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魔法研究所

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 バキバキバキバキッ!

「「「「「!」」」」」

 コレットから魔力を吸い取る作業中、魔法具が耐えきれずに壊れた。

「な、何故壊れた!?」
「わ、分かりません……吸い切る事も出来ておりません!」

 コレットは未だ苦しそうで、悶えたままだ。

「それだけ、フィ……呪いが強いと言うのか?」
「如何致しましょう……殿下」
「城には、魔法具が壊れたと言っておけ……コレットが生命があるだけ良かった………」

 ロマーリオは踵を返し、部屋から出て行こうとする。

「ロマーリオ殿下!何方へ?」
「………もう此処に居ても意味が無い………あ、城に………とだけ聞かれたら言っておけ………サムエル、行くぞ」
「は、はい」

 慌てて、サムエルはロマーリオを追い掛ける。

「殿下!」

「………っ!……コーウェン!呪ってるのは誰なんだ!」
「…………此処では言えない」

 魔法研究所内で、の存在は出せない。暴露したのはロマーリオ本人だが、止める術の権限が無いロマーリオにとって、の権力を出すしか無かったのだ。
 サムエルが気になるのも分かってはいるが、話も出来る限りしたくなかった。それだけ、ロマーリオに降り掛かる呪縛が重く、国のに拘わらせる者を増やしたくなかった。

        ❊❊❊❊❊❊❊

 騎士団の詰所に戻って来たロマーリオとサムエル。

「説明してもらいますよ、ロマーリオ殿下」

 鬼の形相で、ロマーリオを睨むサムエル
。騎士団長は魔法研究所内の事を見に行ってないので、何故サムエルが怒っているのかも分からない。

「サムエル、そんなに怒りを露わにするな」
「団長は黙ってて下さい!……殿下は俺にさえ隠してるんですよ!」
「…………隠しているのは申し訳ない……だが何処迄言えばいいか、俺も整理出来ていない………」

 ロマーリオはこの2人には、自身の幼少期に起きた事を話している。だが、自分でさえフィーナがしようとしている事が分からないのに、どう説明していいか分からない。

「殿下は如何したいのですか?」
「如何したい、とは?」

 サムエルは、ロマーリオが王やトンプソンに反発心を持っているのを知っている。

「国の為に城にお戻りになるのか、傍観に徹するのか………」
「傍観………か……俺は3年前の事を後悔している………惚れた女を助けてやれなかった……」
「フィーナですね?」
「………フィーナは生きてる」
「「え!?」」

 ロマーリオは始めてサムエルと騎士団長に話した。2人もフィーナにあった事もあり、怪我をしたら治療もして貰っていた事もある。あの3年前の処刑の日、フィーナが死んだと思っていた。

「フィーナが生きてる、て本当ですか!」
「先日、リーダス山脈の鉱山近隣の麓の街に住んでいたのを知ってな……そこでも薬師として生計を立てていた」
「………じゃあ、あの時見た遺体は!」
「魔法具で具現化した人形らしい……火を放たれた後、入れ替わったんだと聞いた」
「人形作って迄逃げたんですか!じゃあ、本当に街の暴動になる迄になった原因不明の死亡案件の犯人はやっぱりフィーナ!」
「………それは分からない……だが、今街で起きている呪いはフィーナの仕業だ」
「な!」
「殿下!捕まえましょう!!今度こそ国家魔道士拒否罪を含む『魔女狩り処刑』を!」

 団長は、国の法律を守る義務から言うのは仕方ないかもしれない。
 しかし、ロマーリオの表情からサムエルは団長とは違う考えを持っているのを感じた。

「殿下………まさか後悔の念からフィーナを見逃すつもりではないでしょうね……」
「…………先日……リーダス鉱山で魔獣が出現した」
「魔獣?……殿下が倒されたので?」

 フィーナの話から、急に魔獣の話に変えられ、些か団長は誤魔化されたのでは、と怪訝そうな顔に変わる。

「………俺は何も出来なかったよ……魔獣を倒して街人達を助けたのはフィーナで、治療も今医者達としている」
「それが何か?今救済していたとしても、犯罪になるのですよ?」
「………団長、ちょっと待って下さい……フィーナが魔獣を倒したんですよ?倒せたの凄くないですか?殿下は倒してないんです……もう少し話を聞きましょうよ」

 ロマーリオは本心では納得する迄、隠しておきたくて自分がフィーナに何がしてやれるかを悩んでいたのだ。それには、フィーナの出生を2人に話さなければならないし、ロマーリオとの因縁も話さなければならない。

「魔獣出現は、鉱夫達が魔獣の住処を荒らしたからだ………土属性の魔獣だったからな…雷属性の俺の魔力では倒せない、とフィーナが判断して倒した」
「フィーナは、何の属性で?」
「分からない……聞いても答えない」
「殿下………フィーナが仕掛けたんじゃないんですか?」
「それも分からない……言っただろ?鉱夫達が魔獣の住処を荒らしたから怒って、人を襲った、と………その怪我をした人達を治療する人間が、3年前に人を殺すか?……お前達も、フィーナから治療を受けた者だろう?」
「…………それは……」
「それに………フィーナはあの処刑を目論んだ南市街地の街人達を恨んでいる………もしフィーナが犯人なら、そんなに強い魔力を持ってして逃げなかった?捕まる必要等無かった筈だし、抵抗し街を壊滅だって出来た筈だ」
「魔獣を倒す程ですしね……」
「…………それに、国家魔道士にならないのは、フィーナ自身の因縁がある……彼女の両親は俺が子供の頃、父上の命令で殺し、叔父である大魔道士ユージーンの視力を奪った」
「「!」」

 そんな事情がある娘が、国に反発するのは理解出来てしまう。

「………お前達を巻き込みたくないから言わなかったが……父上は魔力を掻き集め、近隣諸国に戦争を仕掛けたがっている」
「なっ!」
「それを反対したユージーンを協力しない為、ユージーンの妹家族、フィーナの両親を殺させ、フィーナの妹フィーネをトンプソンの妃にさせてな」
「な………何ですと……」
「今でこそ、ユージーンは犯罪者扱いだが、そうさせたのは父上だ……だから、俺はフィーナが全て悪いとは思えない……俺がフィーナの両親を殺したから、と贖罪だと言えばそれ迄だが、父上の魔力依存の………未だに戦争をしようとしているんじゃないか、と気が気でない……」
「…………殿下……私達がこちらで内密に調べましょう………いいな?サムエル」
「………えぇ……殿下の幼少期の事は、よく知っていますから……殿下は戦争を望んでないのですよね?」
「当たり前だ………侵略されているならいざ知らず……領土を広げて何になる?旅をしてきて、豊かな訳ではない街や村はあっても、人々は荒んでない」

 ロマーリオは、王都の偵察をサムエル達に頼み、フィーナが居るリーダス地方へと戻った。
 魔法研究所の事も含めて。

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