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第1章 蒼月の侍

六話 もう一人の特異点

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―――狂座本部―――


エルドアーク宮殿内戦略広間ーー


「ル~ヅキ☆」


ーーうむ、参った……。


あれ以来ユーリは殊更、私に纏わり付いてくる。いや別に迷惑という訳では無いし、むしろ慕ってくるユーリが可愛く思う。


とはいえ一目憚らず、べったりしてくるのはどうかと。最近では私の寝室にまで潜り込んでくる始末だーー


「おやおや、仲が宜しい事ですね」


そんな二人の微笑ましい光景を見て、ハルが言葉を紡ぐ。


「そんな事よりハル。何かあったから、此処に呼んだのではないのか?」


そう、戦略広間内で仲良くお話する為に呼んだ訳ではあるまい。


「少し、いやかなり厄介な問題が起こりましてね」


ハルは真顔になり、指で眼鏡の額縁を整える。


「どしたの? ハルがそんな風になるなんて珍しいね☆」


ハルが眼鏡を整える時は、何か厄介事があった時の癖だ。


それに比べてユーリはそんな事、お構い無しと言わんばかりに、ルヅキの腰に両腕を回してくっついている。


「肥後熊本城攻略に向かっていた第十二軍団ですが、軍団長アルマ含む軍団員全員の生体反応消失の知らせがありました……」


ハルは冷静にその主旨を伝える。


「えっ!?」


「何だと!?」


ハルのその言葉の意味は、場の空気を一変させ、引き締めるには充分であった。


「でも肥後にそんな強い奴いたっけ?」


ユーリの疑問は尤もだ。軍団長と対等に闘えるともなると、個人に於いて少なくとも“剣聖”クラスの侍レベルは必要不可欠。


剣聖クラスの人間等、そう居るものでは無い。


しかも軍団長含む、全員の生体反応が消失している。


第十二軍団全滅という事実を考えると、圧倒的な数の論理で呑み込んだか、或いは個人の実力が超絶的に突出しているという事になる。


それは即ち、レベル上限超えーー臨界突破者。


“まさか……”


「そのまさか、かも知れません……」


ハルがルヅキの思考を代弁するかの様に語る。


「アルマのサーモに裏コード移行の形跡を受信しています。信じ難いですが、恐らく特異点の仕業かと」


“やはりか”


「特異点!  “アイツ”の事だよね!?」


特異点の単語にユーリが過剰反応する。アイツとは勿論、ユキの事を指す。


“無理も無い……。私もその事実に気が気では無いから。でもーー


「ちょっと待てよ?」


ルヅキは自分で言って気付いた。


「特異点の仕業だとしたらおかしくないか?  奴の居る場所と肥後とでは、地理的に全くの逆方向だぞ」


明らかに状況が不自然な事に。


「えぇ~と……」


ユーリはルヅキの言っている意味が分からず、二人の顔を交互に見回す。


「厄介な事とは、正にそれなんですよ」


ハルの眼鏡を人差し指で調整する癖が、また一段と増える。


「アザミを倒した特異点の仕業と考えるには、時間的にも有り得ない事ですし、何よりわざわざ肥後にまで出向いて軍団を潰す理由が考えられません」


ハルの言いたい事は、二人にも伝わった様だ。


「考え難い事ですが、事実はきちんと受け止める必要があります」



詰まるところーー


「四死刀以外にも、特異点は二人居る……と?」


その事実を口にした時、ルヅキの美しい顔立ちから困惑と驚愕の表情を以って、額から一筋の冷汗が流れ落ちる。


「そんな事って……ルヅキ!」


そんな彼女の表情を見て、ユーリはより一層ルヅキの腰に強く抱き着くのであった。
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