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縋った先

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 イルマは部屋へと連れて行かれ、先に準備をしていたのであろう。事件を聞き付けたカーラやユーナ達侍女達が総出で、イルマの世話に待ち構えていた。
 
「まぁ、イルマ様お疲れ様でございました、さぁさぁ、湯殿の準備も出来ております。湯と一緒に嫌な事は流してしまいましょう」
「カーラ、頼むぞ」
「はい」

 湯殿へイルマを下ろし、ラスウェルはリビングのソファに腰掛けると、自分の不甲斐なさに苛立つ。

 ―――何で傍に居なかった!イルマ以外の女を相手してなきゃこんな事には………

「クソッ!!」

 後悔しても遅く、短くなった髪のセットを崩す。むしゃくしゃする気持ちを如何する事も出来ない。

「ラスウェル殿下」
「……………何だ、ユーナ」

 ユーナがラスウェルにアルコールの強い酒を持って来る。

「カーラ侍女長が飲まれたいご気分の筈だから、と」
「…………あぁ、助かる……丁度飲みたかった所だ」
「お後ですが………イルマ様より『責任を感じないで欲しい』と仰っておりました」
「……………言われてしまったな……」
「………イルマ様のお世話に戻ります」
「あぁ、ありがとう………ユーナ」

 酒を注ぎ、ユーナは湯殿へと戻る。
 明日からまた忙しくなるのだから、今日は何も考えずに眠れ、というカーラの心遣いと、イルマがまだ落ち着いてないと思うのに、ラスウェルに伝えたかった事を伝言にしてまでも言った言葉に、苛立ちは少々治まり始めた。

 ―――責任、感じるよ……傍に居なかった事がバルカスと一緒に居た君のあの時の苦悩を助けなかった後悔以上に………

 何杯も酒を浴び、やっと酔えた、という時、イルマが夜着を着て戻って来た。

「殿下………先程はありがとうございます」
「…………っ!!」

 酔っていたのもあり、気が大きくなるのは人間の性。しかも、薄手の夜着でローブを羽織ってはいるがまた欲を唆る。夜着姿で現れるのは以前もあったが、状況は違うのだ。口に手を当て、イルマを目線から外す。一気に酔いが冷める様だが、顔が熱くなるラスウェル。

「…………殿下、私達は下がりますが、殿下もお早めにお休み下さいね」
「分かっている」

 侍女達が下がっても、イルマは所在を如何していいか分からずにいると、ラスウェルから声が掛かる。

「飲まないか?………飲んで忘れよう……取調があるから、それ迄は覚えていて欲しいがな」
「…………プッ……そうですね……わたくし余り強くありませんが、今夜は飲みたい気分です」

 そう言うと、ラスウェルの隣に座るイルマ。向かい合わせで座るより、傍に居たかった。ラスウェルもそれが当然とばかり、何も言わないまま、ボトルからグラスに酒を注ぐ。

「強い酒だ。水を飲みながら少しずつ飲むといい」
「…………殿下はそのさえ飲んでいらっしゃいませんが、大丈夫ですか?」
「…………戒めで飲んでるだけだからな、味を楽しむ為に飲む気になれない」
「…………責任を感じないで下さい、とユーナに伝えさせましたのに……」
「気持ちは理解してる………だが、事実君の傍に俺が居たら守れた」

 イルマは注がれた酒を一口飲む。

「………ゔっ……強い……」
「………ほら、水……少し薄めよう」

 ラスウェルは飲み過ぎだと思われるぐらい、手がふらふらとしていた。

「殿下、飲み過ぎですよ………わたくしが自分でしますから、殿下こそお水を……」
「だが、頭は冴えてるぞ?」
「駄目です!飲んで下さい」

 酒のグラスを遠退き、水のグラスを渡したイルマは、中断された話を続けた。

「殿下……ですが、国に混乱を齎した者は捕まったのです……わたくしが狙われていたとは思ってもおりませんでしたが、『偽聖女』の件は終わりましたわ」
「……………え?そうなのか?」
「混乱で話せませんでしたが、マリア様に神託を降した神官は彼………グレシア子爵だった、と自供致しました………モルディ侯爵令嬢も聞いておりましたわ………何故かグレシア子爵はわたくしが『聖女』の神託が降された者だとご存知でした。わたくしは陛下や王妃陛下、わたくしの両親しか知らぬ、と父から聞いておりましたので、その辺りは分かり兼ねますが、グレシア子爵はドルビー侯爵を拐かした、とも話しておりました………神官でもある小さな神殿の神官でもある、とも」
「…………貴族でもあるから、神官の服装をしていないと、紛れ込めるな………だから見つからなかったのか」
「…………わたくし……グレシア子爵をとても怖く感じておりました……わたくしが社交界に………バルカス殿下と夜会に出る様になってから、顔を合わせていたのですが、必ず視界に入る様に、傍に控えていらっしゃって……お話もしてはいたのですが、バルカス殿下に怒られるので、よくあの方は存じ上げなかったのです……」

 ラスウェルは、イルマから渡された水のグラスを一気に飲み干し、また水を注ぐ。頭を冴えさせる為だろうか、酒には手を伸ばす事は無かった。

「何処の神官だったかは、調べれば分かるが、グレシア子爵はグレシア伯爵家の3男だ………嫡男ではないから、次男から下の男児は魔力の性質によって、騎士か神官になれば爵位が持てる………グレシア伯爵家は、バルカスの派閥貴族ではなかったが、グレシア伯爵にも確認は必要だろうな」
「………グレシア子爵は瞬間魔法を使える様で、わたくしに触れ連れ去ろうとしていました………『聖女』を王族に独り占めされるのを阻止したい、と……瞬間魔法は、転移する魔法……その魔法もかなり稀ですが、そういう方が神官になれるのでしょうか?」
「転移………は使える者であれば騎士に抜擢されそうだが、何故神官になったかも調べよう………さ、そろそろ休もう……寝る迄傍に居るから……後は明日聞く」

 ラスウェルは自分で注いだ水を再び飲み干し、イルマの手を取った。
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