は遊んで暮らせるくらいの報酬が設定されていた。
「・・・これじゃあ、手配書と変わらないじゃない」
まさか、こんな形で他国にまで顔を晒されるとは思っていなかった。
クロエは、フードを被り、顔を隠して冒険者ギルドを出た。
「おい、待てよ!」
突然、背後から声を掛けられて、後ろを振り返ると、銀髪の少年が立っていた。
血の様な赤い瞳をしており、同じく血の様な真っ赤なロングコートを来た少年は、真っ直ぐにクロエを見つめている。
「・・・何でしょうか?」
クロエは、怪訝な表情で質問した。
「お前、初心者だろ?」
少年は、得意気に首から銀のプレートを下げていた。
十代の少年がBランクになるというのは、非常に珍しく、才能に溢れているのだろう。
自慢したくなる気持ちも分からなくも無いが、目の前にいるクロエは、16歳でAランクになった化け物であり、その瞳は冷めていた。
「・・・それが何か?」
新人潰しかな?
「お前、危なっかしいから、俺の仲間に入れてやるよ」
少年は、偉そうに胸を張り、冒険者パーティーに勧誘してきた。
「いえ、結構です」
クロエは、軽く会釈して、そのまま去って行く。
「・・・え? ちょっ、断るのか!?」
少年は、信じられないといった顔で呆然と歩き去るクロエの背中を眺めていた。
冒険者のイメージは、どこの国でも荒れくれ者や日雇い労働者の様な底辺の印象が強く、一部の上級冒険者ですら、王国の騎士と比べられて、脛に傷のある者達だと考えられている。
そのせいで、冒険者ギルドの立地も街の中心地から離れており、治安も決して良いとは言えない場所だ。
だが、実際のところ、世間の印象はあながち間違ってはいない。
冒険者は、身分や過去の経歴に関係無く誰でもなる事ができる仕事であり、ギルドから依頼を斡旋してもらい、達成条件をクリアした場合に報酬を受け取る日雇いの様な仕事だ。
冒険譚に出て来る様な魔物との戦闘やダンジョンの探索といった仕事もあるが、下水道の清掃や商人の護衛にお金の取り立てなど、冒険者とは言い難い雑用や傭兵の様な仕事の方が多い。
しかも、危険を伴うものや誰もやりたがらない様な仕事が多く、金に困った冒険者が日銭稼ぎの為に働いているという夢の無い仕事だ。
最初は、クロエも冒険者の現実に愕然としたが、どんな仕事も人の為になる業務であり、誰かがやらなければならない仕事だと理解してからは、むしろ冒険者の役割の重要性を実感した。
冒険者ギルドは、堅牢な石造りの建物で、一階には依頼書が張り出された大きな掲示板があり、受けたい依頼書を持って受付に行けば良い。
他にも魔物の素材買取窓口や武器の貸出しに依頼受付の窓口などがある。
また、商談や仲間集めの為の酒場が併設されており、冒険者や飲んだくれ達が騒いでいた。
「ここも王都とあまり変わらないのね」
見慣れた光景に、ホッとため息が出た。
クロエは、真っ直ぐに受付カウンターへ向かう。
美しいクロエを見る冒険者達の目がギラついているが、無視して、金髪の受付嬢の前に立った。
「依頼ですか?」
受付嬢は、十代半ばの若い少女を見て、冒険者ギルドに依頼しにきたのだと勘違いしている様だ。
「いえ、冒険者登録をしに来ました」
本来、クロエはシエロ王国の冒険者ギルドでAランクの資格を持っており、そのランクは他の国に行っても引き継がれるはずだった。
しかし、最高ランクのAランク冒険者は、国に数える程度しか存在しない精鋭であり、そんなAランク冒険者が突然現れたら、目立つことは想像に難くない。
また、記録からシエロ王国から来たことも分かってしまうので、正体がバレてしまう可能性も高い。
シエロ王国では、ハートフィリア家の娘である事は隠していたが、用心するに越したことはない。
今までの冒険者の経歴を捨て、新規に登録し直す事で、イステリアの冒険者として、一からやり直す事にした。
「失礼ですが・・・ご両親は了承していますか?」
受付嬢は、怪訝な視線をクロエに向ける。
・・・懐かしいな。
クロエは、13歳の時に初めて冒険者ギルドに登録をしに行った時の事を思い出していた。
「・・・両親はいません」
クロエは、3年前と同じ手を使う事にした。
クロエは、少し俯いて、暗い顔をする。
冒険者になる若い少年少女の殆どが孤児であり、両親を失って、独りで生きて行く為に、仕方無く冒険者になる者が多かった。
それ故に、受付嬢も状況を察して、悲しそうな表情を浮かべて、登録用紙を渡してくれた。
若い少年少女の冒険者は、その殆どが1年以内に死ぬ。
未成熟な身体では、過酷な冒険者の仕事に耐えられない上に、無鉄砲に危険な魔物退治の依頼を受けて、命を落とす者が後を経たない。
「こちらが、冒険者の登録証になります」
受付嬢が渡してくれたのは、鉄のプレートだった。
プレートには、クロエと名前が刻まれており、冒険者ランクと身分を証明してくれる。
因みに、冒険者ランクは、AからDの4段階に分かれており、プレートの種類で見分けがつく様になっている。
金:Aランク
銀:Bランク
銅:Cランク
鉄:Dランク
クロエは、新人なので、鉄のプレートであるDランクからスタートする事になった。
「・・・懐かしいな」
クロエも3年前は、Dランクからスタートした。
たった3年でAランクにまで駆け上ったが、今回は急いでランクを上げる必要は無い。
ゆっくり、のんびりと冒険者の仕事を愉しもう。
「ありがとうございます」
クロエは、受付嬢にお礼を言うと、早速、依頼掲示板を確認する。
そこには、数百以上の依頼書が貼り出されており、地下水路のネズミ駆除や拐われた子供の捜索に海の魔物退治や海賊船からの護衛やオーソドックスなゴブリン退治まで、様々な依頼があった。
依頼書の右上にはAからDの印が押されており、受注可能な冒険者のランクが指定されている。
「・・・これって」
クロエは、気になる依頼を発見して、手に持った。
「私の捜索依頼?」
依頼書には、クロエ・ハートフィリアの捜索と書かれており、クロエの肖像画が描かれていた。
依頼主はハートフィリア家であり、人生100回は遊んで暮らせるくらいの報酬が設定されていた。
「・・・これじゃあ、手配書と変わらないじゃない」
まさか、こんな形で他国にまで顔を晒されるとは思っていなかった。
クロエは、フードを被り、顔を隠して冒険者ギルドを出た。
「おい、待てよ!」
突然、背後から声を掛けられて、後ろを振り返ると、銀髪の少年が立っていた。
血の様な赤い瞳をしており、同じく血の様な真っ赤なロングコートを来た少年は、真っ直ぐにクロエを見つめている。
「・・・何でしょうか?」
クロエは、怪訝な表情で質問した。
「お前、初心者だろ?」
少年は、得意気に首から銀のプレートを下げていた。
十代の少年がBランクになるというのは、非常に珍しく、才能に溢れているのだろう。
自慢したくなる気持ちも分からなくも無いが、目の前にいるクロエは、16歳でAランクになった化け物であり、その瞳は冷めていた。
「・・・それが何か?」
新人潰しかな?
「お前、危なっかしいから、俺の仲間に入れてやるよ」
少年は、偉そうに胸を張り、冒険者パーティーに勧誘してきた。
「いえ、結構です」
クロエは、軽く会釈して、そのまま去って行く。
「・・・え? ちょっ、断るのか!?」
少年は、信じられないといった顔で呆然と歩き去るクロエの背中を眺めていた。
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