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後悔と諦め、そして決意
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しおりを挟む家に戻って来たフィーナは、魔法陣を作る。この場からなら、人に見られる事は無いからだ。
―――ユージーンの所へ
魔法陣を作り、呪文を唱えると一瞬にして景色が変わる。
「………何だ、馬鹿弟子……久しぶりじゃないか」
「………ユージーン……」
「如何した、その声色は願いを成就させた顔ではなさそうだな………先日、俺の魔獣を殺しておいて……」
魔法陣からフィーナは出ると、銀髪の長髪に盲目の男にしがみついた。目には切り傷が3本ずつ入り、瞼が開かない。
「………悪かったわ……でも、いずれそのつもりだったでしょ?鉱夫達が魔獣の住処を荒らすのは分かりきってたもの」
「まぁな………見事な魔法壁で、師匠であり叔父である俺は鼻が高いぞ」
このユージーンという男は、フィーナの父の親友であり、母の兄だった男だ。ユージーンがフィーナの頭を撫でると、フィーナはユージーンから離れた。
「…………おかげで、私の呪いは王都のあの街人達に贈れてるわ……あと数日もあれば、王都で騒ぎになる筈よ」
「生温いやり方だがな………フィーナがしたい様にすればいい………俺は力を貸す」
「…………ごめんなさい……見届け人迄頼んで」
「…………可愛い姪の為だ………たが、何を悩んでいる?」
「…………っ!………ユージーン、目が見えないのに、よく分かるわね」
ユージーンから、茶を差し出されフィーナは口に含む。しかめっ面をするフィーナが口に入れた茶は、美味しい物では決してない。
「声質で分かる………何年お前を育てたと思っている」
「…………コーウェンが私の前に現れたの」
「…………あぁ、3年前にもお前の心を掻き乱した男か……」
「…………コーウェンの熱情的な性格が辛い……」
「引き返すか?………もう無理なのは分かっているよな?」
「分かってるわ!私は………死を待つだけだもの………」
そう、フィーナは自分の生命を掛けているのだ。両親を殺され、妹を連れ去られ、復讐を誓っている。自分を鼓舞し、生命を削る事で魔力を極限迄引き出して今に至る。
ユージーンはフィーナの頭を撫でると、腕の中へ包んだ。
「………俺も道連れだ……あの愚王はあれだけ俺が反対したのに、力を欲した……お前に協力は惜しまんし、この生命さえもお前にくれてやる………この目の恨みもあるからな」
「…………もう時間掛けてられないわ……コーウェンが勘付いてると思うもの……」
姪と叔父の抱擁。フィーナはその叔父に縋りたくて、泣きたくてユージーンの背中に腕を回す。
「そのコーウェンという男は、こちら側に引き込めないのか?」
「…………出来ないわ……あちら側の人だもの……でなきゃ私はこんなに悩まなかった……だから………3年前の二の舞いにはなりたくない」
「…………あちら側だと?」
「……………えぇ……私の記憶が間違ってなければ……」
「……………雷か?」
「…………そうよ……何番目か分からないし、素性を隠してるけど息子なんじゃないかな、と思ってる」
「引き離せないのか?」
「出来ればこんなに悩まないわ!ユージーンに泣きつきになんて来ない!」
涙目になり、ユージーンに抱き着く手に力が入るフィーナ。
出会いは偶然だったかもしれない。だが、フィーナはコーウェンの真面目で誠実な所を好きになり、コーウェンは助けてくれたフィーナに想いを寄せ自然に惹かれて行ったのは、偶然であって欲しいフィーナ。
3年前に最悪な別れをフィーナはコーウェンに与え、もう2度と会わない事を願ったのに、何故またコーウェンと再会しなければならなかったのか分からない。
未来が見られたのなら、フィーナはコーウェンに会わない様に策を練れたのだ。それが叶わないなら、また逃げるしかないのに、鉱夫達を放置する事は出来なかったフィーナ。
好き好んで作った惨状ではないのだ。事故に見せかけ、怪我をした者達の痛みを、フィーナを処刑台に乗せた3年前迄住んでいた街人達に、鉱夫達の痛みを移している。王都の片隅の街一角での奇病はそろそろ国中に広まって行くだろう。その奇病の解明に、王都の医者達や王都直属の魔道士や魔女達の目をそこに持っていく事が狙いだった。
幾ら治療した所で治せない呪いに王都は躍起になっていればいい。役に立たない魔力だと、魔法が使えない者達から反感を買えばいい。王が魔法に依存し過ぎて国が混乱している中で、その痛みも王や王族全員に移行させ、その隙にフィーナとユージーンは王の首を取りに行くと決めている。そして、フィーナの妹、フィーネの救出と両親の遺体や遺品を見つけて供養したいのだ。
「いいんだな?お前がそのコーウェンという男に手を掛けれなければ、俺がヤルぞ?」
「…………っ!………か、構わないわ……何方にしても………私はこの生命に未練は無いもの……成就したら私は自害すると決めてるし………」
「…………フィーナ……」
「私は、フィーネが無事ならそれでいいの」
目を腫らし、ユージーンから離れたフィーナ。目尻を押さえ、涙を拭き取ると魔法陣を作った。
「薬草を摘みに行かなきゃ……重傷者が多くて足りないから」
「………なら、あの麻袋に詰めておいた、持っていけ」
「…………いいの?」
「あぁ、重傷者を助けてやれ……彼等には罪は無いしな………お前を処刑台に乗せた奴等の方は如何でもいい」
「………本当、姪に甘い叔父さんね」
「師匠としては厳しかったが?」
「えぇ、鬼だったわ………また来れたら来るわね」
「俺も決戦日には駆け付けよう……王族に反感を持つ同士達と一緒にな」
フィーナは魔法陣の中に立つと、笑顔を見せフィーナは消えた。
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