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令嬢の知らない陰で
しおりを挟むその夜。
卑猥な声が各部屋に聞こえる建物の中に、コンラッドは居た。
「いいか、くれぐれも売り物にするなよ!彼女は俺の女なんだ、助けを請う迄は手出し無用だからな!」
「分かってますって……ご贔屓にしてくれている方だ、金さえ積んでくれりゃ俺達は………なぁ?」
「そうそう……お任せ下さいよ……なんなら貞淑になる様に調教なんて事もしときますぜ?」
「…………調教?」
「勿論、純血は守りますって………破瓜は旦那になるアンタがすればいい」
「まぁ、その分上乗せ貰いますがね?」
娼館なのか、主と竿師だろうか、金欲しさにコンラッドを唆す。
「…………純血を守るなら許す……貞淑で従順な女に仕上げてくれるならな」
「へへへ……任せて下さいよ、コンラッド様」
「いつ、連れて来て貰えても良い様に、準備しときますよ」
「頼む」
この日、コンラッドは兼てより計画していた事を実行しようとしていた。
婚約者セシリアがコンラッドに好意を持っていないと知ったからだ。今迄も、コンラッドの女遊びに注意はされていたが、コンラッドは懲りずに女遊びをしていた。
貴族の男の女遊び等、一般的で既婚者の大半は愛人を囲っている。だが、コンラッドは内緒に出来る程器用ではないので、セシリアの黙認も必要なのだ。それなら浮気しなければいい、という考えはコンラッドには無い。
貴族の男が愛人を持つ事は、社交の場では一種のステータスとされているからだ。それ程、コンラッドの周りには女遊びをする貴族の男達が多いと見える。
「フッ………これで後は、セシリアを拉致し閉じ込めれば、俺に助けを求める筈だ……娼館で数多く男を相手するよりか、俺1人で済むんだからな……」
何故、セシリアがコンラッドに助けを求めるとコンラッドは思っているのかが謎ではあるが、コンラッドはコレが名案な考えだと思っていた。
そして、数日後。セシリアは以前から予定していた、コンラッドに会いに行く馬車が襲われたのである。
「この馬車がターナー伯爵家の物だと知っての狼藉か!」
御者が護衛兵と共に、暴漢者達の妨害を阻止しようとしている。
「な、何事なの!?」
「襲われている様です、お嬢様!」
馬車の中でお互いにしがみつく様に抱き合うセシリアとマーシャ。
「馬車には防御魔法の装備されている筈よ、襲われても馬車迄は………」
「でも護衛がもし………」
このエヴァーナ公国には魔法が存在し、魔法で守られてはいるが、その魔法より強い魔法が使われたら負けてしまう。
「ゔっ!」
「お逃げ下さい!お嬢様!…………ゔぁぁぁっ!」
「お、お嬢様………」
「逃げるわよ、マーシャ!」
馬車の護衛が負けたとなれば、馬車に装備された防御魔法等破られてしまうだろう。
「は、はい!」
―――私の魔法が施されている馬車だもの……こんな魔法では破られてしま……
ガチャ、と馬車の両方の扉が開けられる。
「っ!」
「この女だな」
「そうだ、カーター伯爵令嬢、セシリアだな?」
「お逃げ下さい!お嬢様!」
マーシャが暴漢者を押さえ込もうとタックルするが、女の力では敵う訳はない。
「ゔっ!」
暴漢者に気を失わされてしまったマーシャ。
「マーシャ!何をするのです!こんな事をしたのは、カーター伯爵である父への恨みですか!?」
「さてね………一緒に来てもらうぜ、お嬢様よ」
「っ!……離しなさい!!」
暴漢者に攻撃魔法を繰り出すセシリアだが、まるで効かない。
「へっ……ここ一体、魔法を無効化する高度な魔法具使ってるんでね、アンタはただのか弱気お嬢様だ」
「無効化ですって!」
かなりの使い手でなければ魔法を無効化にする魔法等は使えない為、魔法具が使われる事もあるが、その様な魔法具は高額な物だった。それを惜しげもなく使ってセシリアを拉致しようとするのはよっぽどの事なのかもしれない。
人1人の魔法を押さえ込める魔法具はあるのだが、この暴漢者達の持つ魔法具はその力を上回っている。範囲はセシリアには分からないが、鍛えている護衛兵達を倒したとなれば、腕も立つ暴漢者達だろうと思われ、セシリア1人で逃げれる可能性等は皆無に等しい。それに、セシリアはマーシャを放置する事等出来ない。
「彼等は如何するのです」
「こいつ等には用は無い、このまま捨て置く」
「命は無事でしょうね?」
「アンタの侍女は気絶させただけだ……護衛達は命の保障は知らねぇな、こっちも危ない橋渡ってるんでね」
顔を兜で隠して武装している暴漢者達。しかも鎧や兜に刻まれている紋章はバラバラで、身元が特定等出来ない。
エヴァーナ公国の騎士達の鎧や兜は、所属によって紋章が彫られていて、紋章を見れば身元特定をしやすくなっている。
「私を如何するのです?」
「雇い主に聞くんだな、俺達はアンタを連れて行くだけなんでな」
前にも後ろにも暴漢者に挟まれてしまっていて、逃げ場は無いのだ。
―――辱めを受けるぐらいなら此処で死を選ぶ方が……
だが、そうでなかったら無駄死になってしまう。考える猶予も無い中で、選択肢は連れて行かれるか、隙を見て逃げ出すしか無い。
「あっ!」
本当に危険に晒されている時に、考え込んでしまうと、駄目だったのに気付かされてしまったセシリア。
背後から、手枷をされてしまい馬車の椅子に引っ張られ倒れてしまう。
「悪いが、連れて行くぜ、お嬢様よ………この手枷も魔法を無効化する魔法具だからよ、無駄に体力使わねぇ事だ」
「私を何処に連れて行くと言うの!」
「それも言えねぇな………目隠ししろ!」
「い、嫌っ!」
はしたないが、足をバタつかせ抵抗しようとするが、鍛えている暴漢者達には痛くも痒くも無いだろう、可愛い抵抗の様なものだった。
「必死に抵抗しようとしても無駄だぜ、お嬢様よ」
「…………っん!」
口や鼻に何かを当てられ、匂いを嗅いでしまったセシリア。その匂いで頭がクラクラし始めてしまい、気を失ってしまった。
❆❆❆❆❆❆
「ほぉ……いい女ですな」
「やらんぞ!いいか!娼婦にしようとするな!俺に助けを求めたら、直ぐに知らせろ!いいな!」
「分かってますよ、コンラッド様の名を出した時点でお知らせしますって」
まだセシリアが目を覚ます前のやり取りだ。
コンラッドが、娼館にセシリアを監禁し、娼婦さながらな淫靡な淑女に仕立てあげさせようとしている。
セシリアには『婚約者の浮気相手から、嫉妬に狂い婚約破棄をさせる為、セシリアを拉致し、浮気相手が新たにコンラッドと婚約したから、コンラッドも満更では無いのもあり、令嬢との結婚にセシリアが邪魔になった事で娼館に売られた』と娼館の主に言わせるつもりだった、コンラッド。そうすれば、理由を聞くのに、事実無根だと抗議する為に、セシリアはコンラッドを呼び出す筈だと踏んでいる。
娼館に売られるぐらいなら、コンラッドの婚約破棄に異議申し立てしてくるだろう、と勝手に解釈していた。
何故なら、セシリアの両親もコンラッドの両親もセシリアとコンラッドの結婚を望んでいるという、セシリアも知っている事実があるから、セシリアが何を言おうとも、婚約破棄等させるつもりもコンラッドもするつもりも無いからだ。
「漸く、手に入るぞ……セシリア」
眠るセシリアの寝顔を見つめるコンラッド。
「そろそろ薬が切れますよ、コンラッド様……ご覧になりたいでしょうが、アンタはこの部屋に居ない方が良いんではないですか?」
「そ、そうだな………では宜しく頼む」
「お任せを」
コンラッドは部屋から出て行き、娼館の主と竿師であろう男が、セシリアを見守る。
「…………歪な愛情表現だな、コンラッド様は」
「頭おかしいっすよ………勿体無いぐらいいい女ですね、娼婦にしちまいましょうよ」
「阿呆……没落貴族の令嬢ならいざ知らず、カーター伯爵はエヴァーナ公国屈指の名門家系だぞ………商売出来なくなっちまう」
「………ちぇっ……味見も出来ねぇんじゃ、生殺しですよ旦那」
「仕方あるまい」
こうして、セシリアはこの娼館に閉じ込められたのだった。
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