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プロローグ
②
しおりを挟むある日、コレットの祖母や年老いた者が次々と亡くなった。原因は不明。だからだろうか、街人達は薬を作った薬師であるフィーナ1人に責任を擦り付けた。亡くなった者達は皆、フィーナの薬を飲用していたからだ。
調べる者や機関等は無い。ただ物的証拠や想像だけで、疑う者さえ居たらそれを信用してしまう。フィーナの信用は地に落ち、噂が噂を呼びフィーナへの批判は、住んでいた街だけでなく近隣の街迄も広まっていき、コーウェンさえもフィーナに会いに来なくなった。手紙にはフィーナを擁護する内容が書かれていても、フィーナにはコーウェンを信じる力が失くなっていく。
「フィーナを捕まえよう!」
「そうだ!フィーナを罰しよう!」
暫く、フィーナに被害が及ぶ事はなかったのだが、街の人々はフィーナへ物も売る事も拒否し、買う事も拒否し、売るとしても、高額に吊り上げられた腐った食材を売り付けたり、フィーナへ投げ付ける行為に迄に進展する。
フィーナも街を捨て、移住すればいいのだが、街の人々への恩や、本当ならそんな事はしない、と信じていたし、コーウェンに告げずに街を出ようとは思えなかった。
その態度が、また街の人々の癪に障るのか、遂にフィーナは捕まえられてしまう。
「私が何をしたと言うの!」
「魔女は死ね!」
「人殺し!!ウチのじいちゃん、お前の薬のせいで死んだんだ!!」
フィーナの声に誰も耳を傾ける事は無い。
―――私は何もしていない……何故私も………お父さんやお母さんも何もしていないのに殺された……私は、こんな人達の為に死なないわ……使いたくなかったけど、潮時ね……
国に認められていない魔女の処刑は、火炙りと古来からされていた国で、フィーナは魔女の扱いを受け街の中心部の広場に連れて来られた。
「フィーナ!!」
「………コーウェン!!」
「フィーナは人殺しする様な女じゃない!!」
コーウェンが処刑を阻止しようと訴えるが、いくら街の英雄であるコーウェンの言葉でも信じる者は居なかった。そして、同僚の騎士団の男達に羽交い締めされ、フィーナを助けられないように迄されたのだ。
「コーウェン!魔女を庇うとお前も同罪になるんだぞ!」
「離せ!」
その間に、処刑台に乗せられたフィーナ。
―――コーウェンはまだ信じてくれてる……賭けてみよう………
「コーウェン………助けて……」
「コイツ!何人も殺しておいて助けて貰えると思ってやがる!」
「私のおばあちゃんはアイツの薬で殺されたのよ!痛風なだけだったのに!」
「…………コレット……」
―――コレットはコーウェンが好きだった……恨みがあるのはコレットだけだと思ってたけど……
フィーナは、街の英雄であるコーウェンに想いを寄せる若い女達が多いのは知っていた。その恨みがあるのは分かる。それが、『魔女狩り』の様に処刑されるのは間違っていないか、と思えて仕方ないし、薬に致死量の毒の物等、フィーナは入れていないのだ。
「私はやってないわ!!ちゃんと調べてよ!!」
「お前以外居ないんだよ!」
バシッ!
「っ!!」
縛られているのもあり、抵抗も避ける事も出来ない。頬を殴られ口の中が切れ、口端から血が垂れる。
「魔女でも赤い血なんだな!」
「早く殺せ!」
「骨迄焼き尽くせ!」
暴動化する民衆の中で、なす術無く処刑台に括り付けられたフィーナに火が灯された。
「フィーナ!!」
羽交い締めする騎士団達を振り払い、コーウェンは処刑台の傍に駆け寄る。
「水!直ぐに消してやる!我慢しててくれ!」
「…………コーウェン!!聞いて!!」
「フィーナ!話する暇等……」
「愛してるわ!コーウェン!!………お願い、貴方からも気持ちを言って!」
「………くっ!」
大勢の人達の前で、告白する度胸等、コーウェンには無く吃ってしまう。
「お願い!!………私はこうなっても街の人達を怨んで死にたくないの!!思い残す事は貴方から欲しい一言だけ………お願い………ゴホゴホッ………」
「フィ、フィーナ!!………消してくれ!!」
「殺せ!燃やせ!」
「燃えろ!」
火の上がるパチパチと燃える音や民衆達の声でコーウェンの声が欠き消されて行く。
「フィーナ!!…………ゲホゲホッ……」
―――い、言えない!言ったとして、フィーナはもう……
立ち上がる火や煙の威力が強く、フィーナの身体も人影があるのは分かるが、顔も認識出来ない。そして、悲鳴が聞こえなくなって、コロッと頭らしき塊が処刑台の上で落ちたのを、コーウェンは見たのだった。
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