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16 *リンデン視点

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 リンデンはその夜、シモーネに頼み、レイシェスの部屋へ忍び込む様、指示を出した。
 クラリスに頼むと、エレズ達に知らせるかもしれないからだ。

「シモーネ、頼んだぞ」
「…………陛下、やはり侍女には話をしておいた方が………」
だけでいい。邪魔されたくない」
「…………分かりました」

 シモーネもリンデンが漸く伴侶を決めてくれて安堵もあったのだ。今迄も婚約していた令嬢も居たのに、ムラガに奪われていたのを見ている。その令嬢達とリンデンは再び婚約に、という考えも無いのは、レイシェスが好きになっていたリンデンが居たからだ。
 レイシェスが侍女達を下がらせる時間は決まっていて、レイシェスは1人になると読書をして過ごし眠りに着く。それはリンデンもシモーネから聞いているので、その日の夜はルビリア公国の護衛5人ではなく、リンデンの部下に部屋の護衛に変えさせていた。

「レイシェス、入るよ」
『…………』

 返事は無かったが、それは構わずリンデンは部屋へと入る。

「レイシェス」
「リ、リンデン様………あ、あの本気ですか?」
「本気だけど」
「まだ………協定の話を、侍従達にもしていないのに………」
「言っただろ?………理解を得るには先ず俺達が先に見せて行かないと」
「…………先程も、そう伺いましたが……」

 執務が終わり、レイシェスが部屋へ戻る直前に、リンデンが言った言葉だ。

『先ず、俺達が国と国を繋げなきゃならないから、今夜行く』
『っ!』
『国王と公女………隣接する国のこの結婚は国婚なんだ………理解を得て貰うには、率先して見本にならないと』
『…………わ、分かりました……お、お待ちしています』

 リンデンと共に未来を見たい、とレイシェスが言ってくれなければ、リンデンもこうは言わないだろう。
 責務ある立場同士、その責務の為の結婚だという事の重圧はお互いに理解している。
 自分の気持ちに正直にレイシェスは言った事もあり、きっかけだけは責務に縛り、後は甘く愛を囁いて行けば、レイシェスも戸惑わずにいてくれるだろう、とリンデンはそう話をしたのだ。
 でなければ、リンデンはレイシェスを自分の物にする事を遅れてしまう。ルビリア公国に戻ってから話を進めては、ルビリア公国に残っている重鎮達の理解が得られず、反対される可能性もある。
 その為に、リンデンは終戦後に文官を数人ルビリア公国に常駐させていて、復興支援はいち早くさせていた。それは、リンデンやインバルシュタット国の印象を悪くしない為と、全ては愚王ムラガの恐怖政治からなる戦なのだ、と知らせる為であり、公女はインバルシュタットに逃げていて、ムラガから保護しており、リンデンと復興に向けて動いている、と信じて貰える様に指示を出していた。

「上手く事を進めるし、進んでる………だから安心していい。ルビリア公国に派遣している文官達からの連絡も、概ね重鎮達から理解を得られているから」
「…………では、何も知らないのは此方に居る民だけ…………?」
「そう」

 椅子に座って読書をしていたレイシェスを立たせたリンデンはレイシェスを抱き締めた。

「っ!」
「…………緊張してる………俺もだけど」
「…………ムラガ王の暗殺の時も緊張されてましたよね?」
「…………あぁ、分かってたか……あれは、親父にレイシェスを見せたくなくての緊張」
「…………お父様を弑し奉る事への緊張ではなく?」
「それは無い…………俺は、王太子になる前から頭の中で描いてた………親父をどうやって………止めよう……この話は………レイシェスに俺のどす黒い感情を見せたくない」
「悲しくないですか?」
「……………優しくされた事無いから、思ってはないよ………母上の苦しみを考えた方が悲しい………」

 リンデンが思い出すのは、自分の母との思い出で、その母はムラガによく暴力を奮われていて、目の前でムラガに抱かれる母が泣く姿ばかりだ。それを見ているから、暴力的行為はリンデンは好きではない。

「リンデン様…………涙が……」
「………え………あ………」
「わたくしに甘えて下さって結構です……もうわたくし達に家族は居ないのですから………」

 リンデンの頬に涙が伝うのを、レイシェスに拭き取られていた。

「家族になるじゃないか、俺達………」
「はい………ですから、わたくしに甘えて下さい。民や臣下達には弱味見せれないですから………妃になら見せれますでしょう?………正式ではまだないですが」
「…………早く1つに繋がらないとな………」
「きゃっ!」
「掴まって」

 リンデンはレイシェスを抱き上げると、ベッドへと運ぶ。ゆっくりと丁寧にレイシェスを置く腕は、優しくないといけなかった。

「…………リンデン様………」
「2人きりの時は呼び捨てにしてくれない?大層な人間じゃないし」
「で、ですが………リンデン様は国王で……」
「今は、1人の女を愛する1人の男だ………」
「っ!」

 呼び捨てて名を呼んで欲しいが、早くレイシェスが欲しくて、リンデンはレイシェスの唇を奪った。
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