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エピローグ

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 1年半後。
 城内は慌ただしく、リュシエールは仕事に手が付かない。ペンをクルクルと回してやる気が見られない。

「仕事して下さいよ」
「出来る訳はないじゃないか……リアが苦しんでいるのに………」
「産まれたら連絡入りますよ」

 セシリアがリュシエールと結婚し、多忙も重なり避妊魔法を解呪しても、子を妊娠しなかったセシリア。
 それが、待望の子が産まれる。陣痛が朝から来ていて、医師も待機しているが、このリュシエールとヴェルリックとのやり取りは昼過ぎだ。

「こんなに時間が掛かるのか!」
「知りませんよ………母がセシリアを産んだ時の事も覚えてませんし」
「私は、兄弟居ないしな……あぁ……リアは大丈夫なのか……」
「仕事今の内にやり貯めしておいて下さいね」
「何故だ!」
「お子が産まれたら、仕事サボりそうですから」
「構わないじゃないか!魔法具の開発が上手くいき、昨年迄問題だった獣が街を襲わなくなったんだ……今はそれ程忙しくはない……」
「何を言ってるんですか、獣問題だけじゃないですよ?お子が産まれたら、陛下は公王を降りると仰っているんですよ?それにより、殿下は戴冠式や引き続き等………」

 会話を遮る様に、リュシエールが話をしている最中にヴェルリックが言葉を乗せるが、リュシエールも負けてはいない。

「父上の退位は許していない!まだお若いんだ!私はまだ公子でいい!」
「忙しくなるのが嫌なだけじゃないですか」
「当たり前だ」

 公王としての素質があるのに、まだ公子でいいと言うリュシエール。

「私の父は、退位をお止めしている様ですが」
「カーター伯爵だけではない、他の臣下達も引き留めているのは聞いている。だからこそ私は父上の下でまだ学びたい」
「…………おや、こ自分からとは、どんな心境の変化ですか?嫌いな事は嫌々やって来られた殿下が」

 リュシエールは子供の頃から器用ではあったが、公子らしくしていただけの為、自ら学びたいと言うのは珍しい様だ。

「リアのおかげかな」
「………あぁ……仕事しないのは駄目です、嫌いになりますよ、とか言われましたか………」
「っ!…………何故分かった!」
「今も、とか?」
「……………ぐっ……」

 そう、リュシエールは傍に居たいのに、セシリアが陣痛で苛々していて、リュシエールが煩いから追い出されたのだろう。執務室で仕事と称し、何も手に付かないのは、リュシエールが落ち着かないからだった。ただは口実で、セシリアが怒るから、セシリアに良く見せたいのだろう。

「図星でしたか………セシリアは殿下のを掴みましたか」
「なっ!」

 リュシエールはセシリアに操縦されているとは思ってはいないが、ヴェルリックから見れば操縦されているらしい。

 コンコン。

『公子殿下、公子妃殿下ご無事にご出産されました!』
「!…………本当か!」
「殿下、早く行って下さい」
「当たり前だ!」

 リュシエールの手のひらから風が起きる。

「え!普通に行って下さいよ!」

 ヴェルリックの静止は当然だ。数多く積み上げられた書類や本が、リュシエールの手で巻き上げられ舞うのだから。

「面倒くさい!」
「ちょっと!私だって、叔父になるんですから行きたいんですよ!」
「後は頼む」

 フッ、と風の中に消えたリュシエールの執務室は、もう散らばった書類や本でごった返していた。

「絶対………移動願い出して、殿下の部下止めてやる………」

 ヴェルリックが睨みつける書類達の山に誓っていた。
 一方、寝室に来たリュシエールは、ぐったりしているセシリアに駆け寄る。

「リア!」
「…………リュシー様……産まれましたよ」
「何処に居る?」
「公子殿下、只今お子は産湯に浸かっていますので、暫しお待ち下さい」
「どっちだ?男?女?」
「男の子です」
「…………そうか……何方でも良かったが………エヴァーナ公国に世継ぎが産まれたんだな……」
「名前、決めてもらえますか?リュシー様」

 まだ見られない子に会いたくてそわそわしているリュシエールに、セシリアがお願いする。

「まだ顔も見てない……あぁ、早く見たいよ」
「私もです………血だらけでしたから綺麗になった顔はまだ見れていませんから」

 バスルームから、包まれて侍女に抱かれて戻って来る我が子。小公子となるセシリアとリュシエールの子はとても小さく見える。

「公子殿下、公子妃殿下………おめでとうございます……小公子殿下はとてもお元気なお子ですよ」

 バスルームから聞こえた鳴き声は元気な声だったのだ。その声がまだ続いている。

「お腹が空いているのでしょう……公子妃殿下、抱いて母乳を飲ませてあげて下さい」

 医師の言葉により、侍女がセシリアに抱き渡すと、セシリアは胸を出し、胸に顔を近付けた。
 初めて与える母乳と与えられる母乳は、なかなか上手く飲ませられないし、飲んでくれない。

「口元の傍に持って行くと、咥えてくれますよ」
「あ、はい……………あ………飲んで………」
「っ!」

 セシリアの傍でリュシエールも子の顔を覗いていたが、セシリアの乳を飲む子の姿を見て、涙腺が緩んだ。
 一生懸命飲もうとする生命力に、セシリアも涙が溢れる。

「…………リア………ありがとう……大変だったね」
「………ゔっ………はい………リュシー様……リュシー様もおめでとうございます」
「………可愛いね………私達の子は」
「はい………」

 2人で涙ぐみ、その姿を侍女や医師達は微笑ましく見守り、涙が釣られていたのだった。

         ~𝓗𝓪𝓹𝓹𝔂 𝓮𝓷𝓭~

 
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