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母の命日、父帰国

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「ん?来週末2連休にしたのか?玲良」

 玲良と穂高はスマホアプリでスケジュールを共有しており、シフト確認をしている穂高がスマホを見て玲良に聞く。

「あ、うん……急に変更したの………本当は半日だったんだけど、お父さん帰って来るって言うし」
「え!急だな……結婚式の日取りもまだ決めてないのに」
「…………実は…その日お母さんの命日で……お墓参りをね……毎年、一回はお父さん帰って来るけど、今年はゆっくり私と会いたい、て言ったから、私も休み取った」
「…………俺も変更効くかなぁ……」
「合わせなくてもいいんじゃない?わざわざ」
「…………あのな、玲良のお母さんの墓参りだろ?俺も行く………挨拶しなきゃ」

 スマホ片手に珈琲を飲み、シフト変更の確認を始めた穂高。その優しさに玲良は幸せを感じる。
 引越しを終え、玲良の誕生日も新しい住居で祝って貰って数日の出来事だ。こんなに幸せで穏やかに暮らせるのは、穂高の包容力のおかげだと、玲良は思っている。

「…………10勤になりそうだが、何とかなるかなぁ……」
「え!!過酷過ぎよ………連休じゃなくてもお墓参りの日だけどうにかしたら?」
「………それだと何とかバランスは取れるが………せっかくの玲良と休み重ねるチャンスを見逃す訳にはいかん!」

 結局、穂高は10勤をする事にしてしまう。朝早く空港に着くという玲良の父を、空港迄迎えに行く、という事も当直後の穂高はし、空港で父を待つ玲良と穂高。

「…………到着ロビーのベンチでちょっと仮眠する……お義父さん見えたら教えて……」
「………はいはい」

 玲良の肩を借り、直ぐに寝息が横で聞こえる。

「私も運転免許あるけど、国際免許だからなぁ……」

 と、切替するつもりも無かった玲良が、この日の穂高を見て、切替る事も考えて調べている時だった。

「玲良」
「……あ、お父さん………穂高、起きて……お父さん着いた」
「…………ふぁぁぁ……え?」
「ごめん、夜勤明けなの」
「………それでも迎えに来たのか……睡眠時間はしっかり取りなさい、穂高君……私はタクシーでも良かったんだぞ?」
「あ!お義父さん………お久しぶりです」

 パソコンでのTV電話では顔を合わせているので、『お久しぶり』の感覚だ。直接会ったのは初めてなのに。

「玲良は運転出来ないのか?アメリカのはあるだろう」
「切替て無かった」
「ナビは車に付いてるか?」
「あ、はい」
「私が運転する………穂高君は眠気が覚める迄寝てなさい」
「え!!そんな!気を使わせるつもりは……」
「眠そうな顔をして、冷静な運転が出来るものか……私は飛行機内で寝ている……それに車の運転は好きだから毎日乗っている」

 結局、押し切られる様に、父が運転席に座ると、ナビを開く。

「そのまま墓参り行くぞ」
「あ、じゃあ操作する」

 助手席で玲良は霊園の住所を入れ、穂高は後部座席で小さくなっている。面目が立たないのだろう。

「穂高君、気にするなよ」
「そうそう、私が日本での免許無いのが悪いんだから………今度講習受けて手続きしてくるね」
「………悪い……頼む…」

 車が出発すると、穂高は再び眠くなりそのまま寝落ちした。

「だから、10勤なんてやめて、て言ったのに……」
「夜勤明けだけじゃなかったのか」
「無理矢理、今日明日休みにする為に……墓参り行く、て聞かなくて……」
「………勤務日数は関心しないが、いい男じゃないか………玲良には勿体なかったかな?」
「…………本当にそう思う」
「………で?まだ結婚式の日取りは決めんのか?」
「…………式場も決めてないから」
「ズルズルと同棲で終わらすなよ?婚約しているとはいえ、日本の医師会は派閥が多い……結婚してないと、大学病院の繋がりから見合い話が殺到するからな」
「…………だから、お父さんアメリカに行ったんだっけ……お母さん連れて」
「……………そうだったなぁ……なまじ腕が良いと、娘婿にとよくあったもんだ……」
「自分でて言うのも如何かと思うけど」

 高速道路を颯爽と走り、玲良の中学迄育った街に入る。

「あんまり変わらないなぁ、この街」
「毎年墓参りには来ているだろ?」
「いい思い出のある家と、悪い思い出のある街で来る度に複雑………もう家は無いけど」

 霊園に着き、穂高を起こす玲良。

「穂高、起きて」
「…………着いたか?」
「うん……眠れた?」
「あぁ、安全運転で快適に………ありがとうございます、お義父さん」

 供えの花束を持ち、掃除道具と共に墓の前に来る。

「久しぶり、お母さん」
「…………掃除先だぞ、玲良」
「分かってます」

 掃除を終えると、線香と花束を供え、黙祷する3人。それぞれ長い黙祷をしていた。会話を、報告をしていたのだろう。父、玲良が黙祷を終えても、穂高はまだ黙祷をしていた。

「……………っと…屈伸続けて黙祷すると、足疲れるな………運動しなきゃ」
「穂高、長かったね……何思ってたの?」
「…………内緒………だな……玲良にも言えねぇ」
「…………ケチ」
「玲良、父さんが死んだら一緒に入れてくれよ?」
「ローラが怒るんじゃない?」
「ローラには話てあるよ………生きている内はローラに捧げるが、死んだら日本に墓があるから帰る、とね………ローラも日本旅行出来る目的が出来ていいだろ?」
「お母さんが来るな、て言ってたりして」
「喜ぶの間違いだろ……」

 好きで別居していた訳ではない玲良の両親。父は今の妻と過ごした分、過ごせなかった死別した妻と死して過ごしたいのだ、と玲良は初めて知った。夫婦間の想いは子供には分からない事もある。玲良は玲良で穂高と夫婦の在り方を決めていけばいい、と思った。
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