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決別しますか?

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 フィーナを引き止めたコーウェンの表情が硬い。その表情に、フィーナは憎しみを含む目を贈った。

「………何?」
「魔法陣使えるなら、王都の南市街地に俺を送ってくれないか?」
「何で私が?………勝手に自分の足で行けばいいじゃない……魔力は無限じゃないのよ?」
「頼む」

 その真剣な眼差しから頭を下げたコーウェン。それにより、コーウェンは耳にしたのだろうと察した、フィーナ。
 フィーナが、呪いにより鉱夫達の怪我のを、以前住んでいた街の住民達へ移行させた事を。そして、この街に住み始めてから、怪我や病気に関する痛みも移していた事を知るかもしれない。それが、コーウェンにとってフィーナへの扱いも変わるだろう。憎しみを向けるのであれば容赦せずフィーナはコーウェンに痛みを与える覚悟をしなければならない。3年間、コーウェンや、フィーナを擁護して来た者は呪わなかった。だが、フィーナの復讐の為には邪魔になる存在に変わるなら、コーウェンも対象にする、とフィーナは考えていた。だからこそ、突っぱねていたのに。

「………何かあったの?」
「本当はお前も連れて行きたいが、鉱夫達の事もあるから俺だけ行く。何でも南市街地中心に、奇病が流行っているらしいから、フィーナに見て欲しいのは山々なんだけど……」
「絶対に嫌」
「………分かってる……フィーナには辛い場所だ………無理矢理連れて行こうとは思ってない」
「分かってるなら、なんて言わないでくれる?私はあんな人達が如何なったって知らないわよ」
「……………心情はな……だが、お前は薬師だ、それを全うする事は出来ないか?」
「する訳ないじゃない………は別よ」
「………そうか………なら、魔法陣だけ頼めないか?」
「嫌…………行きたきゃ、と言ったわよ………私は

 頑なに拒否するフィーナに、コーウェンは諦める。それだけの事をされたのも知っているコーウェン。フィーナは被害者なのだ。それが分かるだけに強くは出れないコーウェンは、そのまま家を出て行く。

「フィーナ………様子を見て来たら戻ってくる………また話がしたい」
「………来れるかしらね……そんな、奇病が何なのか分からないのに、知り合いがその奇病に掛かってたら放っておけないんじゃないかしら?」
「………分からん………だが、俺はフィーナが心配だ」
「心配してくれなくて結構よ……私は今のここの生活に満足してるから」
「…………そうか……ならいい」

 フィーナの家の扉を隔てて話しているフィーナとコーウェンの境界線。これから決別するであろう事をお互いに予感し、コーウェンは扉を閉めた。

 ―――さよなら、コーウェン

 扉をじっと見つめ、涙を溢したフィーナ。人の気配が無くなると、鍵を閉め魔法陣を再び作ると、鉱山の方へ向かった。
 一方のコーウェンは馬を買って、王都へと向かうべく急ぐ。

 ―――フィーナを止めたい………頼む、フィーナの呪いでない事を願う……フィーネに会わせたくないんだ……あの女は……もう……

 コーウェンは、フィーナの妹フィーネの何を知っているのか、フィーナに何も伝えずに別れてしまった事を、あの場では良かったと選択し、コーウェンはコーウェンでやれる事をするだけだった。この選択が如何なるか分からないまま、右往左往しながら藻掻くしかないのだ。

        ❊❊❊❊❊❊❊

 王都、南市街地。
 コーウェンが街に入ると、コーウェンが記憶する街の装いと様変わりしていた。綺麗な街だった。だが、奇病のせいか街の衛生面を注視する人も掛かってしまったのか、道端にさえ悶え苦しむ様に地面にのたうち回る人々が居る。

「な、何だよ………これ……」

 フィーナの呪いは1人の怪我を1人へ移行させた痛みではない。1人で負った怪我の数カ所を分担し振り撒いた呪いだった。
 それだけ、重傷者が多かった鉱夫達ではあるのだが、怪我人達全ての痛みを取ってあげた訳ではない。痛みを完全に無くなると、怪我が治ったと思い無理をするからだが、その日々の痛みの8割程の痛みを何度も振り分けた為、街の住民ほぼ全体へと振り分ける事が出来たのだ。
 一気に増えた奇病は、フィーナの思う壺だった。鉱山の近くの街であれば明らかに怪我人が多く、痛みを呪いに出来るのだから。

「急げ!この女性はかなり進行しているぞ!早く調べるんだ!」

 ある家から運び出された担架に乗せられた女性。その家に見覚えがあったコーウェンは駆け寄る。

「コレット!しっかりしてくれ!」
「コレット!!コレットか!」
「何だ、アンタ知り合いか?彼女と」
「あ、あぁ、以前この街に住んでいたから、顔見知り程度だが」

 同じ様に、家から出て来る男にはコーウェンは見覚えは無かったが、担架で運ぶ者から、その男を静止させる。

「旦那さんは待っててくれ!」
「彼女が1番酷いんだ!」

 コレットの声は唸って会話も成立しないが、コレットはコーウェンの顔を見て、気が付いたのか、声を出そうとしていた。

「コ……ゔっぁあっ……あぁ……」
「コレット………」

 何処に連れて行かれるのかが分からないまま、コーウェンは動けなかったぐらい、見違える程変貌したコレットを見て恐怖さえ覚えたのだった。
 
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