結婚したのに最後迄シない理由を教えて下さい!【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 2度、3度、アルマの腹や背に放出されたジークハルトの熱は直ぐに冷める。
 これ等がアルマの中に入っていれば、子供に恵まれ、ヴォルマ公爵領の後継者が産まれるのに、とアルマはいつもそれを思い虚しく感じた。

 ---何故、子供を作る行為をして、最後迄しないの?

「アルマ、おいで………もう眠ろうか」
「っ!………は、はい……」

 結婚初夜の日、ただジークハルトはアルマがヴォルマ公爵領の生活に慣れる迄は子供は作るのを控えよう、と伝えてきた。
 しかし、性欲は人並みにあるので、性欲は吐き出させて欲しい、とお願いされこの行為はほぼ毎夜行われている。

「おやすみ、アルマ」
「………おやすみなさいませ、ジーク様」

 全裸のまま抱き締め合い、眠りに着こうとジークハルトはアルマを腕の中に納め、目を閉じてしまった。
 アルマが聞こうとしても、感の鋭いジークハルトは分かっている筈で、はぐらかす様に眠ってしまう。
 只でさえ遠慮がちのアルマは聞くに聞けずにいる事を逆手に取っている様にも見えた。
 都合の悪い事は気が付かない様にするジークハルト。そのジークハルトの胸にアルマは誠心誠意飛び込んでも良いものかさえ、疑問に思っている。
 結婚前は、如何して自分が選ばれたのか、と。何故、リンデル伯爵領を救済してくれるのか、とアルマは疑問だらけでジークハルトとの結婚を嫌がった。何よりも、結婚を誓い合った恋人が居て、16歳の誕生日を機に婚約の許可を相手の男の両親に承諾を獲る予定だったのだ。
 その男は、同じ伯爵位の産まれの三男で、自身も騎士になった事もあり、男爵位を持っている男。
 アルマは降位してしまうが、領地を持たない男爵位の男と共に、リンデル伯爵位に仕える騎士の妻として生活しても良い、とさえ思っていたのが、ヴォルマ公爵であるジークハルトからの縁談話が持ち込まれた以上、恋人との結婚に簡単に了承出来なくなったリンデル伯爵の苦悩を見て、アルマも決意しなければならなくなったのだ。
 ジークハルトから、貧困のリンデル伯爵領への無利子による支援。兄の勉学に掛かる必要経費。近隣領地との交通事情整備等、手の回らなかった所に支援を申し出てくれた上に、リンデル伯爵領からは何も返せない、と伝えてはいたが、ジークハルトからはただ娘であるアルマを妻に望む、とだけ、と交換条件が出されたのである。
 アルマは自分の幸せより、長く見て領民達の幸せと後継者になる兄への苦悩の減少を選ぶしかなかった。
 恋人に全て理由を話し、別れを伝えると、直ぐにリンデル伯爵領を出発したアルマ。
 結婚式直前迄、リンデル伯爵領に残ると、別れを渋ったその恋人から駆け落ちしよう、と言われない為だった。
 悩んで結論を出したのはアルマ自身で、リンデル伯爵も支援を断っても良いのだ、と言われてもいたが、生活の苦労を見てきたアルマにその選択肢は選べなかったのだ。
 縁談を断って自分も残ったとしても、苦労は続く。自分1人犠牲になるだけで、楽な生活になれるなら、その方が良い、と選んだのだ。
 相手のジークハルトの噂は耳にしていたアルマではあるので、醜態な男ではないとは思えるだけ、気分は楽だったが、問題点を上げるなら、ジークハルトと自分が本当に釣り会えるのか、性格に難が無いのか、とぐらいで、もし駄目だったなら離縁を願い出て、再びリンデル伯爵領で貧困のまま、改善策を見つける事に尽力を注ぐだけだと思ったのだ。
 だが、今アルマを抱き締めて眠る夫、ジークハルトはアルマに優しく、気遣う夫だと分かり、アルマは恋人への未練はもう無くなってしまった。
 それは、ジークハルトがアルマより10歳上で、大人の男だからだろう。
 恋人はアルマの歳上だったが、幼く感じてしまって比べるのは良くないが、頼りがいが無かった。
 結婚して1ヶ月で気持ちが切り替わってしまって、アルマ自身も尻軽いかもしれない。だが、それをジークハルトに話す事ではないと思われた。
 腕枕をされ、心地良さからうとうとと、アルマも睡魔に襲われていくと、寝室の外が何やら騒がしくなっていく。
 バタバタバタバタ、と駆け寄って来る足音に、ジークハルトも気が付き、腕枕が解かれた。

『旦那様!起きていらっしゃいますか!』
「何だ!如何した!」
『魔獣が暴れている、と報告が入りました!至急討伐ご準備をお願い申し上げます!』
「魔獣だと!何処だ!」

 ジークハルトが全裸のままベッドから飛び上がると、バスローブだけ羽織り、寝室から顔を出した。
 アルマも毛布に包まり、身体を起こす。

「ヴォルマの森、南地区だそうです」
「遠いな…………分かった、直ぐ行ける者を集め準備させろ!俺も直ぐに行く!」

 ヴォルマ公爵邸は領地の北地区にある。
 深夜馬を駆けても到着するのは朝になるだろう。

「アルマ!聞いたな?」
「は、はい!」

 一旦扉が閉められ、ジークハルトがアルマの居るベッドに戻って来ると、力強く抱き締めてきた。

「今から行かねばならない」
「お気を付け下さい。怪我をせぬ様、お祈りしてお帰りをお待ちしております」

 アルマもジークハルトに応え、背中に腕を回す。

「あぁ、帰ったら労ってくれ………君は眠いだろうから、もう休みなさい」
「ジーク様が討伐に出られるのに、私が休む等…………」
「この時期に出る魔獣は大した強い個体はない。だから大丈夫だ」
「それでも、油断は禁物です」
「そうだな、気を付ける………行ってくるよアルマ」
「…………本当にお気を付けて」

 アルマも急ぎ、軽装の服を纏い、見送るつもりでいたのだが、ドタバタと騒がしい邸内で準備が整えられる方が早く、見送る事が出来なかった。
 
「如何か、ご無事で………」

 寝室のベランダから、颯爽と走る馬の立てた砂埃を見ると、普段から直ぐに戦える準備はしていたのだろう。
 ジークハルトが寝室を出て、10分も経ってはいなかった。
 手を組み、祈るアルマは寝室のベランダで砂埃が見えなくなる迄祈っていた。

「…………やっと行ったか」
「っ!…………だ、誰!」
「俺だよ、俺………アルマ!」
「…………セ、セルト?………な、何故此処に……」

 セルト。この男は、アルマの元恋人の男だった。
 その男が、ヴォルマ公爵邸の木々をよじ登り、アルマが出ていた寝室のベランダに飛び乗った。
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