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粛清
しおりを挟むメイリーンとヒューマが結婚して、5日目の朝。
食べては寝て、貪り合い睦み合い、2人共に気怠さが残る朝を迎えた。
「…………メイリーン……」
「……おはようございます、ヒューマ様……」
「…………名残り惜しいな………休みが終わってしまった………」
「ふふふ………お仕事も大事ですよ?」
「…………夢の様な日から地獄に一転か……ラノックの事の処理も山積みだろうからな……」
処理するだけ、と言うものの、大事件の処理は並大抵の物では無い筈で、休みだった5日間の内にも何度もヒューマの部下がヒューマに聞きに来ては、ヒューマを怒らせていた。
ヒューマが呼び出される為、苦肉の策でクロードがメイリーンとヒューマの居るベッドの天蓋で2人を覆い、部下達がヒューマの指示を仰ぎに来る事が日に何度もあった。邪魔された気分になるので、部下が部屋を去ると、ヒューマは苛々を増して、メイリーンを抱き潰す図式も出来てしまい、メイリーン自身は『やっと終わった』感が顔に出ている。
房事中、いくら天蓋で隠されていても、報告に来る部下や邸の侍従達は、その場に居づらい筈で、メイリーンもそんな趣味は無い。
ヒューマも無いと思うのだが、見られるのは気にも止めない男なので、中断させられるのが嫌なだけの様だった。
「頑張って下さい、ヒューマ様」
「…………登城も面倒くさいな……」
「将軍なのですから………ね?」
抱き締め合うベッドの上で、怠い身体を寄せるメイリーンが愛しくて仕方ないのか、起きた早々ヒューマはメイリーンの尻を撫で始めた。
「っ!」
「…………もう少し、時間は融通出来る……1回だけ…………な?」
「も、もう流石に………」
コンコン。
「「!!」」
『旦那様、登城のご準備を』
もう、休みは終わったのだ、とタイミング良く、扉の外からクロードの声がする。
「ほら!ご準備を!」
「……………はぁ……仕方ない……メイ」
「はい」
「君はもう少し寝てるといい………身体が辛いだろ?」
「………わたくしも起きますわ……女主人ですもの、邸の事をしなければ」
「………無理するなよ?無理させた俺が言うのも何だが………」
ヒューマは身体をお越し、脱ぎ捨ててあったバスローブを2着拾い、1着をメイリーンに渡すと、もう1着を羽織る。
「クロード!侍女達も呼んでくれ、メイリーンも起きる準備する」
『畏まりました、直ぐに』
朝食を軽く取り、ヒューマは騎乗で登城をする迄、メイリーンは見送った。
「行ってくる」
「はい、お気を付けて」
メイリーンも笑顔で見送るつもりで、距離を取って立っていたが、ヒューマはメイリーンを軽く抱き寄せ、腹を擦りながら額にキスを落とした。
「孕んだか分からんが、こっちにも挨拶しないとな」
「…………気が早いですわね……」
「あれだけ注いだんだ、出来てるさ」
「だとしても、分かるのは少し先ですわ」
「出来て日課にしても、たった数週間の差だ………邸の事は任せた……クロードや侍従達に分からない事は気軽に聞いてくれ」
「教えてもらってますよ、少しずつ………部下の方達もヒューマ様を待ってますわ、もう行かれた方が宜しいのでは?」
「……………はぁ……面倒くさい……」
「行ってらっしゃいませ」
邸の管理や部下達の給料等、今迄やり繰りしていたのはクロードだと知ったメイリーン。これからはメイリーンも女主人として、切り盛りしていかなければならず、ヒューマとは別に執務室を作ってもらって、仕事を始めるようになったのは、ラノック公爵が逮捕されてからだ。
まだ教えて貰いながらではあるものの、少しずつ覚えて熟しているメイリーン。
「ヒューマ様のご両親は亡くなられた、と聞いたけど、それからはクロードがヒューマ様の補佐をされていたのよね?」
「はい、ヒューマ様が伯爵位を継がれたのは5歳の頃でして、それからはお1人で頑張っておられました」
「…………5歳からお1人?」
「はい………前伯爵様と夫人は粛清されたのです………政治争いに巻き込まれ」
「…………知らなかった……わたくしも聞かなかったけれど、そんな事が……」
「ラノック前公爵との派閥争いで亡くなりました」
「…………え?」
「幼い頃は、逮捕されたラノック公爵と仲が良かったのですが、その事もあり仲違いされ……」
クロードの話を聞けば、かなり前から因縁があった家同士だったのだという。
現国王、ケイドンはラノック公爵家の血縁だとメイリーンは聞かされた。ケイドンは人間と獣人の混血だが、人間の血が強く、獣人の力は無かったが、弟は獅子の獣人で産まれ、ラノック前公爵は次期王はケイドンの弟を推していたらしい。
同じ血縁者ではあるものの、人間と獣人の混血種でも、後継者を選ぶ際、揉め事は多々あるという。
ケイドンが王になる前、ケイドンを推す派閥側に居たのが、ヒューマの両親で、ケイドンの弟を推す派閥側にラノック前公爵が居た為に、ヒューマの両親は馬車の事故に見せかけ亡くなった。
「ラノック前公爵様は如何なったのです?」
「…………処刑されました……ケイドン国王の弟殿下と他の派閥貴族と共に……約20年程前になるでしょうか……」
「わたくしはまだ産まれてないですわね……」
「………ヒューマ様のお父上は黒豹獣人の長でもありましたから、ヒューマ様はお父上の部下達に助けられながら今に至ります」
ヒューマは悲しみを乗り越えて来た筈で、その事をメイリーンに言わなかったのは、同情されたくなかったのか、それとももう乗り越えて言う事でも無かったのかは分からない。
それでも、メイリーンはヒューマ本人から聞きたかった。
「…………わたくしは、ヒューマ様に何をして差しあげられるのが良いのかしら……」
「特に何も」
「何も?」
「奥様が奥様らしく、旦那様のお近くに居られたら、それで宜しいと思います」
「…………照れますね、奥様なんて……」
「過去、旦那様は何人もの女性を邸に呼びましたが、その多くは旦那様の地位や美しさ、金に目が眩む方ばかりでした…………ですが、奥様は違われた………旦那様が奥様を『番い』だと、直ぐに仰ったのは正しかったと思います」
確かに、メイリーンはヒューマの金や地位には眩んでいない。ヒューマ本来の獣の黒豹の姿に魅了されたのだ。
その後、人となりを知り、一緒に居る事が自然に思えて、番いになった。
「直ぐに?」
「はい…………奥様が此方に来られた翌日辺りに私にはお話されました」
「そ、そんな事迄!」
「私が話たのは内緒ですよ?旦那様、あんな風貌ですが、割と照れ屋ですから」
「そ、そうなの?」
「はい………奥様なら直ぐに分かります」
「探してみます」
「えぇ、探してみて下さい」
数日、そんな平凡な日々を送っていたある日、ラビアン伯爵邸が騒がしくなった。
ヒューマが結婚した、という情報は公にはしていなかった事もあり、ヒューマと関係を持った事のある令嬢達が押し寄せて来たのだ。
「お帰り下さい!旦那様は登城しております!」
邸の侍従達が追い返そうとしている声が、窓を開けて仕事をしていたメイリーンにも聞こえてきていた。
「何事?あの騒ぎ」
「奥様がお気になさる事はございませんよ、たかが蝿ですから」
「…………そうは言っても、最近ずっとあんな騒ぎが門で繰り広げられてないかしら?」
侍従達はメイリーンにはその事は伝えてはおらず、侍従達がひた隠ししていた。
ヒューマに聞いても、『ラノックの支持者ではないか』と返される始末だったのだ。
「…………貴族のご令嬢ばかりね……ご夫人も居る?」
「お、奥様!少しご休憩しませんか?お仕事詰め込み過ぎてお疲れでしょう?」
「………まだ大丈夫よ?わたくし」
「あ!虫が入ってきてます!窓閉めますね!」
ヒューマだけでなく、侍従達も隠そうとする態度に腹が立って来るメイリーンは、仕事を中断し執務室から出て行った。
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