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10 *レイノルズside

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 翌朝、遅くに眠りに着いたレイノルズに、登城命令の知らせが入る。
 フロム侯爵家から帰宅出来てから、然程時間は経過していない。

「…………何だ!何の用だ!」
「両陛下からの勅令でございます。其方のと共に登城する様に、と」

 レイノルズの私室に眠る、全裸のミューゼをパサ宮殿の執事長がとシレッと言う。
 ミューゼのパサ宮殿での扱いだ。
 それでも、ミューゼの横柄な態度は変わらなかった。

「な、何だと?…………ご、午後から行く!」
「いえ、との事です」
「何なんだ!何も聞いてないのか!」
「私共は全く」
「サブリナに行かせろよ!」
「王太子妃殿下には関係ございません。お伝え致しましたよ、殿下に。馬車も用意しております、殿下のお世話を!は退室願い、準備して下さい!」
「きゃぁぁっ!な、何?何?」

 まだ眠ってたかったのだろう、ミューゼは抵抗して寝台から出たがらない。

「乱暴は止めろ!」
「このお部屋は殿下のお部屋。のお部屋とは違いますので」

 サブリナが居た時は、レイノルズやミューゼの癇癪がパサ宮殿に轟かない様に、侍従達も気を付けていたが、実質この2人に追い出された様なサブリナがもうパサ宮殿に居ないので、従順な態度は止めた様だ。
 貴族だろうと、パサ宮殿の侍従達は、これから何があるのか、何をサブリナが準備したのか、大まかに聞いているので、怖い物知らずだと言える。
 ミューゼをレイノルズの部屋から追い出し、レイノルズの準備を始める侍従達だが、ミューゼに対しては、手付かずにするぐらい手の平返しで対応を始めた。

「何よ!手伝いなさいよ!」
「最低限の事しか我々は出来ません」

 1人では出来ない事は手伝っても、化粧や髪を結う事は手伝わなくなっていた。

「あ、アンタ達なんて、クビにしてやるから!」
にその権限はございません」

 この後、レイノルズもミューゼも文句を言い合う姿が馬車の中で続いていたという。
 王城に到着しても、ずっと2人は不機嫌で、それは国王と王妃の前でも変わらなかった。

「遅いではないか、王太子」
「寝ておりましたので……」
「…………衛兵……」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 玉座から、衛兵に合図を送った国王。その直後、衛兵に拘束されたミューゼが居て、レイノルズはミューゼに振り向いた。

「ミューゼ!何をする!離せ!離すんだ!」
「クロレンス侯爵夫人は未亡人。既婚者としてあるまじき行為、王太子と不貞を働いた。醜聞を顧みず、長きに渡り余や王妃を謀った罪は償ってもらう。そして、其方の父、フロム侯爵の脱税容疑で嫌疑が掛かっておる。其方も加担した可能性もあり、よって取り調べさせて貰う」
「な、何でバレたんだ!」
「レイノルズ様!助けてぇ!」
「ミューゼ!」

 レイノルズはミューゼと引き離されて、不機嫌さを加速させていく。

「王太子、レイノルズ」
「……………っ!………どういう事か説明して下さい、父上」
「今申した………其方を呼んだのは、あの未亡人を連れて来る事、そして其方には今迄の愚行を改めさせる為、あの未亡人と別れて貰う」
「別れませんよ!別れて欲しいのはサブリナだ!俺はサブリナと別れて、ミューゼと再婚する!」
「罪人に王太子妃はなれん」
「ミューゼは罪を犯してませんよ!」

 怒りを抑える国王に、怒りを爆発させる王太子は氷と炎だ。相塗れる事は無い様に見える。

「再婚したくば、廃位せよ」
「…………なっ!俺は王太子ですよ!俺が居なきゃ誰がこの国を統治するんですか!」
「其方がこの国を思うのならば、不安要素を改めるのだな…………此処に、王太子妃サブリナより其方とあの未亡人に告訴状が届けられていて、サブリナがを提示しておる」
「サブリナが?…………何故サブリナが此処に居ないのです!何もかもアイツがミューゼの事を漏らしたに違いない!」
「…………サブリナは、亡命した」
「…………は?………離縁してないのにか!離縁せずに逃げるとは薄情な奴め!」

 このレイノルズの態度を見て、国王と王妃は落胆を見せる。
 感情的になっているレイノルズの本性が、サブリナから送られた手紙のままなのだ。

【国王陛下、王妃陛下。大変申し訳ございません。わたくし、王太子妃の地位を捨て、亡命したいと存じます。理由に関しては次の通りでございます。

1:レイノルズ王太子殿下は、妻以外の女性をパサ宮殿に囲っております。クロレンス侯爵夫人であり未亡人になられたミューゼ様でございます。わたくしと離縁を常日頃より、申し付けて来られ、離縁した暁には、ミューゼ様との再婚を望まれております。ですが、ミューゼ様のご実家、フロム侯爵家には脱税の容疑がございまして、別紙その証拠もお送り致します。罪人の疑いのある血脈から、王太子妃になれる前列は未だ無かったかと思われ、両陛下の威厳が損なわれるのでは、とご心痛お悔やみ申し上げます。

2:王太子殿下は殿下の職務を全う致しておりません。ほぼ、わたくしに任せてございます。傍若無人の態度をわたくしやパサ宮殿の侍従達に振る舞い、ミューゼ様との逢瀬に投じ、このお手紙を両陛下がご覧になっている間も、フロム侯爵家で逢瀬を重ねて居られると思われます。

3:我慢して参りましたが、わたくしの心が壊れるのを危惧し、わたくしから王太子殿下へ離縁状を叩きつけたく思います。亡命という不義理な行いに、両陛下への信頼は消え失せるかと思いますが、国内に居れば、王太子殿下はまともに政務を行うとは思いませんので、両親や兄達と共に、爵位返上と領地返還を致します。離縁に関しましても、後は両陛下の承認のみ残す事になりますが、わたくしは離縁が成立されなくとも、オルレアン国に帰還する気は毛頭ございません。わたくしを罰する、と申されるのならば、王太子殿下の王太子であらねばならぬ所業をご確認頂ければ、お心も変わるかと思っております。今後、オルレアン国で王太子殿下が御裁可された事業の成果をご覧になれば、オルレアン国が危うくなる、と見越して先に両陛下へお知らせしておきます。わたくしの事を本当の娘の様に可愛がって頂いた恩を仇で返して申し訳ございませんが、わたくしの事を思って頂けるなら、離縁の承認をお願い申し上げます。】

 と、数多くの証拠や証言を国王と王妃は夜中、確認してレイノルズを呼び付けたのだ。
 大きな溜息と、落胆、静かに1人騒ぐ王太子の教育が間違っていた、と後悔しか思わなかった。


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