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しおりを挟む幸い、清華は火傷も無く、事無き得たが、朱雀が知らせを受け、清華に駆け寄ると、更に由真の立場は悪くなった。
「どういう事か説明してもらおう!」
「奥様がご自分でお茶をお被りになられたんです」
「違うわ!板倉さんが、私を妬んでいるのよ!」
今迄何も接点もなく、今日始めて会った人間に、何故直ぐに妬む要素があるのか、由真は聞きたくて仕方ない。
「何を私が妬むと?今日初対面です。訳が分かりません」
立場が悪いなりに、由真は自分の主張だけは曲げないつもりでいる。幾ら、スポンサー側と有名写真家の妻だろうが、主張は大事だからだ。
「彼女は、人を妬む様な性格じゃありません」
同僚も由真を知っているからか、擁護してくれていた。
「この人………翼と付き合ってるの!貴方!」
「…………翼希と?………本当か!」
「そうよ………この人………翼と一緒に貴方を陥れようとしてたのよ!」
「…………は?何を根拠に………私はつい先日迄、貴方達が翼希さんの家族だという事自体知りませんでしたが」
「…………もういい……今後一切、東部出版と関わらない様にする!撤収させろ!」
朱雀は妻である清華を擁護に入る事は予想出来た。お茶が掛かった箇所を冷やす清華を連れ、会場を後にしようとしていた時、由真を抱き締める存在が現れた。
「由真………」
「っ!…………え!」
人混みを掻き分けて入って来た桐生は、由真の背後から抱き締めて、朱雀に声を掛けた。
「騒がしいから来てみた………久しぶり、父さん」
「翼希!」
「翼!」
「…………近付くな!清華!」
「っ!」
朱雀が支えていたのに、支えられていた清華は桐生に駆け寄ろうとするのを見て、桐生は怒鳴る。
「清華に近寄られると、虫唾が走る」
「翼!」
「父さん、その女にいつまで騙されるつもり?」
「翼希?何を言ってる……確かにお前は父さんを許さないだろうが………」
「俺は別に、その女を後妻に入れたのは如何でもいい………許してない事は別にある……だが、その女が俺達に関わってるなら、排除してから話合うべき事だ………」
「何を言ってる………翼希……」
朱雀は、どういう事なのかも分からなくなっている様に見えた。
「とりあえず、その女………邪魔」
「翼!何でそんなに冷たいの!翼は私には優しくて、何でも私の言う事は聞いてくれたじゃない!」
「名前も呼ばれるのも腹が立つ………何が此処であったかは分からないが、由真は人を傷付ける様な事はしない…………清華とは違う」
「私は人を傷付けたりしないわ!」
「…………で、被害者振って蹴落として行くんだろ?」
「…………え……何言って……」
「俺も、信じ切って裏切られてから知った………それ以上聞きたかったら父さんの前で暴露するけど…………話したくなかったから、清華に連絡しなかったし、父さんにも言わなかった………」
清華の表情が被害者振る泣き顔から、蒼白になって行ったのを、由真でも分かった。
「す、朱雀さん………私……帰るわ………写真展の事は貴方が決めて………」
濡れた着物に濡れた髪で、逃げる様に去った清華。
呆気に取られたのは、心配そうに見守った朱雀や警備員、ギャラリー達だ。
「父さん、写真展は続けてくれよ………由真や東部出版には非は無い筈だ」
「待ちなさい!翼希!」
「…………話したくない………父さんとも……評論家達とも………」
「翼希さん………」
「帰ろう、由真」
「…………は、はい………先生、奥様にはお茶を掛けてはいません………それは間違ってはいませんので………失礼致します」
「ま、ま…………っ!」
朱雀は桐生を引き留めようとはしたようだが、躊躇して言葉を止めた。
「良いんですか?話さなくて」
「良いんだ………あの場所で話したら、評論家達が煩くなる」
「翼希さんが良いなら………あ、帰ろ」
同僚を忘れていた由真は、同僚に声を掛け、写真展の会場を出て来た。
「由真………アンタいつの間に彼氏出来たの!」
「1ヶ月ぐらい前………かな……」
「…………あぁ………桐生翼ってその人なんだ………緊縛師で写真家の………」
「ち、ちょっと!往来で………」
「あ、ごめん」
真っ昼間の街中で、緊縛師なんて体裁が悪いだろう、と同僚を止めた由真。
「由真、会社は大丈夫なのか?」
「分からないけど………多分怒られると思う」
「何があったか説明してよ!私も庇うから!」
同僚と共に、写真展の会場の近くのファミリーレストランに入り、食事がてら話をする事になった由真。
事の経緯をそのまま話た。
「え!由真の彼氏の元カノがあの奥様?」
「…………そう」
「清華………あの女は以前からそう計画してた、て事か…………」
「そんな感じだった………翼希さんに言いたくなかったけど………あんな場面見られちゃったし………というか、何故あの写真展に?」
「…………親父の写真展はコッソリと毎回見に来て、会わずに帰ってた………ほら、鬘と眼鏡持参」
桐生は由真にそう言うと、バックから鬘と眼鏡を出した。翼希には一見見れない髪色の鬘だ。
「そうなんですね………多部さんは翼希さんには伝えない方が良いんじゃないか、て言ってましたけど………」
「多部?…………アイツは俺達親子間や、爺さんと親父の間に何があったかも知ってるから、そう言ったんだと思うけど、俺は元々写真家としての親父や爺さんのファンでもあるから、見に行くよ。関係とは別の問題…………多部はその事は知らないと思う」
「全部知っている訳じゃないんですね」
「…………ねぇ、会社には如何言うつもり?」
「ありのまま話すよ………もしかしたら、あちら側から圧力掛かるかもしれないけど、私は嘘吐いてない」
「…………防犯カメラぐらいあるだろ……貸店舗だろうと」
案の定、清華側から会社にクレームが入ったが、会社が事実確認の為に、防犯カメラを確認すると、清華が自らお茶を掛けたのが見られた。
しかし、音声が入らない防犯カメラであった為、何の会話をしてそうなったかも、言った言わないの論争に発展し、由真にも責任追及されるのだが、それは後日。
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