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絡み合う迄

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「俺の部屋で、と言うと恐縮しそうだから、蝶子が使う部屋へ行こうか」
「…………は、はい」

 扉を開けた隼人は先に蝶子に入って貰おうと、入口で留まる。

「先にどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 蝶子の部屋には一人で使うには大きなベッド、本棚に犇めき合う様に積み込まれた本があり、応接セットやら2人掛け用のテーブルと椅子に、机もあるだけでなく、お風呂場もある。客間もある鬼龍院家でも、ここまで広くないのだが、蝶子への待遇は客間を使わせる来客以上だ。
 隼人はソファに座り、横の空いた場所にぽんぽんと叩く。『ここに座れ』と言われている気がして、隼人の横に座った蝶子。

「蝶子」
「は、はい」

 隼人は蝶子の顔を覗く様に、膝に肘を当て背を曲げる。蝶子は隼人に顔を覗かれ、顔を赤らめた。

「…………そんなに嫌だ?」
「…………え?」
「俺との結婚」
「嫌と言う訳ではなく、隼人様が私では不釣り合いだと思うので………」
「何でさぁ………勝手に決める?」
「……………だ、だって……今回の事は……事件の事が原因で……」

 蝶子は隼人の前だと緊張して思う様な言葉を紡げない。じどろもどろで顔を赤らめる。
 そんな蝶子を可愛いと思っているが、本心を隠す様な蝶子の本音をずっと知りたかった隼人は、権藤の別邸での熱情的な感情を顕にした蝶子を、隼人自身に向けて欲しいと思ってしまった。

「甘える事は苦手だもんな………蝶子は」
「…………っ……」
「そして、俺に遠慮がちになる考えをする」
「……………わ、私は……」
「気持ちをぶつけてくれないのは寂しい」
「っ!!」

 蝶子は見つめられ過ぎて、隼人からまた目を逸らし背を向けた。

「蝶子、俺を見て」
「……………」

 蝶子は恥ずかしくて首を横に首を振る。好きな人には、緊張し過ぎな蝶子だったのは、最近になって隼人は分かったのだ、やっと。

「…………へぇ~……目隠ししたら見れるのかな?」
「…………え?」

 隼人は、ソファから立つと鍵を取り出し、机の引出しを開けて、何かを持ってくると蝶子の横に再び座った。

「………あ、あのこれは?」
「これ?見覚え無い?こうすると分かるかも」

 蝶子の目に当てた隼人。だが蝶子はその光景を思い出し、尻込みする。

「い、嫌ぁぁっ!!」
「…………嵌めないよ、蝶子が嫌がるのは分かってる」

 ソファの前に目隠しを起き、隼人は蝶子の顎を上げた。

「まだ…………分からない?」
「な、何故……この目隠しを隼人様が?」
「…………う~ん………じゃ、これは?」
「…………!!」

 蝶子は驚く。隼人からの触れ合い等今迄無かった。顎にさえ触れられた事も、手を繋いだ事も無い。だが、隼人は蝶子の唇を自身の唇を重ねる。

「…………は、隼……人……様?」
「まだ分からないかなぁ?………なら、これは?」
「んっ!……………んんっ……」

 唇を舌で割り入れられて、口内を襲う。蝶子は舌を引き吸われ、甘噛みと唾液が絡む口づけを隼人にされた。苦しくて、息の吸い方が分からず、鼻や僅かな唇の隙間から息をするのだと、教えられた事があるのを思い出す。

「つ…………き…や……さ……」
「………………」

 月夜の名を思わず出してしまった蝶子。しまった、と目を見開き、隼人を突き飛ばそうと試みたが、隼人の腕が既に蝶子の背に回されており、逃げ出す事が出来ない上、隼人と目が合った。

「っ!」
「……………蝶子………月夜、て……言った?」
「も、申し訳ありません!!」
「…………何で謝る?」

 気が付いてくれたと思っていた隼人が、蝶子に謝られて不服そうな顔をしている。

「わ、私…………隼人様の前で…………別の男性の名を………」
「……………… プッ………」
「は、隼人様?」
「何だ、気付いてくれたと思ったんだがなぁ………」
「…………気付いた?」
「………『俺を隼人だと思ってくれて構わない』………と、いう言葉に聞き覚えは?」
「………………え?」
「あぁ、こうも言ったなぁ……『蝶子、愛している』………と……」
「っ!…………」

 蝶子は気が付いたのか、涙を溢す。隼人の指が、蝶子の頬を伝う波を拭うのは直ぐだった。

「気が付いた様だな………権藤の上書きをしたのも、あの後求婚をしたのも俺だよ」
「月夜さん…………だったんですか?」
「…………名乗れなくてすまない……権藤に知られる訳にはいかなくてね……」
「……………ひっく……酷い………わ……私を……嘲笑ってたんですか!?………知らない私を、あれだけ隼人様の名を泣き叫んでいても、隼人様は…………隼人様…………上書きで……………月夜さんだと思っていた男性に、隼人様の面影追って縋った私の気持ち…………隼人様の気持ちを諦めようとした苦悩は…………」
「くっ!…………蝶子………すまない」

 隼人は思い切り力を入れて蝶子を抱き締める。

「…………良かった…………うっ………ぅぅぅ………隼人様で…………月夜さんに惹かれていたんです………だから………汚れた私を例え上書きだとしても、月夜さんに縋りたかった…………隼人様に求められなくなりそうで怖かった………」
「愛している………蝶子……お願いだ……俺を拒まないでくれ……」
「…………隼人様……」
「!!」

 蝶子は隼人の背に腕を回した。
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