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村雨の過去①

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 結果的、最後迄はシなかったが、村雨は茉穂の媚薬効果が完全に切れる迄、愛撫を続けた為、茉穂は村雨のマンションに泊まってしまった。

「寝みぃ……珈琲でも飲むか……」

 狭いシングルベッドの片隅でスヤスヤと寝息を立てる茉穂の寝顔に村雨はキュンと来る。全裸のまま、挿入の無いセックスを続け、お互いに眠ったのは2時間程前だ。
 朝日が部屋に差し込み目が覚めた村雨は、珈琲メーカーでエスプレッソを淹れる。朝は濃い目のカフェインで眠気覚ましをするのは村雨の日課だ。

 ―――走りに行きてぇが……寝てるよな、まだ……

 エスプレッソを流し込み、ランニングシューズを履いた村雨は、書き置きだけしてマンションを出る。
 今、村雨のマンションには食べる物も無く、ランニングした後に近所のベーカリーでパンを買って帰るつもりの様だ。
 30分程走り、マンションに戻るがまだ茉穂は寝ていた。

「………まだ寝てたか…」

 買って来たパンをテーブルに置き、茉穂の服や下着を洗濯機に入れる。流石に汚れた下着をそのまま着させるのは酷だろう、との優しさだ。
 茉穂が起きる迄、村雨は朝食を食べずに待つ。その間、シャワーを浴び上半身裸で出て来ると、茉穂が目が覚めてベッドの上で上半身を起こして目を擦っていた。

「起きたか」
「………っ!お、おはよ……」
「シャワー使えよ……服、洗濯機に入れたから、俺の服で良けりゃ着てくれ……女物なんて無いんでな」
「え!私帰りたいんだけど!」
「服乾くの待てよ………酒臭い服と、エロ汁塗れの下着、また着たくないだろうと思ったから洗ってる」
「………それは………有り難いけど…」
「シャワー浴びたら飯食おうぜ……近所のパン屋で幾つか買ってきた」
「…………どうりで美味しそうなニオイすると思った……」

 村雨からシャツを受け取り羽織る茉穂。例え、ベッドからバスルームに数歩で行ける距離だろうと、茉穂が何も言わずに手渡してくれた。

 ―――優しいな……仕事してる時も優しさはあったけど……

 昨夜の事も含めて、茉穂が知らなかった村雨の面を知れば知る程、惹かれ初めている。

 ―――彼女とか……居るのかな?

 バスルームの床や壁が濡れている。
 村雨が使った直ぐ後なのが直ぐに分かった。使った後のボディタオルから、水滴がポタポタと落ちるのを見ると、茉穂は使うのを躊躇する。

 ―――使うの申し訳無いよね

 遠慮なく使うには忍びなく、手でボディソープを泡立て、身体を洗う茉穂。
 真っさらでセックス後の名残りは残っていない身体。キスマーク1つでも残っていれば、茉穂に対する気持ちが少しでもあるのでは、とも思ったが、全く痕は無いし、キスも水を飲ませてくれた1度だけ。村雨の心は茉穂には無いのだ、と思い知った。念の為に背中も見たが、キスマークを付けられた感触も無かったのもあり、探すのも止めてしまう茉穂。

 ―――虚しくなるだけか……また、合コンで彼氏探ししよ……

 本当に彼氏が欲しい訳ではない。が欲しいのだ。好きになりかけ、気付けば村雨を気になりだしてしまった茉穂は、自分の気持ちを確認するか如何かは、茉穂次第だった。
 シャワーを浴び終え、Tシャツと短パンが用意してあったのを着る茉穂。ダボっとしたサイズのシャツは、茉穂の肩が出てしまう。ウエストもかなり余裕があるが、腰紐で締められて、落ちる心配も無い物だ。

「シャワー、ありがとう」
「…………あぁ……珈琲でいいか?……というか、珈琲ぐらいしか無いが、砂糖入れてたよな?」
「…………あ、うん……ミルクあったらミルクも欲しいけど……」
「悪い、無い………砂糖だけですまん」
「無いなら、砂糖だけでいい……ありがとう、昨夜からいろいろと……」

 テーブルに無造作に並べられた個装のビニール袋に入れてあるパン達。

「好きな物分からないから、適当に買ってきたが……俺、料理しないからこんな物しか無くて悪いな」
「暖かいけど、今買ってきたの?」
「あぁ、ランニングして来た序にな」
「………ごめん、態々」
「毎朝の習慣で走ってる序だ」
「身体、鍛えてるんだね」

 パンを手に取り、齧る茉穂。その行動を見て、村雨もパンを取る。

「趣味で格闘やってるからな」
「………だから、身体中傷痕だらけなの?」
「…………あぁ……これは昔の喧嘩のツケ……中高と荒れてたから……」
「…………え!」

 傷痕の名残りが、村雨の過去を語る。

「族に入ってたんだよ……毎日喧嘩三昧……抜けてから、暴れる場所が身体鍛える事に変わっただけ………だが、この素行に風貌だから、仕事するのにちょっと都合悪くてな……目立たない様に、あの姿にしてる」
「………そ、そうだったんだ……」
「今は、柄悪い奴等との付き合いは無いぞ」
「ギャップが凄過ぎて、困惑してた……」
はこっち………お前にバレたから仕事中以外は隠さなくてもいいと思ってる」

 村雨は再び淹れた珈琲を飲み、2個目のパンに手を出す。

「ねぇ、何であの店に居たの?」
「飯食ってただけだぜ?近所だから、よく行く店だったし……」
「………でも、助かったわ……ありがとう」
「言ったろ?、て………知らない女だったら、助けたか如何か分からんな」

 告白の様な含みを込めているのに、一般的な言葉を続ける村雨。

 ―――何とか告白するタイミング見計らわねぇとな……

 告白する気にはなっている村雨だが、昨夜の延長での告白は違う気がした村雨だった。


 
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