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再び監禁
しおりを挟む箱に入ったセシリアは、荷馬車に乗せられた。
「セシリア」
厳重に蓋をさせられた箱を開けられ、ヴェルリックの顔が覗く。
「お兄様!」
「良かった………元気そ………な、何だその姿は!」
「………コレしか無い、と言われて……早く服が欲しいです………」
セシリアは箱から身体を乗り出し、兄ヴェルリックに抱き着いた拍子で下着の上に羽織ったシーツが開けて落ちてしまい、ヴェルリックを驚かせた。
「娼館………だったものな……服は今から行く場所にマーシャが用意して待っているから安心しろ」
「家に帰るのではないのです?」
「家に帰ったらコンラッドが乗り込んで来るぞ」
「…………あ、あの……私は婚約破棄出来たのですか?」
「あぁ、父上が思い腰を漸く上げた……今頃、婚約破棄の申し出を通達している筈だ」
「…………良かった……あ!襲われた護衛や御者は無事ですか?」
セシリアはマーシャの名を聞き、暴漢者達に襲われた者達の心配をする。
それを見て、安心させる様にヴェルリックはセシリアの頭を撫でた。
「安心しろ………皆、重傷ではあるが生命は無事だ」
「…………良かった……」
「心優しいお前の事だ、お前が御者や護衛達を心配する様に、皆もお前を心配し、屋敷の中は喪に服した様だったが、それももう終わる」
「それなら、一度帰った方が………」
「そう思うだろうが、今は駄目だ……コンラッドの動向が読めない」
「…………では、お兄様……私の安否を皆に伝えて下さいね!必ずですよ?」
「分かっている……それと……お前にコレを」
ヴェルリックがポケットから出した物をセシリアの首に掛けた。
セシリアはその首に掛けられた物を手に納める。
「ネックレス?………綺麗な緑……エメラルドですね、私の瞳の色ですが……」
「これは、魔力抑制効果の魔法具にしている………無効化にしていたから、いきなり開放すると、暴走しかねないからな」
「それで、私に合う色のエメラルドのネックレスなのですね?………でも、この色……若干薄い様な………」
「ゔっ……ま、まぁな……急に誂えた物だからかも………」
何故か焦るヴェルリック。
急に誂えた物だという割には凝った細工のネックレスであるのだが、セシリアはとてもそのネックレスを気に入る。
「素敵です……お兄様、ありがとうございます」
「言っておくが………私が用意した物では無い」
「お父様ですか?」
「いや、父上でもない………別の方だ」
「別の方?…………コンラッド様だったら外しますよ?」
コンラッドがこんな気の利いたプレゼント等する訳はない。何故なら、彼は緑の物をセシリアが身に付けていると怒っていたからだ。コンラッドの瞳の色は青い。その為に、セシリアには青系色の小物やドレスを身に着けさせたがっていた。
「コンラッドからなら、私も突っ返す」
「………でも、見知らぬ方からのは頂けません」
「見知らぬ方では無くなるから、受け取っておけ………いつまでもその様な卑猥な姿で居るつもりか?」
「………こ、この下着は、魔法具ではありません!」
「箱が魔法具と言っていたな………」
ヴェルリックが、荷馬車の外を覗く。
荷馬車からは外は見えない様になっていて、セシリアは何処に向かっているのかも分からないまま乗っていた。
「もう、そろそろ着く。箱を閉じるから物音立てず、動きも最小限にしてくれよ…………今から入る場所から、俺が開ける迄はな」
「厳重なのですね」
「そうだ………これもコンラッドに知らせぬ様にしている」
「…………そこ迄警戒されなくても……コンラッド様は頭が弱い方ですよ?」
「それは知っている……それでもあの行動力には困る事もあるからな」
「…………そうですね」
頭が悪いのに、行動力があるコンラッドのせいで、セシリアは危うく娼婦になる所だったのだ。しかも辱め迄受けて。
「頭気を付けろよ、セシリア」
「はい」
再び、箱の中に蹲り、セシリアはジッとしていると、荷馬車は止まった。
『この荷物は?』
『仕事の資料だ』
『中身を確認しても宜しいですか?』
『魔法具も入っている。抑制も無効化もしていない危険な魔法具の回収した物を、箱で制御しているんだ、開けたら暴走するぞ』
『わ、分かりました……ヴェルリック卿を信用致しますから……』
―――お兄様の立場を慮る程の施設かしら
ヴェルリックの身分が分からない場所ではそうはいかないかもしれない。知っている場所だからこそ、信頼性により大目に見てくれたのだろう。
箱毎、セシリアは台車に乗せ変えられ、徒歩で運び出された。ガタガタと揺れる振動で、セシリアはお尻が痛くなり、我慢しながらの移動する事数分、漸く台車が止まった。
「セシリア」
「…………痛いです!お兄様!もっと丁寧に運んで下さいます?」
「すまないな、段がある場所は如何してもガタガタしてしまってな」
「お嬢様!」
「え?…………マーシャ!良かった!無事で!」
ヴェルリックと共に箱を覗いていた侍女のマーシャ。感極まりマーシャにセシリアは抱き着かれた拍子で箱が倒れそうになるのを、ヴェルリックは押さえた。
「こらこら、箱から出てからやりなさい」
「も、申し訳ありません、ヴェルリック様、お嬢様………とても心配していたんです……」
「それは分かっている……マーシャ、セシリアにドレスを着せてやってくれ」
「…………ま、まぁ!お嬢様!なんてお姿に!」
「こ、これには事情があったの!マーシャ、早く服を」
「は、はい!」
マーシャがセシリアのドレスを準備する為に離れ、ヴェルリックはセシリアを箱から出すのを手伝う。
「ありがとうございます、お兄様」
「私は、少し部屋から外れる……後でまた話をしに来るから」
「ここが何処かもお話してくれませんの?見た所、とても急誂えした部屋にも見えませんし、調度品も高級品ばかりな様で………」
「それも後で説明する」
「…………分かりましたわ」
政に関わる仕事をしているヴェルリックなのだ。事情もセシリアに説明出来ない事であれば、口を噤むだろう。そのままヴェルリックが部屋を出て行くと、マーシャがドレスを持って来た。
「さぁ、お嬢様」
「ありがとう、マーシャ」
「この様なお姿でずっと過ごされていたのですか?」
「…………ま、まぁ……そうね……」
セシリアが何処に居たのか、マーシャが知っているのか知らないのかが分からないのに、どう過ごしていたのか等言って、マーシャが傷付くのでは、と思うと、セシリアは濁すしか出来なかった。
「マーシャは此処が何処かは知っているの?」
「はい、存じております………ですが、ヴェルリック様よりお嬢様には、この場所は伏せる様に、と箝口令がありまして、お伝え出来ません…………申し訳ありません、お嬢様」
「マーシャも教えてくれないの?」
「…………お嬢様の為でございます」
「何?私の為、て………」
ドレスでやっと肌を隠せる事が出来たセシリア。外の空気をやっと吸える、と安堵したのも束の間、窓にセシリアが手を触れると、防御魔法に守られていて、窓を開ける事も出来ない。
―――外からの防御?………それとも私が出ない様に?
「…………また監禁かしら……」
「違います!お嬢様をお守りするのに必要な事だと!」
「………いいわ……とりあえず事情とやらを聞いてから、私の処遇を考えましょう」
「………お嬢様……これは、旦那様とヴェルリック様の苦肉の策でございますから」
「私は、婚約破棄出来たのよね?」
「……………出来たのか如何か迄は私には分かりません………私もお屋敷に帰る事が出来ず、こちらでお嬢様のお世話をする様に、と申し付けられたので………旦那様とヴェルリック様よりお話は聞いてはおりますが、お屋敷内の事を詳しくは……」
「貴女もここで監禁されているの?」
「監禁はされていません!………お嬢様も身の安全が保障されたら、帰れると思いますし、外にも出れると思います」
「…………要は、それ迄は、という事ね………考えても答えはまだ出ないのね、分かったわ」
防御魔法を掛けられた窓枠にも触れないセシリア。パチパチと指が防御魔法で阻止された感触を確認すると、セシリアより強い魔力を持つ者の魔法だと分かる。セシリアが勝っていたら、破られているだろう。
―――巧みに練込まれている……この魔力で誰か分かるかと思っていたけど、私の知っている魔力ではないわ……
知り合いであれば気配で分かると思っていたが、セシリアは感じた事のない強力な魔力の持ち主を来る迄待ってみる事にした。
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