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ヤキモチと本番
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2013年3月17日
クラブダイアのVIPルーム。
大和と海斗、そして旬と叶多が向かい合わせのソファーにそれぞれ腰をかけていた。
大和は手に持つグラスを少し乱暴にテーブルに置くと、不快を顕に声を出した。
「まじ許せねぇっ!深谷斗亜っ。俺の可愛い未來を騙しやがってっ!」
合同レッスン終わりに、綾人から一応耳に入れといた方がいいかなと思って、と言われて聞いた未来と斗亜の話。
とんでもない自体が起こっていると、大和は話を聞きながらわなわなと体が震えるのを感じた。
「いや、でもあながち間違いじゃねぇだろ。確かに女は後が面どくせぇからな」
珍しく眉間に青筋をたてて唸っている大和を、叶多は宥める様にそう言った。
「そうそう。つかガキの癖に中々上手い手使うじゃん?やっぱ最近のガキはませてんなぁ~。綺麗な顔してるし俺結構タイプ。んで?付き合ってるの?二人は」
「なっ、付き合ってるわけないじゃないですかっ!未來は深谷の事なんか好きじゃないし、あいつはノーマルですっ」
何ともちゃらけた軽いノリで言う旬に、大和のボルテージは一層上げられた。
そしていつもなら誰より先に話に入った筈の海斗が、やっとその口を開いた。
「え~?そうかな。だってノーマルだったらいくら上手い事乗せられたからって、男にキスされたら不快だと思うよ?」
「でも別に嫌がってはないんだろ?」
「っ…、それはっ…」
海斗との意見は最もで、嫌がっている訳ではない事も綾人から聞いて知っていた大和だったが、それでも腑に落ちない部分が多すぎて、深谷を悪者に出来る理由を探していた。
「まぁたかがちゅーじゃん?別に犯されたわけじゃねぇんだからさ」
けらけらと笑いながら言う旬の台詞に、大和の瞳が大きく開けられる。
「たかがっ!?ってか犯されたらって、そんなの絶対許さねぇっ!」
ブンブンと大きく頭を振りながら、らしくなく強い口調でそう捲し立てる大和に、海斗の眉間に皺が寄せられる。
「はぁっ?何むきになってんのっ?ってかそもそも何で大和の許可がいるわけ?恋人でもない癖にっ」
「なっ、それはっ、だけど心配だろっ?未來は俺の可愛い後輩なんだからっ」
確かに海斗の言う様に、何をむきになってるのだろうと自分でも大和は思っていた。
誰と何をしようが未来の自由。
未来が嫌がっているのならまだしも、そうでない以上自分が口を出すのはお門違いなのかもしれないが、しかし大和は最早未来の事を自分の弟の様に身近に思っていた。
「俺のっ?はぁっ?ばっかじゃないっ?お前のだけじゃないしっ、俺だって未來の先輩だよっ」
いつも穏やかな大和の常ならぬ剣幕に、海斗も影響され声を荒らげてしまう。
「おいおい、なんだよ海斗。お前まさか妬いてんの?未來に」
ぷりぷりとした海斗の態度に叶多がそう鎌をかけると
「なっ!?はぁっ!?何言って」
「か~わいいっ。そんなに大和が好きですかぁ~」
「っ!!なっ、そんなんじゃないっ」
否定の言葉を大声で発するも、その顔は真っ赤になっていて、なんて分かりやすい奴なんだと旬は思う。
「気持ちは嬉しいけど、馬鹿かお前は。相手を考えろよ、小学生だろ?」
海斗の慌て様にすっかり毒気を抜かれた大和は、いつも通りの穏やかな声色で、いつも通り海斗を宥めるポジションについたが
「っ!っだからっ、ちがうって言ってんでしょっ!ばっかじゃないっ!」
焼きもち?俺が未来に?
何でそうなるんだ。
何を言い出すんだ皆してと、わなわなと肩を震わせながら海斗は思った。
焼きもちなんて絶対妬くわけないだろうと。
※※※
2023年1月2日
未来が泊まるビジネスホテルから歩いて15分程でいける海岸。
ビジネスホテル内を一通り歩いた未来は、散歩がてらそこに来ていた。
すっかり夕闇に包まれた海を見つめ、未来はぽつりと言葉を漏らした。
「ちょっと遅すぎたな」
正月の海岸には殆ど人の気配はなく、静かな波の音だけが耳に寂しく届いてくる。
空に浮かぶ月は三日月。周りの街灯もまばら。
しばらくの間暗い海を堤防からただじっと見つめていた未来だったが、おもむろにコートのポケットからスマホを取り出すと、それを海へと向けてパシャリと1枚写真を撮った。
しかし画面に映るのはほぼ黒。
海を撮ったと添えれば、目を凝らせば確かにそうと見えなく
もないが、言われなければただの暗闇。
「ん~、綺麗なサンセットビーチを撮りたかったんだけどな」
うっすら苦笑いを浮かべながら、未来はそうぽつりと残念そうに呟いた。
2013年3月23日
夕日が丁度差し掛かった綺麗な海。
未来は百花と共に砂浜を歩いていたが、不意にそのあゆみを止めた。
そしてそれに気づいた百花がゆっくりと未来の方へ振り返った。
夕日が彼女の顔を柔らかく照らしている。
「好きなんだ。友達じゃなくてこういう意味で…」
未来は百花に近づくと、そっとその細い肩を抱いて、ふわりと掠める程のキスをした。
突然なそれに目を瞑る間もなかった百花は、そのまま立ち尽くすしか出来ないでいた。
「カット~!OKで~すっ。確認お願いしまぁす!」
しばらく見つめあったままでいた未来と百花の耳に、ADの笹本の声が届く。
未来は少し張り詰めていた神経を解し、軽く息を一つ吐いた。
良かった。無事終わりそうだ。
未来は人知れずそう安堵した。
そしてゆったりとした足取りで、少し離れた場所でモニターを確認しているディレクターの遠山の元へ向かっていると
「ねぇ未來君。どうだった?私とのキス」
未来の隣まで駆け寄ってきた百花が、そう小首を傾げて伺ってきた。
「え?どうって、んー、緊張したかな。こんな大勢の前でキスするなんて初めてだし」
とゆうかキス自体もつい最近までした事なかったんだけどねと、未来は心の中で自嘲した。
「私もっ。すごい緊張しちゃったっ。でも、ファーストキスが大好きな未來君とできて本当に嬉しいっ」
「あ~…、そう…。それはどうも…」
キャピキャピと弾むような声で言う百花に、未来はとりあえずの礼と苦笑いを浮かべた。
「でも今度は二人っきりの時にして欲しいな」
「え?」
「だけどそしたら私と付き合ってくれなきゃ嫌だけどね?」
綺麗な満面な笑みを浮かべそう言う百花に、未来はその意味を理解するのに時間がかかり、口をぽかんと開けたままでいると
「百花ちゃ~ん、ちょっとこっち来て~」
「はぁ~いっ。じゃぁね、未來君っ。また後でね」
そう言って、スタスタと去っていく百花の後ろ姿を未来は呆然と見つめていた。
撮影合間の待ち時間。
未来は斗亜と共に海岸沿いの公園で、並んでベンチに座り時間を潰していた。
足元に転がる小さな石を蹴りながら、未来は斗亜に百花の事を相談した。
「百花ちゃんはさ、僕が百花ちゃんの事好きだと思ってるのかな?だってあれは、私とキスしたかったら付き合わなきゃさせないよって意味だよね?でも僕は百花ちゃんの事好きじゃないし、キスしたいとも思わないし付き合いたくもないんだけど…」
少しげんなりと疲れた表情を浮かべ言う未来に、斗亜は小さなため息を一つ吐いた。
「だったらそうはっきり言わなきゃ駄目だよ。女の子って本当に図々しいから。特に野村さんみたいに少しでも外見がいい子は自分に自信持っちゃってるからね。だから君が自分を好きとかあり得ない勘違いを普通にするし、妄想もどんどん膨らんでっちゃうから」
斗亜にそう諭され、未来は大きな瞳を見開いた。
「まじっ?」
「まじ。本当に早めに目を冷まさせないと、その内勝手に付き合ってる事にされたりしちゃうよ?」
「えぇっ?そんなの困るっ。ってか嫌だよそんなのっ」
信じがたく恐ろしい展開に、未来は瞳を泳がせ戸惑いを露にした。
そんな未来に斗亜はぴしゃりとこう言い放った。
「でしょ?だったら言ってやりなよ。お前みたいなブス、眼中にねぇよって」
「っなっ?!」
なんて事を言うんだ、いや、言わせようとするんだこの人はと、未来は斗亜のとんでもないアドバイスに、しばらく空いた口をふせげずにいた。
クラブダイアのVIPルーム。
大和と海斗、そして旬と叶多が向かい合わせのソファーにそれぞれ腰をかけていた。
大和は手に持つグラスを少し乱暴にテーブルに置くと、不快を顕に声を出した。
「まじ許せねぇっ!深谷斗亜っ。俺の可愛い未來を騙しやがってっ!」
合同レッスン終わりに、綾人から一応耳に入れといた方がいいかなと思って、と言われて聞いた未来と斗亜の話。
とんでもない自体が起こっていると、大和は話を聞きながらわなわなと体が震えるのを感じた。
「いや、でもあながち間違いじゃねぇだろ。確かに女は後が面どくせぇからな」
珍しく眉間に青筋をたてて唸っている大和を、叶多は宥める様にそう言った。
「そうそう。つかガキの癖に中々上手い手使うじゃん?やっぱ最近のガキはませてんなぁ~。綺麗な顔してるし俺結構タイプ。んで?付き合ってるの?二人は」
「なっ、付き合ってるわけないじゃないですかっ!未來は深谷の事なんか好きじゃないし、あいつはノーマルですっ」
何ともちゃらけた軽いノリで言う旬に、大和のボルテージは一層上げられた。
そしていつもなら誰より先に話に入った筈の海斗が、やっとその口を開いた。
「え~?そうかな。だってノーマルだったらいくら上手い事乗せられたからって、男にキスされたら不快だと思うよ?」
「でも別に嫌がってはないんだろ?」
「っ…、それはっ…」
海斗との意見は最もで、嫌がっている訳ではない事も綾人から聞いて知っていた大和だったが、それでも腑に落ちない部分が多すぎて、深谷を悪者に出来る理由を探していた。
「まぁたかがちゅーじゃん?別に犯されたわけじゃねぇんだからさ」
けらけらと笑いながら言う旬の台詞に、大和の瞳が大きく開けられる。
「たかがっ!?ってか犯されたらって、そんなの絶対許さねぇっ!」
ブンブンと大きく頭を振りながら、らしくなく強い口調でそう捲し立てる大和に、海斗の眉間に皺が寄せられる。
「はぁっ?何むきになってんのっ?ってかそもそも何で大和の許可がいるわけ?恋人でもない癖にっ」
「なっ、それはっ、だけど心配だろっ?未來は俺の可愛い後輩なんだからっ」
確かに海斗の言う様に、何をむきになってるのだろうと自分でも大和は思っていた。
誰と何をしようが未来の自由。
未来が嫌がっているのならまだしも、そうでない以上自分が口を出すのはお門違いなのかもしれないが、しかし大和は最早未来の事を自分の弟の様に身近に思っていた。
「俺のっ?はぁっ?ばっかじゃないっ?お前のだけじゃないしっ、俺だって未來の先輩だよっ」
いつも穏やかな大和の常ならぬ剣幕に、海斗も影響され声を荒らげてしまう。
「おいおい、なんだよ海斗。お前まさか妬いてんの?未來に」
ぷりぷりとした海斗の態度に叶多がそう鎌をかけると
「なっ!?はぁっ!?何言って」
「か~わいいっ。そんなに大和が好きですかぁ~」
「っ!!なっ、そんなんじゃないっ」
否定の言葉を大声で発するも、その顔は真っ赤になっていて、なんて分かりやすい奴なんだと旬は思う。
「気持ちは嬉しいけど、馬鹿かお前は。相手を考えろよ、小学生だろ?」
海斗の慌て様にすっかり毒気を抜かれた大和は、いつも通りの穏やかな声色で、いつも通り海斗を宥めるポジションについたが
「っ!っだからっ、ちがうって言ってんでしょっ!ばっかじゃないっ!」
焼きもち?俺が未来に?
何でそうなるんだ。
何を言い出すんだ皆してと、わなわなと肩を震わせながら海斗は思った。
焼きもちなんて絶対妬くわけないだろうと。
※※※
2023年1月2日
未来が泊まるビジネスホテルから歩いて15分程でいける海岸。
ビジネスホテル内を一通り歩いた未来は、散歩がてらそこに来ていた。
すっかり夕闇に包まれた海を見つめ、未来はぽつりと言葉を漏らした。
「ちょっと遅すぎたな」
正月の海岸には殆ど人の気配はなく、静かな波の音だけが耳に寂しく届いてくる。
空に浮かぶ月は三日月。周りの街灯もまばら。
しばらくの間暗い海を堤防からただじっと見つめていた未来だったが、おもむろにコートのポケットからスマホを取り出すと、それを海へと向けてパシャリと1枚写真を撮った。
しかし画面に映るのはほぼ黒。
海を撮ったと添えれば、目を凝らせば確かにそうと見えなく
もないが、言われなければただの暗闇。
「ん~、綺麗なサンセットビーチを撮りたかったんだけどな」
うっすら苦笑いを浮かべながら、未来はそうぽつりと残念そうに呟いた。
2013年3月23日
夕日が丁度差し掛かった綺麗な海。
未来は百花と共に砂浜を歩いていたが、不意にそのあゆみを止めた。
そしてそれに気づいた百花がゆっくりと未来の方へ振り返った。
夕日が彼女の顔を柔らかく照らしている。
「好きなんだ。友達じゃなくてこういう意味で…」
未来は百花に近づくと、そっとその細い肩を抱いて、ふわりと掠める程のキスをした。
突然なそれに目を瞑る間もなかった百花は、そのまま立ち尽くすしか出来ないでいた。
「カット~!OKで~すっ。確認お願いしまぁす!」
しばらく見つめあったままでいた未来と百花の耳に、ADの笹本の声が届く。
未来は少し張り詰めていた神経を解し、軽く息を一つ吐いた。
良かった。無事終わりそうだ。
未来は人知れずそう安堵した。
そしてゆったりとした足取りで、少し離れた場所でモニターを確認しているディレクターの遠山の元へ向かっていると
「ねぇ未來君。どうだった?私とのキス」
未来の隣まで駆け寄ってきた百花が、そう小首を傾げて伺ってきた。
「え?どうって、んー、緊張したかな。こんな大勢の前でキスするなんて初めてだし」
とゆうかキス自体もつい最近までした事なかったんだけどねと、未来は心の中で自嘲した。
「私もっ。すごい緊張しちゃったっ。でも、ファーストキスが大好きな未來君とできて本当に嬉しいっ」
「あ~…、そう…。それはどうも…」
キャピキャピと弾むような声で言う百花に、未来はとりあえずの礼と苦笑いを浮かべた。
「でも今度は二人っきりの時にして欲しいな」
「え?」
「だけどそしたら私と付き合ってくれなきゃ嫌だけどね?」
綺麗な満面な笑みを浮かべそう言う百花に、未来はその意味を理解するのに時間がかかり、口をぽかんと開けたままでいると
「百花ちゃ~ん、ちょっとこっち来て~」
「はぁ~いっ。じゃぁね、未來君っ。また後でね」
そう言って、スタスタと去っていく百花の後ろ姿を未来は呆然と見つめていた。
撮影合間の待ち時間。
未来は斗亜と共に海岸沿いの公園で、並んでベンチに座り時間を潰していた。
足元に転がる小さな石を蹴りながら、未来は斗亜に百花の事を相談した。
「百花ちゃんはさ、僕が百花ちゃんの事好きだと思ってるのかな?だってあれは、私とキスしたかったら付き合わなきゃさせないよって意味だよね?でも僕は百花ちゃんの事好きじゃないし、キスしたいとも思わないし付き合いたくもないんだけど…」
少しげんなりと疲れた表情を浮かべ言う未来に、斗亜は小さなため息を一つ吐いた。
「だったらそうはっきり言わなきゃ駄目だよ。女の子って本当に図々しいから。特に野村さんみたいに少しでも外見がいい子は自分に自信持っちゃってるからね。だから君が自分を好きとかあり得ない勘違いを普通にするし、妄想もどんどん膨らんでっちゃうから」
斗亜にそう諭され、未来は大きな瞳を見開いた。
「まじっ?」
「まじ。本当に早めに目を冷まさせないと、その内勝手に付き合ってる事にされたりしちゃうよ?」
「えぇっ?そんなの困るっ。ってか嫌だよそんなのっ」
信じがたく恐ろしい展開に、未来は瞳を泳がせ戸惑いを露にした。
そんな未来に斗亜はぴしゃりとこう言い放った。
「でしょ?だったら言ってやりなよ。お前みたいなブス、眼中にねぇよって」
「っなっ?!」
なんて事を言うんだ、いや、言わせようとするんだこの人はと、未来は斗亜のとんでもないアドバイスに、しばらく空いた口をふせげずにいた。
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