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願掛け

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 寝室に入ると、イルマはベッドに寝かせられる。しかし、ラスウェルはベッドに入る様子も無い。

「…………殿下?」
「イルマが眠る迄付き添いする」
「…………あ、あの……の…………ですか?」
「…………煽るな………今日は我慢している」

 ベッド脇に椅子を持って来て座るラスウェルを見上げるイルマ。

「…………な、何と言えはいいのか………あの………わたくしに気遣い等は……」
「気遣い等してないさ……本当に、今日抱いてしまったら、多分朝迄抱き潰してしまう気がしてならない………嫉妬と後悔が渦巻いててな……辞さなければ………折角……髪を切ったのに……」
「そう言えば…………お聞きしたかった事が………」
「………何だ?」
「………願掛けをされていらっしゃったのですね、ラスウェル殿下の髪は」
「……………っ!!」

 何故か照れた様子のラスウェル。腰迄、結んではいたが長い髪をバッサリ切るどころか、今は後ろの項も摘めない程短くしているからだ。

「…………あ、あぁ……」
「何のお願いを?」
「………え!!」
「ジャイロ兄様は、わたくしが聞けば教えてくれる、と………」
「な!…………アイツ……明日〆る!」
「殿下?………〆る、とは?」
「……………あ、あ、いや………その………」
「教えて頂けませんの?」
「い、いや…………そんな事は……」

 イルマの質問に、すっかり酔い冷めしたラスウェルの顔は赤い。

「そう言えば、わたくしのお父様も願掛けしてますのよ?………次はいつ髪を切るのか………願掛け……殿下と一緒ですね……」
「……………クライン公爵に願掛けを教わったから…………髪以外の願掛けは知らないんだ……」
「………まぁ、そうなのですか?………それで、わたくしには教えて下さいませんの?………教えて下されば、わたくしも殿下に告白したい事がございますので、教えて下さいませ」
「!?…………え?こ、告白?」

 イルマの『告白』に反応するラスウェル。

 ―――ま、可愛いわ……まるで、幼かった時の殿下の様……

 照れから一瞬で変わった、動揺した表情に、イルマの悪戯心に火が着く。

「はい!如何してもお話したいのです!!ですからわたくし、殿下に告白致します!」
「い、意地が悪っ!」
「教えて下さいませ、殿下」
「……………言ったら言うんだな?」
「はい!勿論」
「………イルマを…………だ……」
「…………聞こえません」

 椅子に座るラスウェルは膝上に握り拳を作り、床に向かってボソボソと話す。それではイルマに聞こえない。

「………イルマと………の……結婚……を……願って………たんだ………き、決まったから………伸ばす意味無くなって………」
「…………い、いつから伸ばしてましたっけ?」
「…………好きになった日から……」

 イルマは記憶を辿る。

『まぁ、ラスウェル殿下……暫く見ない内に、髪でお顔が見えなくなりましたわ』
『!!………さ、触るな!………はっ!……あ、ごめん………怒鳴るつもりは……』
『…………ラスウェル殿下………怖い………ひっく……』
『ごめん、イルマ!泣かないで!さ、触られてびっくりして……ごめん!!』

 ―――あの後、一生懸命謝って下さって、バルカス殿下が大騒ぎして有耶無耶になった………確かわたくしが11歳か12歳ぐらい………?

 それから暫く、イルマはラスウェルと話せなくなった。一方的に、ラスウェルが避けていた時期もあり、結局1、2年程話せる機会も無くなったのだ。姿を見ても、挨拶程度。
 ラスウェルは髪が伸びてくると、1つに束ねかなり長くなっていたのだ。痛むと切り揃えてはいたのだが。
 出会ってから10年以上経っている。出会った時はラスウェルは12歳、バルカスは11歳、イルマは10歳になったばかりの少女だ。
 ラスウェルが伸ばしているのを気が付いたのはそんなに時が経ってなかったという事実。

「………殿下……わたくしも告白しますわ……聞けましたから」
「…………っ!」

 ラスウェルは身体を強張らせていく。

「今日………殿下が髪をお切りになったお姿を見て………わたくし心穏やかにはなりませんでしたわ」
「え!!」
「……だって……いつものお姿も凛々しかったですが、更に凛々しくなられて、わたくしモヤモヤしましたの………」
「…………モヤモヤ………?………え!!」

 ラスウェルは何かを感じ取った様子。イルマもラスウェルの反応で気が付いたが、続けた。

「…………ダンスが終わって、殿下は令嬢方に囲まれましたわ………寂しかったし、苦しかったです………ずっと心が痛かった……」
「………ごめん………でも………それは俺も……」
「……………はい………殿下はずっと……思ってらしたんですね?………気が付かなかったわたくしをお許し下さい…………わたくしも…………同じ気持ちを味わいました……殿下の腕に………令嬢の胸が押し付けられた時………『わたくしの殿下なのに』と……ですが、わたくしに止める権利も無い気がして………戸惑っていたのです………わたくしも他の方から話掛けられ、中断出来ず………如何していいか…………でも……とても嫌でした……殿下が触れるのはわたくしで…………わたくしが触れられるのは殿下だけで………あの時、殿下の胸に飛び込みたかった…………」

 横になっていたイルマがラスウェルに訴えたくて、身体を起こす。

「イルマ!!」
「!!」

 そのイルマを力いっぱい抱き締めたラスウェルがそこに居た。
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