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しおりを挟むセルトに犯されたアルマの事を気が付く事なく、ジークハルトが帰宅したのはその日の夜だった。
「では、虚偽報告だった、と?」
「…………あぁ、無駄骨だった。念の為に警備に少し残してはきたが報告が入った経緯を詳しく教えてくれ」
ジークハルトは帰宅して直ぐに、執事に確認していたが、アルマの姿が見えない事に何故か気になった。報告を聞きながら、武装を解くジークハルト。帰宅した事に気が付かない事は無いだろうに、アルマが顔を出さない事に、不信感を覚える。
「アルマは?」
「奥様でしたら、ご体調が悪いと仰るので寝室にお休みになられております」
「医者は呼んだか?」
鎧を掛け、服も着替えていても会いに来ない理由が分かり、また別の心配が出てしまう。
「軽い風邪をひいたのだろう、と奥様が仰るのでお呼びしようとしたら、直ぐに治るから、と拒まれてまして」
「…………虚偽報告も気になるが、アルマも気になるな………領地内の警護を厳重にする様に手配しておいてくれ」
「御意………ですが邸が手薄になりはしませんか?」
「勿論、其方も人選を誤る事の無いように頼む」
「畏まりました」
「俺は、アルマを見てくる」
「はい」
その頃、アルマは食事を取る気にもならず、ジークハルトに知られてはならない、とばかり考えて泣いては気鬱になり、また泣いてを繰り返していた。
---ジーク様が気付いてしまったら、リンデル伯爵領はもう支援を受けられなくなってしまうわ…………もし、妊娠してしまったら……セルトの子………嫌っ………ジーク様の愛情が分からないのに、許されずに離縁へ一直線よ………
「アルマ」
「っ!……………くっ……」
「如何した?風邪だって?」
「ジーク様………お迎え出来ず………申し訳ありません………」
「…………熱は無さそうだな」
ジークハルトに額を合わせられ、体温を確認されたアルマ。
仮病だという事も知られてはならない気がしたアルマは、毛布をすっぽり頭から被った。
「う、移ってしまいますから………」
「俺は鍛えてるからそう簡単には移らないさ。昨夜、あれからずっと起きて祈ってた、て事は無いよな?」
「っ!…………ち、違います………起きてはいましたが、心配で寝付けずにはいましたので、多分それでかと」
魔獣出没は虚偽だとアルマはもう知っている。
だから祈りの事を言われて、言葉を返して直ぐに、知らなかったフリをしなければならなかったかもしれない。
「心配する事は無かった様だ。魔獣出没は虚偽だったからな」
「……………虚偽……」
「あぁ、誰かの悪戯にしては質が悪い。だから厳重に警備をして次に備える必要がある」
---そうだったわ………セルトの嘘で………っ!また魔獣出没の報告があったらまたセルトが………
またアルマは一気に不安になってしまう。
1度味を占めたセルトは調子付きやすい性格で、飽きる迄繰り返す事もあり、また来る、と言い残している。
---駄目っ!セルトの子を妊娠する前に何とか私も誤魔化さないと………
「アルマ?如何した?調子が悪いのか?」
「…………ジーク様……あの………」
「ん?」
「不安なんです………私……」
アルマが被った毛布から少し顔を出し、ジークハルトを見上げると、優しそうにジークハルトがアルマの顔を覗いていた。
「不安?」
「…………魔獣討伐はこの地域は多いと聞いてましたし、もしジーク様が大怪我をなさったら、私は何を拠り所にすればいいか分からなくなって………」
「俺は簡単にはヤラレはしないさ。領地の騎士達も選りすぐりの精鋭達だしな」
アルマは頭を撫でられ、労りが伝わって来るが、優しくされればされる程、自分が裏切ってしまった事への罪悪感が膨らんでしまう。
「わ、分からないではないですか!時期によっては魔獣も獰猛になると聞きます!そうなった時…………もし、ジーク様のお身に危険があったら………」
「民を守るのは俺の使命だ。部下や民達が怪我をするよりかはいい」
「っ!私を置いて逝ってしまう事だけは………」
「…………はははっ………大袈裟だなぁ。アルマはそんなに俺を慕ってくれていたのか?」
「…………!………わ、私は妻ですから!………夫の身を心配してはいけませんか?」
「いや?嬉しいよ、アルマ」
「…………そ、それで………あの………」
「ん?何だ?」
「結婚して1ヶ月経ち、私も大分此方の生活に慣れたと思うのです………な、なので………そろそろ………ジーク様の子を産みたいな、と………」
「…………子?」
「ま、魔獣討伐でお留守にされている間、ジーク様との子とお帰りをお待ちしたいのです!」
アルマの頭を撫でていたジークハルトの手が、離れて行く。
ジークハルトの表情は微笑む事を止め、固くなっていった。
「ジーク………様?」
「子はまだ要らんな」
「私、慣れました!此方の生活に!ジーク様が慣れる迄は、子は我慢しよう、と仰いましたが、私…………大丈夫です!」
「…………アルマ、体調が悪いのだろう?そんな時に、子作りの心配なんてしなくていい。身体を労れ、いいな?」
ジークハルトはこの話を打ち切りたかったのか、ベッド脇に座っていたのを立ち上がってしまい、アルマと距離を取った。
「熱は無いんです!寝不足から体調が崩れただけで…………」
「アルマ、病気を甘く見るんじゃない。明日にでも医者を呼ぶ。診察は受けなさい。子の事はまだ話は先だ」
「っ!」
「早く寝なさい。俺は今日は別の部屋で寝る」
「ジーク様………」
何かが間違った選択をしたアルマ。
初めてジークハルトに拒絶された気がして、悲しくなり涙が溢れたが、ジークハルトはベッドから離れても、アルマに振り向きもせずに寝室を出て行ってしまった。
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