放浪の花嫁【完結】

Lynx🐈‍⬛

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番外編【ナターシャ、第二子出産】

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 レングストン王宮。
 夜間にバタ付く皇太子邸。
 
「早く!産湯を!」
「は、はい!」
「お子の服は用意してる?」
「今お持ちします!」

 ナターシャの侍女、セリナとライアの指示で他の侍女達は動く。
 夜中ではあるが、主治医であるヴァン子爵も出産間近のナターシャの為に、王城に待機していた。

「失礼致します!皇太子殿下!妃殿下は!?」
「破水したようだ!陣痛は夕方からあったんだが………。」
「待機していて良かった!直ぐに準備を!」
「はい!」

 ヴァン子爵が助手と共に、出産準備をする。
 ナターシャはシーツを握り締め、苦しんでいる。
 ヴァン子爵は手術着を着て、手を消毒すると、ナターシャに近付く。

「妃殿下、失礼します!」
「…………はぁ………はぁ……お願い……しますわ……。」

 ヴァン子爵はナターシャのお腹に聴診器をあて、胎児の状態を見る。

「……………頑張って下さい、妃殿下。」
「は………い……。」

 ナターシャは産気づいてから、4時間程で皇子を出産した。
 王城を居住とする皇帝と皇妃には起床して知らされた。

「世継ぎ誕生か!それはめでたい!」
「まぁ………皇子……。」

 朝一に国中に皇子誕生を知らされた。

「皇子誕生!お世継ぎだぁ!今日は祭りだ!祭り!」
「今日はおめでたいねぇ、朝からサービスするよ~!よっておいで~!」

 王宮から頼んでもいないのに、王都は直ぐ様あちらこちらで皇子誕生を祝っていた。
 皇太子邸のリュカリオンは、自分の世継ぎ誕生に喜びを隠せない。
 皇女ヴィオレット誕生の時も喜んでいたが、王位第一継承者誕生はまた違ったものがあったようだ。

「名は……何がいい?ナターシャ。」
「あら、ヴィオはリュカが名付けたではないですか?」
「そうなんだが、ナターシャも付けたい名があったら、と……ヴィオは思い出に関する名だったから。」
「そうですね……夜明けに産まれましたし、朝早くから皆を照らせるように導ける皇帝になって欲しいですわ。確か何処かの国で夜明けを意味する言葉がありましたわね。」
「……………夜明け………アスランか……。」
「………アスラン……名前にしても良いですわね。」
「………あぁ、いいな……。」

 産湯を浸かり、ナターシャの腕に抱かれ眠るアスランの頭を撫でるリュカリオン。

「アスラン……強く元気に育っておくれ。」
「リュカ……皇子誕生おめでとうございます。」
「ナターシャだって、おめでとうございます、だろ?」
「ふふふ……ちょっと拗ねてたんです、わたくし。」
「え!」
「ラメイラが双子を妊娠したから、て予定にない子作り始めましたでしょ?何故そんなにムキになるのかしら、て………。でも、産まれてこの子の顔を見たら、ムキになっても許せてしまうのだから、おかしなものですね。」
「ナターシャ……面目ない……。」
「幸せ頂きましたから、アスランにも幸せを与えていきましょうね。」
「あぁ、ナターシャ……お疲れ様。」

 リュカリオンは皇帝から午前中は休むように、と言われ、午後から執務室に入った。
 セシルが不在の今、カイルがトーマスの執務室と行き来しながら、リュカリオンの仕事を手伝っている。
 トーマスには今コリンがほぼカイルの仕事を引き継いでいた為、最近はカイルがセシルの机に居る事が多かった。

 カチャ。

「リュカ殿下、皇子ご誕生おめでとうございます。」
「あぁ、ありがとうカイル。」
「先程、兄セシルから連絡が入りましたよ。ボルゾイを発ち、帰ってきます。」
「そうか……ジャミーラ姫とヘルン姫の件はどうなったか知らせあるか?」
「これが報告書です。なかなか面白い結果になりましたよ。一点を除き。」
「…………完璧に終わらなかった、という事か?」

 報告書をカイルから受け取り、目を通すリュカリオン。
 ジャミーラの失脚とヘルンの行動により、新王アラムの怒りを買い、自身の母と共に、ヘルンは幽閉、ジャミーラは元夫殺害により死刑を降された。
 サマーン王はアニースの顔を見れたからか、アニースがボルゾイを発った後静かに息を引き取った、と報告だった。
 しかし、ヘルンの行動の1件がリュカリオンの目に止まる。

「何てこった………タイタスが………。」
「帰国後、直ぐ婚約を発表するそうです。媚薬を飲まされたとはいえ、仕方ないといえば仕方ないのかもしれませんが、兄の報告によると、その媚薬がかなり強いものだったらしいです。それをアニース様お一人でお相手された、というのですから。」
「カイルから見てもその媚薬は凄いのか?」
「えぇ、兄が成分分析した物を見ましたが、強力過ぎて、アニース様が気絶する迄、休む事なく、眠ってしまってからもタイタス殿下はご自分で処理をし、明け方迄萎える事が無かったようですよ。それが休憩も無いのだから、かなりアニース様の負担が大きかったでしょうね。」
「…………妊娠した可能性ないか?」
「その報告は無いようですが。」
「…………婚約式と結婚式は急いだ方がいいだろうな。それにしても、セシルは見ていたかのような報告だな。」
「客間にお二人を押し込んで、兄は扉の前で待機していたそうです。」
「よく聞いていられたな、それ。」
「俺も、そんな趣味ないですよ。まぁ、何かあったら、駆け込むつもりだったんでしょうけど。」

 健全な男なら房事の声や音を聞いて、シたくなるものだろうが……。

「俺、セシルが結婚出来るか気になって来た。」
「リュカ殿下もです?弟の俺からしても同じですよ。浮ついた話一向に出ないんですから。」
 
 セシルもその後結婚はするのだが、それはここだけの話。
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