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形勢逆転

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 1ヶ月後。フィーナは魔法研究所の1室のベッドに身体を起こして、薬を飲んでいた。

「嫌がらず飲んでて偉いぞ、フィーナ」
「………飲むしかないじゃない……痛いもの……早く治したいし」

 いつの間にか、戦いは終わっていて、ロマーリオは事後処理に追われているという。本人も、内臓を負傷しているのに、残された王族が、ロマーリオ1人になった為、国政もさせられているらしい。
 漸く身体は起き上がれる様になったフィーナだが、まだベッドから出る事を許されてはいない。それは叔父であるユージーンが許さないからでもある。

「火傷の痕も消してくれたのね、ユージーン」
「当たり前だ、せっかく美人なんだから、胸の治療と共に皮膚を移した……太腿の皮膚からだがな」
「………結局は残るんじゃないの」
「ロマーリオ殿下の許可は取った………どの道、今後見るのはロマーリオ殿下だけだしな」
「………なっ!」
「結婚しろ、フィーナ」
「………え?」
「呪いは解けている」
「………え?本当に?」

 目が覚めたのも数日前で、気が付いたら終わっているという事実に、情報処理が追い付いていないフィーナ。

「国王はフィーネの魔法で凍死したからな」
「凍死?」
「あぁ………そのまま、焼却処分されて、もう墓の中だ……ロマーリオ殿下の考えでな」
「フィーネは?如何なったの?」
「数日、高熱にうなされ、城での事もそうたが、誘拐される前の記憶が混在している……だが、残虐性は感じない……ちゃんとお前の事も覚えてるぞ?」

 嬉しくなる。全部フィーナの事を忘れてしまってなくて、嬉しくて涙が溢れたフィーナ。

「でも、何故呪縛が解けたの?」
「フィーネが目の前でお前に攻撃された場面を見て、両親の事と記憶が重なったんだろうと見ている」

 ユージーンは、ロマーリオからの話とユージーンからの情報から割り出した見解でフィーナに説明していった。

「………そっか……じゃ、私の胸の傷は名誉の負傷だ」
「傷は、心臓からズレていて助かった……内臓の損傷が治ったら、傷も消してやる」
「………私、まだまだユージーンに教えて貰わなきゃね……こんなに大きくて深い傷の外傷なんて、消す腕無いもの」
「………そんな暇がお前にあれば、な」
「………あるわよ………もう誰も恨む事無いんだし」

 ユージーンは溜め息を吐きながら、ウザそうに呟いた。

「お前………ロマーリオ殿下と結婚するんだろう?……それならお前にはの称号が与えられる」
「へ?」
「渋ってはおられるが、ロマーリオ殿下は即位されるだろうよ」
「なっ!冗談じゃないわよ!私が出来る訳ないじゃない!」
「なら、殿下に別れを告げるんだな」
「…………ゔっ……」
「まぁ、無理だろうが……」
「…………そ、そんな事ないわよ……」

 フィーナに王妃となる素質があるとは思っていないし、薬師を続けていきたいと思っている。
 考え込んでいるフィーナだが、ユージーンはフィーナの腹へ指を向ける。

「フィーナ」
「ん?何?」
「お前、気が付いてないのか?」
「は?何を?」
「………お前、妊娠してるぞ?……気を失っている間、流産しない様にはしていたがな……殿下には知らせてはいない……お前の考えを無視しては駄目だしな」
「…………に、妊娠してる……の?」
「そうだ………殿下の思う壺だったな……」

 フィーナは腹に手を添える。

「産むなら、だぞ?」
「…………産まない選択肢なんて無いわ……でも、自信無い……」
「まぁ……相談するんだな……を殿下に飛ばしておいたから、時間がある時に来られるだろう……殿下は多忙過ぎて来れなかったし、お前も意識しっかりする迄は、と連絡してなかったしな」
「な、何話せばいいの!」
「そんな事は知らん……俺はフィーネの様子を見てくる」
「あっ!」

 フィーナの居る部屋から出て行かれて、フィーナは1人になった。

「ど、如何しよ……」

 避妊薬を飲もうとすると、ロマーリオに取り上げられたり、またなし崩し的に抱かれてしまうので、飲めるタイミングが無かったフィーナ。
 ロマーリオからしたら、フィーナを繋ぎ止めていたいからの事だし、フィーナ自身ロマーリオ以外、好きな男は居ないのだ。他の男との子を産みたいとは思わない。
 悩んでいると、開いていた窓からユージーンが飛んで来た。

「クワッ!」
「………ありがとうね、あの時風を浴びなかったら、私死んでたわ」

 斬撃がフィーナに飛んで来た時、ユージーンが風を起こして、フィーナの身体を浮かしたのだ。
 名前があるといいのだが、とは呼べないだろう。せっかく懐いてくれているから傍に居て欲しい。

「名前、如何しようか?付けてあげたいな…………ウィンド……」

 風属性の魔獣なので、風に因んだ名前を付けようとするフィーナ。

「…………」
「……ウィング?」
「…………」

 フィーナの足の上で毛づくろいし始め、あくび迄している。

「ユージーン、何て呼んでたんだろ」
「クワッ!」
「…………ユージーン?」
「クワッ、クワッ!」
「………いやいや、ソレはマズイでしょ……」
「お、先回りされたか」
「クワッ」
「コーウェン……忙しいんじゃないの?」
「抜け出したんだよ………はぁ……良かった……意識戻って…」
「心配してくれてありがとう……そして、今迄の無礼な事とか……ごめんなさい……」

 ベッド脇に、腰掛けてフィーナを抱き締めたロマーリオ。

「無事ならいい………また助けられなかったんじゃないか、と気が気じゃなかった……事後処理の間も、生命に支障は無いと聞かされても、安心なんて出来なかった……もう……何処にも行くな……傍に居てくれ……」
「………私、になるの?」
「っ!………そ、それは……」
「悩んでるんだ……コーウェンは……」
「…………俺の弟や妹達の末路を考えたら、やっぱりが責任持たきゃならないし………国政を担う大臣達が頭下げてて……俺の存在は知っている者達だったしな……そ、それでもいいか?………俺が守るから!」
「…………責任感あるお父さんね……」
「……お父さん?」
「コーウェン、お父さんになるから」

 フィーナはロマーリオの手を片方、自分の腹へ当てる。

「…………マジか……」
「あと、私呪い解けたから……」
「…………な……」
「コーウェン?泣いてるの?」
「!……こ、こんなに嬉しい事はない……当たり前だろ………」
「……うん、私もよ」

 フィーナは横に座るロマーリオの頬へキスを贈ると、ロマーリオから唇へお返しが来る。

「い、今は………軽く……な……完治する迄我慢しないと、歯止めが効かなくなるから」
「……ふふふ……私もだわ」

 その朗報は、直ぐに国民に知らされた。暗い話から一転した出来事は、国民を安心させたのであった。
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