束縛と緊縛の世界へ【完結】

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
17 / 44

16

しおりを挟む

 特急列車で富士山に近い最寄り駅に着くと、桐生はレンタカーを借りた。

「免許持ってたんですね」
「車も持ってるから、車で来るのも考えたんだけど、ミッション車なんだ。車運転中だと手が繋げない」
「…………安全運転でお願いします」

 イチャ付く前提で運転されるのも如何かと思われる。
 山中湖や河口湖から富士山を見て回り写真も撮れたら、という事なら、車がある方が便利かもしれない。桐生のカメラはスマートフォンではないからだ。

「由真………湖の畔に立ってくれ」
「湖の畔に?」
「そう………あ、コート脱いでくれる?」
「…………寒いのに?」
「寒いの我慢して」
「…………はい……」

 由真もせっかく、桐生が買ってくれた服を着ているのだ。写真に撮ってくれるのにコートで隠すのは勿体無い。

「ポーズ取っていいよ」
「モデルじゃないんですから無理ですよ!」
「…………左腕を腰に当てて、少し捻って」
「え!………こ、こう?」
「足は左踵に右足を持ってきて」
「っ!………モデルじゃないのに!」
「いいから………撮るからな」
「…………マジですか……」

 一眼レフカメラを持っている桐生の邪魔をしない様に観光客も気を遣う様になってしまった。何枚か由真を捉えた桐生は由真を呼ぶと、由真はポーズを取るのを止める。

「良いの撮れました?」
「…………まぁまぁかな………風景に人入れるのは久々だからな」
「え?撮ってますよね」
「緊縛写真とは違うよ。室内には室内の撮り方があるし、外は外での撮り方がある。外で写真を撮るのは久々なんだ」
「やっぱり、写真家だったんですね、桐生さん」
「…………黙ってるつもりはなかったんだけどね………遠退いてから5年は経ってる……もう忘れ去られてる写真家さ」

 由真は自分から桐生の過去の聞かされたのは始めてだった。

「…………そう言えば、桐生さんのお父様も写真家だったりします?」
「…………桐生朱雀?」

 懐かしむ様にカメラを持つ桐生の目の色が変わる。

「あ、はい」
「親父だよ………何で知ってるんだ?」
「近々、ファッションショーとコラボした写真展を開くとかで、会社の同僚のインタビューで知りました」
「…………へぇ~……」
「見に行ったりするんですか?桐生さんも」
「そんな事やるなんて、俺は知らなかったよ」

 段々と桐生の表情が固くなって行く様に見えた由真。

「私、知りませんでしたからね?桐生さんのお父様が写真家なのも、名前も」
「……………由真?」
「桐生さんは桐生さんです………写真も室内と屋外では撮り方が変わる様に、人も違いますから………私は、桐生さんの義理のお母さんになった人とは違います」
「…………そんなの当たり前だろ………元カノには未練なんてもう無い………親父と疎遠になったのは別の事さ………同じ土俵に居たんだ……影響はあったから俺は逃げた………ただそれだけ……」
「…………まだ写真、撮ります?モデル擬きで良ければ付き合います!」

 馴れ馴れしいかとは思ったが、由真は桐生の腕にしがみついた。

「由真………」
「さ、寒い!………さ、寒い寒い寒い!」
「プッ………あぁ………もう!こっち来い!」

 由真は寒いだけだと知った桐生。
 コートを脱いで貰って何枚も写真を撮った後、着ずに喋っていたのだ。由真も我慢の限界だった。
 桐生はコートのファスナーを下げ、由真を胸に納める。

「っ!………き、桐生さ……」
「あぁ………由真暖か………」
「は、はい………暖かいです……」
「ありがとうな、由真………好きだ……俺の思い違いじゃないか、て思った事もあったが………由真が好きだ……」
「っ!…………わ、私も………桐生さんが好きです………」
「…………そこは、名前じゃね?」
「っ!」

 身長差もあり、由真は背伸びし、桐生は少し屈まなければキスは難しい。しかも向かい合って由真は桐生のコートの中に居た訳ではなかった。
 頭1つ分ぐらいの身長差があるので、由真の頭に桐生の顎が乗った。

「ほら、言ってみ?」
「ど、どっちですか?」
「…………翼でも翼希でも……どっちでもいいかな………」
「い、嫌です!そんなどっちでもなんて……好きな人の名前は………大事に呼びたい……」
「…………失敗した………今日のデートコース………」
「…………は?呼び名だけで失敗ですか!」
「…………いや………今から由真を裸にして緊縛して突っ込みたい………何だよ………彼女にしてから可愛さ倍増してないか?由真………いい女だなぁ…………由真………これで処女ってめっちゃ拾いもんじゃね?」

 由真の背後から、ギュっと抱き締められ、逃れられなくなっていた。桐生が放さないのもあるが、寒くて出たくないのもある。
 その状況で甘い口説き文句を連ねられて、由真の顔は真っ赤だった。

「なぁ、由真………正直どっちの呼び名でもいいんだが、は嫌だな……」
「あ、あの………元カノさんはどっちで呼んでたんですか?」
「は?………何でアイツの話を今するんだ?」
「違う方にしたいからじゃないですか!」
「っ!」
「…………い、嫌です………同じ呼び方なんて……」
「…………たすくで呼んでた………アイツはな………」
「じゃあ、私は翼希たすきさん、で………」
「は?そこは無しだろ!」
「私、年下なんですから、いいじゃないですか!」

 にするか如何か揉めに揉め、結局桐生は負けてくれたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...