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愚者達に対する仕打ち
しおりを挟むイアンが補助無しで立てる様になった頃、帝国内にエリザベスが立太子となる事と、婚約が発表された。
「最近暗い話ばかりだったから嬉しいねぇ」
「王女殿下が鍛冶屋街で狙われたけど、ご無事で良かったよ………王女殿下が亡くなったら、この国はお終いだろうからねぇ」
「王弟のエディンバラ公爵家に任せたら、国は潰れる、て前王も仰ったそうじゃないか」
「これでエヴァティーン帝国は安泰さ」
街のあちこちで囁かれる言葉。
「…………どいつもこいつも……エディンバラ公爵家を馬鹿にしやがって………」
王城から離れた街中の片隅の屋敷に、転居を余儀なくされたドーソン。エディンバラ子爵となり、侍従も雇えない程の資金しか無くなっていた。父親のエディンバラ公爵の財産は全て没収され、母親とアナスタシアの私財を掻き集めて、侍従達をそのまま雇っていたが、女達の散財は変わる事なく、給料も払えなくなり侍従達は逃げる様に、母親やアナスタシアの散財した物を奪って辞めていった。
元々の資産は、エディンバラ公爵の母親の財産であり、エディンバラ公爵は公爵の地位でいたからこそ、母親から受け継いだ事業収入もあって生活出来ていたのだ。それが莫大な財産だったので、それに目が眩み嫁いだドーソンとアナスタシアの母親は、散財を繰り返し、依存してしまったので、娘のアナスタシアも同じ様に育っていた。
一方、ドーソンは散財する母親と妹を見て、思い直したのか、散財するのを止めさせようと奮起したが、無駄な努力だと気が付いてしまった。
エディンバラ公爵として再建を試みようと、鬘事業に手を掛けるが、もういくつもの貴族が独自の事業を始めていて、職人も雇い成功していたが、ドーソンには鬘に関して知識も無ければ、職人を雇う金さえもない、貧乏子爵になってしまったのだ。
「こうなりゃ、俺だけでも城に入れる様にしないと………母上やアナなんて知るか!」
と、思っていても、帰る家は母親やアナスタシアが居る屋敷だ。
「お兄様!お母様が酷いのよ!私達を置いて実家に帰るって言うのよ!私達を捨てる気なのよ!」
「母上………母上の実家も爵位剥奪されたではありませんか……我々と同じ境遇だと思いますよ」
「何を言うの!ドーソン!貴方が、お金を稼がないからお母様が苦労しているのよ!」
「元はと言えば、母上とアナが俺の財産を食い潰して、散財したからじゃないか!小さいけど父上から貰った土地もあったのに、直ぐに使い果たしたのは母上達だ!行きたきゃ行け!その代わりアナも連れて行けよ!俺は1人で金を稼ぐ方法を考える!」
「酷いわ!お兄様!お兄様こそ私達を捨てるの!?」
「アナスタシア!お前は顔だけはいいんだから、娼婦になって金を入れればいいだろ!母上もまだ相手してくれる男もいるんじゃないか?」
「ドーソン!お母様に向かって何を言うの!」
子爵にされて暫くはドーソンも今迄通りの生活が出来たが、今や平民の富裕層より貧乏生活を送っていて、着飾りたがりの母親とアナスタシアだけは小綺麗な格好をしている。
「そのドレスや宝飾品、売って下さいよ………そうしたら、暫くは食べる物だって買えますよ」
「何を言うの!着飾らなきゃ馬鹿にされるわ!」
「そうよ、アナ………新作の鬘を買ったわよね、それを被って着飾って、早くお嫁に行きなさい!そうしたらお母様も一緒に付いて行くわ」
「……………いい加減にしろ!社交界に俺達が招待される事は無いんだ!父上がやった事で、俺達がどれだけ財産を奪われたか、説明したじゃないか!」
「何を言ってるの、お兄様………何もかも奪っていったのはエリザベスや叔父様じゃないの………お父様が国王になるべく人なのよ!お兄様は次期国王じゃない!」
アナスタシアには何度説明しても理解して貰えず、母親に至っては生活水準を下げなければ何だっていい、という始末。
帰って来て早々、ドーソンは出て行きたくなるのは当然だった。
「エリザベスの立太子の祝賀会があるじゃないの、アナ………貴女はめいいっぱい着飾って、祝賀会に行くのよ!いいわね?」
「勿論よ、お母様………もう準備したのよ!親切な人がお金貸してくれたから、ドレスも宝石も新調したわ」
「…………な、何だって……アナ……金を借りたって?」
「そうよ、世の中親切な人居るのね」
アナスタシアが借りたのは高利貸しだ。
「返す見込みなんて何処にあるんだ?」
「お兄様が立太子になれば返せるじゃないの」
「…………いつ、立太子になれる、という保証があるんだよ」
「お兄様もエリザベスの立太子の祝賀会に行って入れ替わればいいじゃない……自分が本物の立太子だって」
どれだけ自分が馬鹿だったのか思い知らされるドーソン。だが、祝賀会に行くのは転機だと思いつく。
―――エリザベスに近付ければ、打開出来るかもしれない!
アナスタシアが勝手に作った借金は、アナスタシアに払わせればいい。そして、エリザベスと既成事実さえ作れば、子爵ではなく公爵に戻り、エリザベスの夫になれるかもしれないのだ、と先程迄の怒りを忘れ、ドーソンはエリザベスの立太子の祝賀会に参加しようと目論んだのである。招待もされてもいないのに。
あとは如何やって潜り込むかだ。なけなしの金で馬車と御者を雇い、当日城に到着するがやはり入れない。爵位剥奪された家名を言えば勿論入れないのだが、招待状を送られた筈なので、招待状提示と共に、家名を言わねばならないのだ。
「エディンバラ子爵だぞ!エリザベスの従兄だぞ!」
「次期国王にひれ伏しなさいよ!」
「は?………陛下から廃爵になった家の者は入れるな、と言われている……落位になった者もな」
「……………クソッ!」
「じゃあな、旦那……俺は帰らせて貰うぜ」
「お!おい待て!帰り分の金も払ってる筈だ!」
「知らねぇな………アンタ招待状持ってると思ってたからよ、無いならお払い箱だろ?そんな男の片棒担ぎたくねぇよ!」
御者や馬車にも置いていかれ、ドーソンとアナスタシアは城門から中に入る事も出来ない。
「あら、アナスタシア様?」
「ま、まぁ!ジェシー様!」
「こんな所で何をしていらっしゃるの?」
「あ、貴女………祝賀会に行くの?」
「当然ですわ………私、先日結婚して侯爵夫人になりましたもの………父は何もお咎め無しでしたから…………ふふふ……」
エディンバラ公爵派閥の中でも、何もしなかった者も居たのだ。お咎め等もなく派閥に等入らず、中立を保っている者も居るのだ。
アナスタシアの友人であろう女は、馬車から見下す様に見ていた。
「ジェシー様!一緒に入れさせて貰えないかしら?」
「…………嫌よ………貴女との関係はもうお終いなの………私迄お咎め貰ってしまうわ」
「なっ!私は公爵家よ!たかが、男爵家の令嬢に断る権利なんてないのよ!」
「勘違いされてない?私は今侯爵夫人、貴女は子爵令嬢………お嫁に行っていたら、貴女も入れてたかもしれないわね………ふふふ……馬車を出して頂戴」
「はっ、若奥様」
余りにも非情なアナスタシアに対する仕打ち。それは、仕方ない事だったとはアナスタシアには思わない。
今迄、自分が友人だと思っていた令嬢達に、して来た事と変わらないからだった。
「酷いわ!あの女!今迄お父様からの恩恵を忘れて………許さないから!」
だが、付き合いのあった令嬢達には尽く断られたアナスタシア。
ドーソンも同じ様な扱いをされ城に入る事が出来ない。
何とか、顔見知りで世間知らずの貴族を見つけ、城内に入れたのは、祝賀会が既に始まっていた頃だった。
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