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 エディンバラ公爵親子が妨害ばかりしたのも虚しく、エリザベスの立太子は認められた。

「婚姻に関してはにしんと、私はエリザベスの立太子も認めんぞ!」

 エディンバラ公爵にはまだ他に策があるかもしれない、と考えたアルフレッドは一旦保留にする。

「仕方ない……モルディアーニ公爵、次の議題を」
「はい………次の議題はピレウス侯爵から用途不明の資金が流れていたのを確認致しましたので、それについての資料を………」
「…………な、何だ!これは!」

 回された資料は、の輸入記録。6年程前とつい最近また取引履歴があった資料だ。
 身に覚えのある貴族も見受けられ、ワナワナと手を振るわせている。

「ご存知の通り、この薬草は激薬の為、帝国内での取引及び生息地の国も輸出禁止にされている所謂………よって高値での売買されている代物…………これは、約6年前王妃殿下、リチャード殿下、エリザベス殿下にお茶として出され、王妃殿下とリチャード殿下は飲用し還らぬ人となり、当時は犯人殺害という不名誉な結果で、首謀者不明になりました………ですが、近頃トラウト子爵により、とある菓子店店主夫妻にこの毒草が渡り、その毒草からエリザベス殿下に、と渡されそうになった……エリザベス殿下は、あの事件以降毒味をされた物以外口を付けれなくなられた為、イアン・モルディアーニが毒味を買って出たのです………明らかに、王族毒殺を意図とする行為………動機は言わずもがなエディンバラ公爵………貴方ではありませんか?」
「…………知らん!知らん!知らん!」

 勿論、知らない、と言うだろう。

「カエアン、見苦しいな………この資料は、帝国からの資料ではない……取引先の国の反乱分子のギルドから手に入れた物だ」
「……………なっ!」
「お前が国王になれば、あのギルドは内乱を起こすつもりだった、と知っていたか?カエアン……そして、内乱に勝てば次はエヴァティーン帝国に戦争を仕掛ける予定だった、とギルドの長は吐いた………分かるか?カエアン………証拠という物は、帝国内だけではない……この5年、私が何もしていないと思ったか?」
「…………う、煩い!こんな物は偽造だ!でっち上げだ!」
「ピレウス侯爵、リントン将軍、エディンバラ公爵派閥の貴族達、屋敷、領地、全てギルドとの取引が出るか調べよ………エディンバラ公爵とドーソンは管理下に置かせて貰う」
「御意」

 騎士達に囲まれたエディンバラ公爵派閥達。

「へ、陛下!私はエディンバラ公爵に騙されておりました!」
「ズルいぞ!今更寝返るのか!」
「離せ!私は何も知らん!」
「エリザベス殿下とイアン公子の婚姻を賛成致します!陛下!」

 よくもまぁ、自分達の都合の良い事ばかり連ねる貴族達。そんな騒がしい会議室に、またも騒ぎが起きた。

「失礼します!トラウト子爵が死体で発見されました!」
「………トラウト子爵が?………ほぉ……カエアン……その事についても、じっくりと話を聞かせて貰おうじゃないか」
「クソッ!何故そんなに手際良く見つかるのだ!」
「それはアルフレッド陛下と貴方の頭の違いでしょう」
「なっ!」
「連れて行け」

 続々とエディンバラ公爵派閥の者達は、監視下に置かれ、取り調べをされる事になる。

「お父様、毒草の入手経路調べ終えていたのですね?」
「リズの助言のおかげでな」
「私の助言?………いつしました?」
「輸入された側から出なくても、輸出側から出るのでは、と以前話をしていただろう?」
「それって………お母様とお兄様が亡くなった頃、修道女でイアンとボヤいていた時に何となく出た会話だった様な……」
「イアンもそうだが、大聖堂に会いに行かせた騎士達にはリズとの会話は全て報告する様に、と言っていたからな………5年間、リズは平民として物事を見てきて、今また国の為に考えて良くしようとしてくれている………だからこそ、証拠が出てきたのだよ」
「おかげで、国交も上手くいってますよ、殿下」
「…………私の知らない所で………お父様には敵わないですね」

 この事は帝国中に波乱を巻き起こしていた。半数近い爵位のある者達が爵位剥奪されたからなのもあるが、取り調べで塵や灰の様に溢れ出る不祥事を起こしていた貴族には、爵位剥奪だけでなく、財産も没収されていき、家族もまた関与が確認された場合、罪に問われていた。
 関与が無かった家では、爵位はかろうじて残されてはいたが、事業撤廃や、財産を一部差押え、爵位を落とされる、という散々な目にあった。
 エディンバラ公爵家は、首謀者という事もあり、爵位剥奪、王位継承権取り消し、宅地没収、エディンバラ公爵自身の財産全てアルフレッドは没収してしまう。
 ドーソンについては、事件そのものに関与していた証拠は見つからず、ただ父親のしていた事の甘い蜜を吸うだけのと判明した。ドーソン自身、エディンバラ公爵の爵位は継げなくなった為、アルフレッドの温情で迄落とされ、王位継承権は勿論、父親にも無くなったのもあり与えられる事は無かった。個人財産は大した物も無いドーソンは、妹アナスタシアと母親と共に、今回の件で没収された小さな屋敷に、追いやられる結果となり、そこから這い上がる力があるならば、再建も叶うかもしれないが、贅沢の限り遊び尽くした生活をしていたエディンバラ公爵家での様な生活は出来ないだろうと思われる。

「申し訳ありません、殿下」
「何が?」

 事後処理がまだ慌ただしい中、イアンが身体を起こせる様になり、エリザベスの部屋近くの自分が使っていた部屋へ移動出来た頃、まだ仕事が出来ないでいたイアンがエリザベスに謝罪する。

「勉強もそうですが、執務もお手伝い出来ずに」
「執務はモルディアーニ公爵も手伝ってくれてるし、補佐官も付けてくれたわ……イアンの体調見ながら少しずつ、勉強も見てくれてるじゃない」
「看病もさせてしまっているのも心苦しいのですよ」
「看病は好きでしてるからいいのよ」
「殿下、イアン様の身体を拭きますので」
「………う、うん……」

 エリザベスはイアンの包帯は変えた事はあっても、身体を拭いた事はない。まだ入浴出来ないイアンには、身体を清潔にする方法は、濡れた布で汗を拭き取ってあげるしか出来ないのだ。

「わ、私がやっちゃ駄目?」
「…………まぁ、殿下………イアン様さえ良ければ、して差し上げて下さい」
「…………殿下に等、恐れ多い!」
「ご婚約したのですから、殿下の免疫を付けて下さいませ」
「私達は失礼致しますね」

 侍女達が、察して部屋から出て行ってしまう。

「……………」
「………リズ」
「っ!」
「…………プッ………貴女が仰った事でしょう?」
「そ、そうだけど………あからさまなんだもの……」
「確かにそうでしたね」

 エリザベスの傍にあるワゴンには手桶に湯が張ってあり、その湯でイアンの身体を布で拭くのだ。

「イアンの着替えはコレね……脱ぐのは自分で出来る?」
「…………脱がせて貰えるのですか?」
「っ!…………そ、そんな高難度の事なんて、私は出来ないわ!」
「高難度ですかね?脱がすの……侍女達は平気で脱がしてくれますよ?」
「そ、そうなの?」
「はい………ローブを羽織っているだけなので簡単ですよ」

 イアンは毛布を剥ぎ、素肌にローブ、そしてトラウザーズという軽装だ。ローブを脱いでしまうと、ほぼ裸同然の格好となる。

「さぁ、リズ………お願い出来ます………よね?」

 イアンの顔は意地悪く、エリザベスに微笑んでいた。
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