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好き同士
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2013年3月25日
春休みに入り本格的なロケ撮影が始まった未来は、本日の仕事を終えてホテルに帰ってきていた。
華美ではないが清掃の行き届いたホテルの廊下を歩きながら、未来は大和や蒼真達に言われた事を考えていた。
斗亜とのキスの練習。
あの時はどうにも焦っていたからあまり深く考えないようにしていたが、でもよく考えたら、いや、よく考えなくても大和達が言う様に良くない事なのは未来にも理解できた。
自分だってそういう行為は好き同士でするべきだと思うし、それに自分はゲイではない。
普通だったら絶対に男とキスなどしないのだが、あの時は本当に切羽詰まっていた。
だから斗亜とキスをしてしまったのだが、しかしもうキスシーンは撮り終わったし練習する必要もない。
だから大和達に言われなくとも、斗亜とキスなんてする事はない。
そんな思いを胸に、未来は辿り着いた部屋のドアをノックした。
「斗亜君、いる??」
ドアを数回叩き呼びかけていると、がちゃりと鍵が開けられた。
「ん?未来、どうしたの?」
ドアを開き小首を傾げて立っていた彼に、未来は少し頼りなげな笑顔を向けながら話した。
「今ちょっと話せるかな?」
斗亜に快く招き入れて貰えた未来は、どうぞと促されたベッドに腰掛けていた。
そして自分の気持ちを隣に座る斗亜に話した。
「…ふ~ん、成る程ね。先輩達に好きじゃない人とキスしたら駄目って言われたから、もう僕とはしたくないって?」
未来の話を一通り聞いた斗亜は、そう話を簡潔にまとめて未来に伺いをたてた。
「その、勿論練習付き合ってくれて凄く助かったんだけど…。でも僕にそういう趣味はないから…」
少し罰が悪そうに話す未来に、斗亜は薄い笑みを浮かべた。
「そっか、そういう趣味はない、か…。嫌だった?僕とキスして」
「え?」
唐突な斗亜の質問に、未来は思わず言葉を詰まらせてしまう。
「気持ち悪かった?」
肩を落とし頼りなく笑いながら言う斗亜に、未来は慌てて否定の言葉を口にする。
「いやっ、そんな風には思わないけどっ」
「じゃぁ、僕の事嫌い?」
「なっ、そんな事ないよっ。好きだよっ」
最初こそ少し苦手意識を抱いていた未来だったが、斗亜と話すうちに彼と過ごす時間は悪くないと感じていた。
「本当?僕もね、未來の事大好きだよ」
「え、あぁ~、ありがとう…」
満面の笑みでとても嬉しそうに言う斗亜に、未来は少し気恥しい気持ちになり頬をほんのり赤く染めた。
「だからいいじゃん?」
「は?」
だからいい。え、何が?と、未来の頭の中には疑問符が浮かぶ。
「だって好き同士がキスしたら何で駄目なの?僕には全然解らないな。未來はそうは思わないかな?」
言われた台詞に少し面食らった未来だったが、にこりと綺麗な笑顔できっぱりとそう言われると、なるほどそうだよなと、あっさり納得させられてしまった。
※※※
ざぶんっと音を立て、豪快に湯船に浸かった琉空は、頭を風呂縁に預けると、ふぅーっと一息ついて心地良さそうに瞳を閉じた。
しばらく温かい湯を満喫した後、おもむろに体を起こし桶の中に置いておいた携帯を取り、彼お決まりのゲームタイムを楽しもうとしていた所、未来からの着信が知らせられた。
「…いや、でもお前はそういう意味で斗亜君の事好きなの?」
先程の斗亜との出来事。
それを未来から一通り聞いたのち、琉空は眉間に軽く皺を寄せながらそう言った。
「え?そういう意味って?」
「だから、付き合いたいとか恋愛対称って意味でさ」
やはり色恋事にうとすぎる未来に、心中で少し苛立ちながら琉空は未来に解りやすく言うと
「はぁっ?何で?僕はノーマルだよっ?そんな事思うわけないじゃんっ」
声を大にして反論してきた未来に、しかし琉空はどんな理由であれ、男とキスして不快じゃないのはノーマルではないと思うが、今はそこには敢えて突っ込まない事にした。
「だったらこのままそういうのしてるのって駄目じゃない?だって斗亜君はそういう意味でお前の事好きだと思うからさ」
先ずはそこ。
未来の趣向よりも、未来の思わせぶりな対応で振り回されてしまうだろう斗亜の事を琉空は不憫に思ったのだった。
2023年1月1日
仕事を終え寮にてシャワーを浴びた琉空は、部屋着の黒の上下スウェットを来て、首に掛けたタオルで髪の毛を乾かしながら自室のベッドに腰を下ろした。
テーブルに置いてあるスマホを取るとLINEの通知が数件。
しかしそこに未来からのものはなく、琉空ははぁ~と小さなため息を漏らした。
未来と出会って以来、こんなにも連絡を取らなかった事はあるだろうか。いや無い。
昔から些細な事で、自分たちは連絡を取り合っていたし、いつだって一緒にいた。
それなのに、何で今回は自分にも何も言わずに休業を決め、そして何の連絡も寄越してこないのか。
琉空は再びため息を吐いた。
苛立ちと悲しみの混ざったどうにももやるせない気持ち、それを吐き出すような深い深いため息を……。
春休みに入り本格的なロケ撮影が始まった未来は、本日の仕事を終えてホテルに帰ってきていた。
華美ではないが清掃の行き届いたホテルの廊下を歩きながら、未来は大和や蒼真達に言われた事を考えていた。
斗亜とのキスの練習。
あの時はどうにも焦っていたからあまり深く考えないようにしていたが、でもよく考えたら、いや、よく考えなくても大和達が言う様に良くない事なのは未来にも理解できた。
自分だってそういう行為は好き同士でするべきだと思うし、それに自分はゲイではない。
普通だったら絶対に男とキスなどしないのだが、あの時は本当に切羽詰まっていた。
だから斗亜とキスをしてしまったのだが、しかしもうキスシーンは撮り終わったし練習する必要もない。
だから大和達に言われなくとも、斗亜とキスなんてする事はない。
そんな思いを胸に、未来は辿り着いた部屋のドアをノックした。
「斗亜君、いる??」
ドアを数回叩き呼びかけていると、がちゃりと鍵が開けられた。
「ん?未来、どうしたの?」
ドアを開き小首を傾げて立っていた彼に、未来は少し頼りなげな笑顔を向けながら話した。
「今ちょっと話せるかな?」
斗亜に快く招き入れて貰えた未来は、どうぞと促されたベッドに腰掛けていた。
そして自分の気持ちを隣に座る斗亜に話した。
「…ふ~ん、成る程ね。先輩達に好きじゃない人とキスしたら駄目って言われたから、もう僕とはしたくないって?」
未来の話を一通り聞いた斗亜は、そう話を簡潔にまとめて未来に伺いをたてた。
「その、勿論練習付き合ってくれて凄く助かったんだけど…。でも僕にそういう趣味はないから…」
少し罰が悪そうに話す未来に、斗亜は薄い笑みを浮かべた。
「そっか、そういう趣味はない、か…。嫌だった?僕とキスして」
「え?」
唐突な斗亜の質問に、未来は思わず言葉を詰まらせてしまう。
「気持ち悪かった?」
肩を落とし頼りなく笑いながら言う斗亜に、未来は慌てて否定の言葉を口にする。
「いやっ、そんな風には思わないけどっ」
「じゃぁ、僕の事嫌い?」
「なっ、そんな事ないよっ。好きだよっ」
最初こそ少し苦手意識を抱いていた未来だったが、斗亜と話すうちに彼と過ごす時間は悪くないと感じていた。
「本当?僕もね、未來の事大好きだよ」
「え、あぁ~、ありがとう…」
満面の笑みでとても嬉しそうに言う斗亜に、未来は少し気恥しい気持ちになり頬をほんのり赤く染めた。
「だからいいじゃん?」
「は?」
だからいい。え、何が?と、未来の頭の中には疑問符が浮かぶ。
「だって好き同士がキスしたら何で駄目なの?僕には全然解らないな。未來はそうは思わないかな?」
言われた台詞に少し面食らった未来だったが、にこりと綺麗な笑顔できっぱりとそう言われると、なるほどそうだよなと、あっさり納得させられてしまった。
※※※
ざぶんっと音を立て、豪快に湯船に浸かった琉空は、頭を風呂縁に預けると、ふぅーっと一息ついて心地良さそうに瞳を閉じた。
しばらく温かい湯を満喫した後、おもむろに体を起こし桶の中に置いておいた携帯を取り、彼お決まりのゲームタイムを楽しもうとしていた所、未来からの着信が知らせられた。
「…いや、でもお前はそういう意味で斗亜君の事好きなの?」
先程の斗亜との出来事。
それを未来から一通り聞いたのち、琉空は眉間に軽く皺を寄せながらそう言った。
「え?そういう意味って?」
「だから、付き合いたいとか恋愛対称って意味でさ」
やはり色恋事にうとすぎる未来に、心中で少し苛立ちながら琉空は未来に解りやすく言うと
「はぁっ?何で?僕はノーマルだよっ?そんな事思うわけないじゃんっ」
声を大にして反論してきた未来に、しかし琉空はどんな理由であれ、男とキスして不快じゃないのはノーマルではないと思うが、今はそこには敢えて突っ込まない事にした。
「だったらこのままそういうのしてるのって駄目じゃない?だって斗亜君はそういう意味でお前の事好きだと思うからさ」
先ずはそこ。
未来の趣向よりも、未来の思わせぶりな対応で振り回されてしまうだろう斗亜の事を琉空は不憫に思ったのだった。
2023年1月1日
仕事を終え寮にてシャワーを浴びた琉空は、部屋着の黒の上下スウェットを来て、首に掛けたタオルで髪の毛を乾かしながら自室のベッドに腰を下ろした。
テーブルに置いてあるスマホを取るとLINEの通知が数件。
しかしそこに未来からのものはなく、琉空ははぁ~と小さなため息を漏らした。
未来と出会って以来、こんなにも連絡を取らなかった事はあるだろうか。いや無い。
昔から些細な事で、自分たちは連絡を取り合っていたし、いつだって一緒にいた。
それなのに、何で今回は自分にも何も言わずに休業を決め、そして何の連絡も寄越してこないのか。
琉空は再びため息を吐いた。
苛立ちと悲しみの混ざったどうにももやるせない気持ち、それを吐き出すような深い深いため息を……。
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