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しおりを挟む由真はなかなか桐生に聞き出せぬまま、写真展の日を迎えてしまった。
桐生に、写真展がある事も伝えず、開催日の土曜日から2週間、初日に来て欲しいと言われた同僚と共に、桐生とのデートは夜からの約束にして、写真展が開催されるギャラリーに来た。
「凄い………」
圧倒される写真の風景とモデル達。同僚と見て回り、桐生の父、桐生朱雀と着物を着た女性が来場者達に挨拶しているのを見つけた。
---あの人が、お父様と………
元カノと言って良いのか、義理母と言って良いのかは由真には分からない。だが、清楚な日本人形の様な佇まいと貫禄。その女が、桐生を振って桐生の父親の後妻となったのなら、相当に肝が座った女なのだろう。
「桐生先生に挨拶してこよう、由真」
「う、うん」
朱雀が、由真の同僚を見つけると、会釈してくる。
「この度はおめでとうございます……圧巻ですね」
「ありがとう、これも東部出版さんのおかげですよ」
「そんな、先生の写真を見たくて皆さん来られてるんですから………それと……先生が会いたい、と言ってみえた、同僚の板倉を連れて来ました」
「この度は写真展開催、おめでとうございます」
「…………君が……あの特集を企画した……」
「は、はい………板倉と申します」
値踏みされている視線が強く感じる。朱雀からではない。桐生の元カノからだ。
「こんなに若いお嬢さんが………妻が貴女に会いたいと言っていてね、とても興味が湧いたそうなんだ………内容を話せないのはまぁ、場が場だからね」
「…………ありがとうございます、奥様」
「写真は貴女なのかしら?板倉さん」
「いえ………モデルさんを使ってます」
何枚かは由真を撮った写真だが、後から別のモデルで載せたい、と言われてしまい、由真は力不足だと痛感したが、撮影時は由真はずっと付き添っていて、完成後桐生に打ち明けられた言葉を思い出す。
『由真を撮ってる気で撮影した』
と。由真本人を撮影すると、撮影出来なくなりセックスに夢中になりそうだから、と言われてしまったので、由真も何も言えなくなってしまったのだ。
「…………そう……でも被写体への愛を感じたの……貴女、写真を撮った人の傍に居たのかしら?」
「はい、それは………担当なので任せっきりは出来ませんし」
「清華………そんな話は、此処では控えなさい」
「そうですわね………板倉さん、少し2人で話せません?」
笑顔を見せてはいるが、目が笑ってはいない桐生の元カノ。由真は背筋が凍った。
断れば、会社の対応が悪いと言われかねはしないか、という状況で、由真は了承する。
「は、はい………特集の事でしたら」
個人的な話はしたくない、と含ませて了承すると、清華はそれでもいいとばかり、由真の手を取った。
「まぁ、ありがとうございます、板倉さん」
「っ!」
握られる手が痛い程、力が入れられて、控室に場を設けて貰った由真は、座るや否や、清華の本性が見えた。
「翼の女よね?貴女」
「…………え?」
「惚けないでくれる?見れば分かるのよ、私」
「…………確かにお付き合いはしてますが、それが何か………交際を認めない、とでも仰るのでしょうか。義理の母の貴女が」
「…………私の事、聞いてるのね……翼から」
「元カノだという事ぐらいです」
着物だというのに、足を組み煙草に火を着けた清華。先程の清楚な印象はもう見られない。
「別れてるつもりは無いわよ、私は」
「…………え?」
「翼の為に、私は翼の父親の後妻に入っただけよ…………だから、貴女邪魔よ……消えて頂戴」
「消えて………って……何仰ってるんですか?」
音信不通にしておいたのはお互いかもしれないが、未練があるなら清華は桐生に連絡を取れば良かったのではないだろうか。結婚したからと言って、歪な関係になるだろうが、関係を続けてさえいれば、桐生だって清華へ気持ちを向けていたかもしれないのに。
「そのままよ………翼は私の物よ」
「意味分からないです………貴女は、翼希さんを捨てて、翼希さんのお父様と結婚されてるじゃないですか!」
「だから?…………私は翼の全てが欲しいの…………翼希……本名も知ってるのね………緊縛師の名じゃなく………」
「…………ご本人から聞きましたので………呼び名もどちらでもいい、と言われましたが貴女が呼んでいた名ではなく、翼希の名の方で私は呼びたかったから………貴女とは私は違う、と知って欲しかったから………」
「っ!」
清華の顔付きが強張るのを見た由真。逆鱗に触れたのだと思い、由真は部屋を出ようとした。
「失礼しました。これ以上お話する事は無いと思われますので、私はこれで…………っ!」
会釈をし、挨拶と礼儀は通したつもりだった由真だが、清華は自分が2人に淹れたお茶で、由真側に置いたお茶を被った。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
まだ熱いだろうお茶が、清華は何故自分で被り、悲鳴を挙げたのか、由真には一瞬の出来事で分からなかった。
悲鳴で駆け付けた警備員に、上座に座っていた清華は直ぐに駆け寄り助けを求めに素早く立ち上がったのを、由真はこの女の本性に救い等無いのだと感じた。
「如何しました!」
「この方が………私にお茶を………熱いわ……助け……」
わざとらしい演技にも見えるが、悲鳴を挙げ倒れた清華に介抱しなければ、と警備員は思うだろう。
「どういう事ですか!」
「私は何もしてません!ご自分で掛けたんです!」
だが、立場的には由真は分が悪い。名が通っている写真家の妻と、一介のスポンサーに入っている会社のルポライター。知名度からも助けを求めた側でもある物的証拠で由真の立場は悪かった。
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