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鉱山倒壊
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しおりを挟む「何するんだ?」
フィーナは魔獣を囲む魔法壁に手を添える。
「見たくなかったから目を逸してね」
「…………俺が剣を刺しても……」
「壁が壊れちゃうわ………外からの攻撃には弱いの……逃げられない様にしただけの魔法壁だから、風魔法での攻撃が良かったの……」
―――ごめんなさいね……人を傷付けたらもう生かせてあげられない……せめて、その痛みを私に使わせて頂戴……
慈しむ様に、暴れる魔獣の目を見つめるフィーナ。
「フィーナ、如何した?」
「…………見るに堪えないからコーウェンも目を逸らしたら?」
「フィーナが見てるなら、俺も見るさ」
「あ、そっ………」
―――潰れろ!!
ギジギジと、魔法壁が縮む。魔獣からの悲鳴が甲高く、痛々しく悶え苦しむ魔獣が壁の中で潰れていく。
「お、おい……フィーナ………」
「だから、風魔法で首を切って欲しかったのよ…………ごめんね……痛いよね……でも、貴方が傷付けた人達はもっと多いのよ……住処を荒らしてごめんなさいね…………」
ブシャ、と壁が潰れて空間に消えた魔獣。ポタポタと血が地面に滲み、跡形も無くなってしまった。死骸があるならば、胃を切り裂き魔獣に食べられた人達を出してあげられただろう。
「ま………魔女よ!アイツは魔女だ!!」
「ち、ちょっと!フィーナが居なければ皆助からなかったんだよ!言うべき言葉は礼だろ!」
今朝、フィーナに悪質な言葉を投げた女が、また騒ぎ立てた。フィーナへの悪意を持つ者も他にも居るが、擁護する者も居る。
「フィーナは魔女じゃない!」
「じゃあなんだい!その隠してる火傷は!気持ち悪いったらありゃあしないね!」
「フィーナの火傷は事故だ!」
「コーウェン!彼女に何を言っても、信じないわよ……彼女は私を信用していないんだから………そういう人と話すのは只の水掛論よ………彼女の夫も怪我してるし、貴方は早く怪我人を連れて来て!」
「アンタはウチの旦那は触らないでおくれ!」
「………それでもいいなら私は構わないわ………それに、貴女のご主人より重傷者が多いもの。それ迄貴女が手当てすればいい」
フィーナを信用しない者達は、医者の手も借りず傷の手当を始める。医者はフィーナの薬を使いたい、と宥めるが一向に進まないでいた。
「先生、コッソリ使って下さって大丈夫です……コレが消毒薬、コレが切り傷用の軟膏薬、コレが痛み止めですから」
「助かるよ、フィーナ」
「…………いえ……」
―――反感を持つ人の方が正しいかもね……
フィーナが作る薬は、毒薬ではない。本当に効く薬を作っている。それでも、フィーナを信用してくれなくてもいいのだ。大した事をしているとは思ってはいない。
懸命に救出して、不明の人が誰かを確認する鉱夫達。すると、現実を受け止められなかった鉱夫の家族達が泣き叫ぶ声が響いた。
―――やっぱり、腹割いて……無理だったのよ………私では……
「何で、フィーナは魔獣を潰したんだ!」
「死んだ奴等の遺体は如何なる!」
「フィーナ!」
治療措置をフィーナは手が離せないまま聞いていた。
「…………くっ…責任転嫁しないで欲しいわ」
「フィーナ………君は悪くない……決してな」
「…………先生……いえ……取り出す方法はあったんです………でも……魔法を使える者が居なかった………居たとして、時間が掛かったら、助かった者達も危なかったんです………それが分かる程、皆の頭が追い付いていない……」
「おい!フィーナ!!魔獣に食われて死んだ奴等の身体は如何なったんだ!」
怪我人を手当をしているフィーナの腕を掴み、説明を求める鉱夫や亡くなってしまった鉱夫の家族達。
「ちょっと止めておくれよ!今ウチの人を手当してくれてるんだよ!」
「重傷者も多いんだ!フィーナの手を止めさせるな!」
しかし、生き残った重傷者達側の家族や治療待ちの鉱夫達との衝突も始まりそうになってしまう。
「だから言ったわよね!私は!風魔法が使える人は居ないか、と!魔獣の腹を切り裂いて、消化されてない肉片だけでも取り出せる事も出来たの!でも使える人は居らず、私の魔法壁の強度も破られる事も考えられた!壁が破られたらまたここに居る者達も危なかったのよ!!一刻も猶予が無かったあの場で、誰かが判断しなければならないでしょ!私が判断しなかったら、他に分かってた人居たのかしら!?」
「……………そ、それは………」
文句や後悔を言い出したら幾らでも出て来るだろう。そして正論は出ない。ただ、フィーナは状況的判断でそうしなければならなかっただけだ。
「もう、いいだろ……元はと言えば、魔獣を怒らせた人間側が起こした事だ」
「あ、アンタは救助に入ってくれた……」
「フィーナとは長い付き合いでな……フィーナの薬の効果も保証するし、あの判断は間違ってはいないと俺は思う。2次被害、3次被害が無かっただけ、良かったと思っておいた方がいい」
コーウェンも怪我人の手当を勝手出て、この騒ぎを傍観していた。コーウェンも魔獣に食われた人達を出してやりたかったのは本音だったのか、悔しさを滲ませていた。
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