22 / 44
21
しおりを挟む由真が桐生と付き合ってから1ヶ月経った頃、由真の企画が好評となり、部数が増えた。
SMプレイで使われるアダルトグッズでも、受け入れやすいローターやバイブだけでなく、緊縛というテーマなのが、興味を示した読者が以外にも多かったと言えた。
由真をモデルとした写真は、桐生は使いたくないと拒否し、新たに桐生のツテで紹介してもらったモデルを撮影する事にはなったが、由真とモデルの意見も照らし合わせて記事が書け、由真は記事を早く仕上げられたのもあり、締切に慌てる事なく出来てホッとしていた。
「由真読んだよ記事」
「いい出来だったでしょ?」
「卑猥で見応えあったよ~」
女性向けファッション誌の袋綴だ。手に入れない限り読めない部分にされ、SMプレイに興味が無い読者に受け入れられなくても、読まない様にしてくれればいい、と敢えて袋綴にした事で、背徳感を味わえ口コミもあり部数が伸びた様だ。
「次も特集組むんだって?」
「え?そうなの?」
「反響凄いんだって………顔出し無し写真が、卑猥で綺麗だし、結び方の図案も分かりやすいから、もう少し出したいって編集長言ってた。というか、意外と男性も買ってるらしいよ、アレ見たさに」
「…………へ、へぇ~」
「あの写真撮った人、有名らしいね………ファッション誌のカメラマンが知ってた」
「緊縛師だよ、撮った人は……」
風景写真家だと、言っていいのか確認すべきだったのか分からないが、由真が頼んだのは緊縛師としての桐生であるから、風景写真家としての桐生は伏せた。
「そうだ、由真………今度コレ行かない?」
「何?このチケット」
「以前私がファッション誌と写真家のコラボの記事頼んだ事あったでしょ?それで、先日この写真家の人に、お会いしたんだけど、SMの世界の特集書いた人と会いたい、て話が出てさ………初日のチケット貰ったのよ」
「へ?………私に?」
「うん………特に奥様があの記事見て、会いたいらしいよ」
「そ、そうなんだ………分かった、私も興味あった写真展だし、一緒に行かせて」
由真に会いたい等と、何故思ったのかは一目瞭然だった。
桐生と疎遠になったから橋渡しでもして欲しいのかもしれない。橋渡しするのは構わないが、桐生がはたして会いたいと思うわないだろう。疎遠になった経緯は由真は教えられてはいないが、修復出来るとは思えなかった。
この夜、金曜という事もあり、食事の作り置きも兼ねて、桐生に会いに来た。
「いらっしゃいませ、板倉さん」
「こんばんは……桐生さん、今店でしたね」
「先に部屋に行ったんですか?」
「食材仕舞いに………作り置きしないと桐生さん3食ファストフードなんだもの」
カウンターに由真は座り、桐生の姿が店にも居ないので、キョロキョロと見渡して多部と話している。
「オーナーは今撮影なんですよ。板倉さんが書いたあの袋綴の………アレで依頼者増えて……」
モデル以外の男女でも、緊縛写真を撮って欲しい、と依頼が出て来ている様で、桐生は忙しくしていた。
そうなると、由真と話をするのは専ら多部で、多部は由真におしぼりを手渡して、由真がよく飲むノンアルコールカクテルを作り始める。
「店の名前載せたからですよね……良かったのかな……」
「載せていい、とオーナーも了承したんですよね?」
「…………それで、桐生さんのお父様から連絡が来た、と言ったら桐生さんどう思うのかな、て………」
「写真展のスポンサーになってるらしいですね、板倉さんの会社」
「みたいです………私、お父様に招待受けました。あの記事を書いたから」
「…………」
言っていい事か悩んでいるのを多部にも聞いて貰いたくて溢した由真だが、多部は難しい顔をしていた。
「強かな女なんですよ………オーナーの元カノは」
「私には、当時の事は分からないけど、その今は義理のお母様になってるその人がお父様に頼んだ様で………」
「…………そうですか……でも、板倉さんは行かれる予定で?」
多部から、ノンアルコールカクテルを受け取る由真は、なかなか直ぐには口を付けられない。
「招待受けたからには、行かないと………知らぬ存ぜぬにはしようとは思いますけど」
「それがいいでしょうね………オーナーの父親も、オーナーが此処に居るのを知ってるのに、態々彼女の板倉さん使って、卑劣だな………」
「多部さん………」
「はい」
「多部さんは、何故桐生さんとお父様が疎遠になったか、ご存知です?彼女さんとの理由で更に亀裂が入った感じではありますけど」
「知ってますが、俺の口から言っていい事とは………」
「…………ですよね……私………それ聞きたくないんです………言いたくないのに、聞き出すのは心を抉らせる気がして………」
「今日、泊まって行くんでしょう?たまには酒にしません?」
由真の気持ちも多部には伝わったのだろう。なかなか飲まないノンアルコールカクテルより、今の由真には酒のが良いのだろうと、提案してくれた。
「私、直ぐ酔っ払っちゃうんですよ……弱くて……」
「オーナーが介抱しますって」
「飲むな、て言われちゃいそう………」
「酒の勢いで、普段溜め込んだ鬱憤をぶち撒けても良いんじゃないです?緊縛だけが、人を解放的にする事じゃないんですよ」
しかし、由真は1杯で酔っ払い、カウンターに突っ伏したのは、桐生が店に入って来てからだった。
2
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる