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本当の思い人
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しおりを挟む謁見の間の惨事から、数日後。
フローレスを含む、アリエスに危害を加えようとした令嬢達が再び登城した。
それ迄は特に拘束させる事もなく、各屋敷の監視下に置かれただけの扱いだった令嬢達。
余程、フローレスの神力の暴走が怖かったのだろう。見学人も少なく、令嬢達も大人しく、フローレスとは距離を取って並んでいる。
「アリエス様………申し訳ございませんでした………此方はお返し致します」
「フローレス嬢………もう、大丈夫ですか?落ち着かれました?」
「っ!…………わ、私がした事を………怒らないの?」
フローレスの目は泣き腫らした痕があり、疲れ切っていて、今迄の華やかな印象とは真逆だった。
それなのに、取り巻きの令嬢達はフローレス1人を怖がっている。
蔑む様な目線も送っているが、一番は恐怖心だ。
「怒りませんよ。ネックレスを返して頂けたので」
「ゔっ…………」
大粒の涙がフローレスから流れ、フローレスは俯いてしまう。涙を見られたくない様で、アリエスはハンカチを手渡した。
「どうぞ、使って下さい」
「っ!…………ありがとうございます………うっ……うっ……」
「アリエス嬢、父の私からも謝罪します………娘の暴走を止めて頂き………ありがとう」
「…………いえ、フローレス嬢が怪我無くて良かったです」
「では、フローレス嬢、その他5人も認めるのだな?」
ルカスも、それが知れればいい、とアリエスも予め聞かされている。
フローレスが認めている以上、その場では終わる事ではあるのだが、取り巻きの令嬢達は違う。
「私達は、フローレス様に命令されただけです!」
「フローレス様が、皇太子妃になりたがるから協力させられたに過ぎません!」
「私もです!」
「そうよ、私も命令されました」
「はい、私もです」
それは、責任の擦り合いでしかない。
虐めというものは主犯格の命令に従う事で、惨事になれば命令された者に擦り逃げてお終いにしたがる事も多い。
「命令されたからと言って、実際に人を傷付けようとした事には変わりはないのだぞ?」
「「「「「っ!」」」」」
「良いか?其方達はただ、フローレス嬢が公爵令嬢という強い立場であっただけで、強い者に巻かれただけなのだろうが、人としての善悪を自分で判断出来るようにならねばならん。例え、フローレス嬢が白を黒だと言えば、其方達は黒だ、と思うのではない。人を傷付けろ、と言われ素直に従う事が問題なのだ。其方達に命令した事が間違っていると思っていたら、自身で考えなければならない。それが強い立場から言われる時程考えなければならないんだ。ただ従うだけで考えない人になるならば、また同じ過ちを起こすぞ?連なる事は楽だろうが、時には考えてから行動せよ………次、また同じ過ちを起こしたら罰する事を考えねばならん………フローレス嬢は反省しているぞ?過ちに気が付いたのだからな………今、この場で謝罪したくなければ謝罪しなくてもいい。だが、刃物を用いて人を傷付ける事は、罪になるのだと理解せよ。アリエスは神力を持ってそれを阻止が出来たから良かったものの、持っていなければ大怪我になっていたと安堵するのだな」
「「「「「っ!」」」」」
諭す様に言うルカスに、令嬢達は表情は変わる。
「謝罪するのだ!」
「申し訳ございません!直ぐに娘から謝罪させます!」
「よく言い聞かせますから!」
「謝るのだ!」
「お父様!頭押さえないで下さい!」
「い、痛いっ!」
「きゃっ!」
育てた親の立場も無くなるので、令嬢達の親はアリエスに謝らせようと必死になった。
「謝罪は要りません」
「え………?アリエス嬢………?」
「要らないって!」
「良かったぁ………」
「ですが…………」
「「「「「?」」」」」
「認めて下さい。私に刃物を向けた事を………傷付けようとした事を!」
「「「「「え…………」」」」」
明らかに嫌そうな顔になるのを見た、アリエス達。
認めたら、謝罪と一緒の様に感じるのだろう。
「なっ…………だから、私達はフローレス様に………」
「今、陛下の有り難いお話聞かなかったんですか?認めて頂けないのなら、一から教養と教育を求めます!王城で侍女として働いて下さい!」
「な、何ですって!」
「お前達が謝罪せぬからだろう!」
「あ…………謝ります!認めるから、侍女にはさせないで!」
「其処の5人、もう遅い!言音は録った!認める事もせず、まだ人の所為にしようとするならば、侍女として王城で教養を学び直せ」
これは、アリエスとマシュリーの案だった。
反省の色が見えないかもしれない、とマシュリーが言った為、アリエスが考えたのが、貴族令嬢達を侍女にする、という事だった。
人を敬う気持ちも無い様子が垣間見え決めた事。
命令にはなるが、このまま反省しない令嬢達へのちょっとした罰であり、各貴族屋敷で働く侍女達の憧れる王城の侍女は一種の羨望の的になるか如何かは彼女達に掛かってはいるが、甘えは矯正出来るなら、それに越した事はない。
「陛下!我が娘、フローレスも侍女にさせて下さい!」
セルデン公爵がフローレスにも侍女をさせたい、と申し出る。
「セルデン公爵、フローレス嬢は反省している。それならば私は問題視しないが?」
「セルデン公爵、アリエスが皇太子である私の妃になるのが不服なのか?」
「ロティシュ、其方は黙りなさい。話がややこしくなる」
「い、いえ!それは微塵にも思ってはおりません!アリエス嬢を見ていて、娘も足りない物があると気が付きましたので………」
「フローレス嬢、其方の意見は如何だ?」
「わ、私は………陛下が許可頂ければ、登城して侍女からの目線で見れなかった部分、足りない部分を見つけてみたいと思います」
アリエスから渡されたハンカチを握り締めて顔を上げたフローレスが其処に居た。
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