決戦の夜が明ける

独立国家の作り方

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第1堡塁の戦い

第77話 三枝龍二という男

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 しかし、今日の猛攻は凄まじかった。
 今、思い返しても、一体どのように第1堡塁を陥落させたのか、まだ頭脳が追いついていないのである。

 龍二の頭脳の特徴は、一度頭の中に入れた材料は、隅から隅まで立体的に処理する事が出来るということを、優は理解した。
 その複雑な思考の仕組みを解くには、少し時間がかかるだろうとも感じていた。

 なぜ、あのとき、装甲車部隊と戦車部隊と、徒歩兵部隊が、同時に目標線Aオブジェライン アルファに到達出来たのだろうか。
 あのとき、龍二が無線で全員に喝を入れていなければ、作戦に対する、司令部に対する不協和音によって、徒歩兵は目標線Aに、あの時間には辿り着いていないのだ。
 まさかと思うが、あのタイミングで彼ら全員に作戦に対する疑問符を持たせ、突撃の一時間前に、わざと全員に聞こえるように偽降着作戦ぎこうちゃくさくせんであると種明かしをすることで、全員の気持ちを一つにまとめたとでも言うのだろうか。

 そうなのだ、兵士全員の心理も含め、14時30分ひとよんさんまるに三枝軍の攻撃が一点に集中するように、あらゆることが動いていたのだ。

 優には解る、三枝龍二という男は、戦いに勝つために、そこまで出来てしまう。
 計算で勝利する術を先天的に持ち合わせる、生まれながらのカリスマなのだと言うことを。

 北条もまた、それに気付いていた。

 三枝啓一が、生前語っていた「弟の剣筋には何かある」、その正体がそこにあるのだと言うことを。

 龍二の剣筋には、ベテラン剣士が一瞬で考える複雑な駆け引きの、更に上を行く高度な思考処理が、一瞬でなされているのである。

 そして、明日以降の攻略に、一体どんな作戦を考えているのか、末恐ろしいものすら感じられた。

 抑え気味に見ても、今日の戦いは完全勝利と言える。
 自軍の損耗もそれなりに出てはいるが、、おそらく敵軍の損害は、明日の戦闘を継続出来るほど残っていないのでは、と感じられるほどであった。

 この夜に、敵に対する攻撃を仕掛けない理由の一つに、自軍の再編成があった。
 それは、敵軍の戦車などは撃破判定が多い事に比して、自軍の損耗は小破、中破がほとんどで、整備部隊が徹夜で奮闘すれば、ほぼ全車両が戦線復帰出せんせんふっき来るレベルであった。

 これもまた、龍二の作戦の一つであった。

 敵の損耗は修理不可能なレベルに与え、自軍の損耗は夜間に修理完了出来るレベルに抑える、つまり、戦闘終了時には損耗が拮抗きっこうしていたとしても、翌朝の戦力比は大きなものになっている、というマジックを考えていたため、龍二は当初から夜間に戦闘を行う予定は無かったのである。

 そして、この夜のうちに、できるだけ損害を受けない、そのために、夜間に襲撃をすることで、攻撃を偽編ぎへんする、そこまで考えての行動である。
このような小さな積み重ねに見える事象が、実は決定的な戦果として如実に現れていた。
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