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波乱の婚約の幕開け

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「シュナク王太子」
「…………酷いなぁ、ロティシュ皇太子………人の婚約者候補で口説いていた横から掻っ攫う等……」

 シュナクはワイン片手に、苦笑いをしている所で、アリエスを連れたロティシュに嫌味を再会後、早々に言い放った。

「謝罪はするつもりはありません………ずっと、片恋だった想いが通じ合えたんだ。この想いは俺が産まれた時から培われた物………つい最近現れた男に奪われたくありません」
「…………え?……ロティ様?」
「うわぁ………重っ………父に聞いたが、20年前の戦争で、随分とロティシュ皇太子の父上、モルディア皇帝の、妃への執着は随分と耳にしたものだ………それと妃のはとこだと言う男の執着心もな。モルディア皇国と言い、ジェルバ国と言い、その神人の血は執着心の塊なのか?」
「…………そう、思って頂いて結構です。もし、彼女に指1本でも触れたら、コルセア国滅ぼされる覚悟でいて下さい」
「ロティ様!何を!そんな事口にしては駄目です!歴史を学ばれて下さい!申し訳ありません!シュナク殿下!………ロティ様!謝罪して下さい!」

 アリエスがモルディア皇国の歴史を学んでいるからこそ、静止するロティシュの言葉。
 ロティシュの腕を放し、ロティシュの前に出た。

「アリエス………その覚悟を持ってくれ、と言っただけだ。俺だって父上達が努力してきた事を、俺が無かった事にするつもりはないよ。そんな事をしたら父上にそれこそ、皇太子を降ろされるどころか、国を追い出される。俺だって、俺の治世でこのモルディアを発展させたいんだから」
「だが、コルセアはモルディアの力が欲しい………アリエスが無理なら、他の誰か戴きたいが?」
「そんな事は滞在中、白銀の髪、白銀の瞳の女を口説けばいいんです…………父上がと言えば、ですけどね。力の悪用は、モルディア皇国ではあってはならない。そう法律が出来る程、力を制御しなければならず、例え他国に嫁いだからといって、その法律を無効にさせる程、甘く容易い力ではないんですよ」
「……………それでも、誰かコルセア王太子の俺に嫁いだとしたら?」
「嫁いだ女から神力を悪用したのなら、その1人の過ちにより、我々モルディア皇国の神力は永遠に消える事でしょうね」

 脅しとも見えるロティシュの言葉は自信に満ち溢れ、アリエスも一皮剥けた様なロティシュに驚いている。

「アリエス」
「は、はい………シュナク王太子のエスコートは頼んだ。靡くなよ」
「な、靡きません!」
「夜会終わったら、俺もアリエスの誕生日を祝わせて貰うから、部屋に来いよ」
「っ!」

 嫉妬丸出しになると思っていた。
 暫しの別れにも惜しむのでは、と思っていたアリエスだが、ロティシュは堂々とした態度。こんなにも想いが通じ合うと人間、こうも変わるのか、とアリエスは付いて行けていない。

「誕生日なの?アリエスも」
「え!…………あ、数ケ月程前に……ロティ様は毎年ご自分のお誕生日に私の誕生日もお祝いしてくださいてまして」
「へぇ~………を気にしてるんだ……」
「聞こえてるんで!」
「だって、なんだろ?」
「っ!良いだろ!別に!貴方に関係あります?」
「心狭いね、ロティシュ皇太子は」
「言われなくても分かってますから!いいな!アリエス!夜会終わったら直ぐに俺に会いに来い!」
「……………はい……」

 ロティシュは小さな拘りをシュナクに見透かされて、照れ臭く去って行ってしまった。

「アリエス、苦労しそうだな」
「……………それでも、わ………わ、私が好きな人なので……産まれた時から知った方ですから」

 アリエスもロティシュを好きだと、本人に言えたから、やっと隠す事を止められた。素直に、正直に話す事が出来るのは、アリエスにも自信が付いた様だ。

「……………当て馬にされたなぁ……連れて帰りたかったんだけど………」
「お断りしてましたよ、ロティ様からの想いが分からなかったとしても」
「何で?」
「私、一夫一妻が良いんです。皇帝陛下や皇妃様、私の両親の様な関係が………憧れで……結婚するなら、そういう関係でありたくて」
「……………そっか……だが、まだ俺の滞在期間はあるから、ロティシュ皇太子との時間より優先してくれないと、外交関係が崩れるからね?アリエス」
「分かってます………私は私のするべき事を精一杯行うだけです」
「じゃあ、手始めに1曲踊ってくれ」
「えっ!」

「……………は、はい……」

 シュナクに手を差し出され、アリエスは外交をチラつかされたら、断わる事も出来ない。
 あれ程、相思相愛のルカスやマシュリーで、ルカスでさえも外交で他の女性と踊らなければならない事も、マシュリーも踊っている事も見ている。
 だが2人は大人で、もう信頼しきっている関係だからか嫉妬は、その場では見せる事は無かった。
 踊りの輪に、シュナクによりエスコートされ、アリエスも踊りに付き合うと、視界には不機嫌極まりないロティシュが腕を組んで、アリエスを睨んでいたのを、ルカスやマシュリーに宥められていた場面を見てしまった。

「表情豊かだが、大丈夫か?あの皇太子」
「わ、私に聞かないで下さい…………後が怖いので………」
「嫉妬を全部受け止めて、明日の予定を狂わせないでくれよ?明日はモルディアー二の城下町を視察予定なんだから」
「わ、分かってます………」

 踊りが終わったとしても、アリエスはシュナクから解放されない。折角のロティシュの誕生日なのに、苛立ちが積み重なるロティシュの顔は、鬼の形相と成り代わっていた。
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