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第四章:愛
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寂しいからこそ、幸せだった頃の夢を繰り返し見る。そうやって寂しさを紛らわしていたのだろうか。
『シロツメクサを編むんですよ。一人で。ずっと編み続けるんです。長く長く……。いつから編んでいるのか、どこまで編み続けるのかも分からないんですけど、ひたすら、無心に。たまに編み始めを見ようとするんですけど、どこにあるのかも分からない長さで、今も尚……シロツメクサの長さは、伸びて、伸びて……伸び続けているんです』
夢の続きから、また編み始めるということか。
「いつから……その夢を?」
『幼い頃からです。先日も見ました。一週間ほど前でしょうか』
シロツメクサ……か。
リビングに弟が戻ってきた。
俺を一瞬探す素振りを見せたが、ベランダに居ることを知ると、案の定邪魔することなくソファに座ってテレビを見始めた。
「俺が昨日見た夢は、シロツメクサではなく、勿忘草でした」
華頂さんは俺の言葉に黙り、「その花を夢に見たことはない」と暗に伝えてくる。言葉はないのに、さっきから、まるで手に取るように彼の行動や考えが分かる。不思議な感覚だ。
俺は、今こんなにも華頂さんと繋がっている感覚に満たされているのに、彼はポツリと言った。
『繋がりそうで……繋がらない、ですね』
嘘だろ?
彼は、俺との夢に共通項がないことを残念がっているのかもしれないけど、絶対にそんなことはない。俺と貴方は、間違いなく繋がっている。
「じゃあ、当ててあげますよ」
『え?』
聞き返す彼に、思いきって伝える。
「今あなたはソファに座っていて、カレンダーに丸印をつけた俺の誕生日を見てる」
『えっ!?』
「色は黒かな。ボールペンじゃなくて、マジックで印をつけましたよね」
『ちょ……っ、え!?』
その驚き方を見ると、やっぱり図星か。
「違いますか?」
『…………合って……ます』
「ほらね。繋がらないなんてことはないんですよ。俺達はきっと……繋がってます」
見えるから。感じるから。
「疑わなくても大丈夫です。俺は信じますよ。貴方が……、……女性だったことを」
『そこですかぁぁッ!?』
間髪入れない華頂さんのツッコミに、俺は大笑いして、華頂さんの笑い声もたくさん聞いた。
最後は笑ってくれた。笑わせることが出来た。
俺はそれだけで良かったと思うよ。
「また来月のシフトが出たら連絡します」
『はい、待っています。今日は連絡ありがとございました。すごく……嬉しかったです』
「良かったです。今度会った時にLINE交換しましょう」
『はい! ぜひ!』
「では、おやすみなさい」
華頂さんは、恥ずかしそうに「おやすみなさい」と返事すると、俺が電話を切るまでじっと待っているようだった。
少し名残惜しい。
そう思いながら通話を終了すると、梅雨の湿った空気がまたふわりと流れ込んできて、ペチュニアの花をゆらゆらと揺らした。
「……貴方と一緒なら、心が和らぐ……か」
ペチュニアの花言葉が今、俺の心を満たした気がした。
電話を切って思うことは、年上とか、おじさんとか……全然気にならないってこと。会話は相変わらず軽やかでテンポが良く、楽しい。そりゃ、今後付き合いが長くなっていけばジェネレーションギャップを感じるのかもしれないけど、今のところそれもはっきりと感じない。いい意味で親しみやすくて、なんだか少し……安心する。
「華頂さん……。会いに行くよ、明日……必ず」
この足で。
誕生日プレゼントを考えておかなきゃな。
俺は立ち上がり、リビングに戻った。
弟が、「仕事の電話?」と尋ねてくるから、適当に返事をしてお風呂に入った。
弟の紅夜という名前もそうだけど、今まで俺の周りには「赤」を連想させる名前の人が多かった。初めての彼女は「朱里」だった。地元の親友は「赤井」で、みっちょん先輩の苗字も「赤穗」だ。部長の苗字も「赫田」だし、従姉妹は「珊瑚」という名前。華頂さんと出会うきっかけになった新婦の旧姓も「火口」だったから。
赤……。
きっと、俺の運命の相手は「赤に関する名前」だと、過去の俺が教えてくれていたのかもしれない。
「……茜さん、か」
好きとか、そういうんじゃない。だけど……ちょっと気になる存在であることは、間違いない。
『シロツメクサを編むんですよ。一人で。ずっと編み続けるんです。長く長く……。いつから編んでいるのか、どこまで編み続けるのかも分からないんですけど、ひたすら、無心に。たまに編み始めを見ようとするんですけど、どこにあるのかも分からない長さで、今も尚……シロツメクサの長さは、伸びて、伸びて……伸び続けているんです』
夢の続きから、また編み始めるということか。
「いつから……その夢を?」
『幼い頃からです。先日も見ました。一週間ほど前でしょうか』
シロツメクサ……か。
リビングに弟が戻ってきた。
俺を一瞬探す素振りを見せたが、ベランダに居ることを知ると、案の定邪魔することなくソファに座ってテレビを見始めた。
「俺が昨日見た夢は、シロツメクサではなく、勿忘草でした」
華頂さんは俺の言葉に黙り、「その花を夢に見たことはない」と暗に伝えてくる。言葉はないのに、さっきから、まるで手に取るように彼の行動や考えが分かる。不思議な感覚だ。
俺は、今こんなにも華頂さんと繋がっている感覚に満たされているのに、彼はポツリと言った。
『繋がりそうで……繋がらない、ですね』
嘘だろ?
彼は、俺との夢に共通項がないことを残念がっているのかもしれないけど、絶対にそんなことはない。俺と貴方は、間違いなく繋がっている。
「じゃあ、当ててあげますよ」
『え?』
聞き返す彼に、思いきって伝える。
「今あなたはソファに座っていて、カレンダーに丸印をつけた俺の誕生日を見てる」
『えっ!?』
「色は黒かな。ボールペンじゃなくて、マジックで印をつけましたよね」
『ちょ……っ、え!?』
その驚き方を見ると、やっぱり図星か。
「違いますか?」
『…………合って……ます』
「ほらね。繋がらないなんてことはないんですよ。俺達はきっと……繋がってます」
見えるから。感じるから。
「疑わなくても大丈夫です。俺は信じますよ。貴方が……、……女性だったことを」
『そこですかぁぁッ!?』
間髪入れない華頂さんのツッコミに、俺は大笑いして、華頂さんの笑い声もたくさん聞いた。
最後は笑ってくれた。笑わせることが出来た。
俺はそれだけで良かったと思うよ。
「また来月のシフトが出たら連絡します」
『はい、待っています。今日は連絡ありがとございました。すごく……嬉しかったです』
「良かったです。今度会った時にLINE交換しましょう」
『はい! ぜひ!』
「では、おやすみなさい」
華頂さんは、恥ずかしそうに「おやすみなさい」と返事すると、俺が電話を切るまでじっと待っているようだった。
少し名残惜しい。
そう思いながら通話を終了すると、梅雨の湿った空気がまたふわりと流れ込んできて、ペチュニアの花をゆらゆらと揺らした。
「……貴方と一緒なら、心が和らぐ……か」
ペチュニアの花言葉が今、俺の心を満たした気がした。
電話を切って思うことは、年上とか、おじさんとか……全然気にならないってこと。会話は相変わらず軽やかでテンポが良く、楽しい。そりゃ、今後付き合いが長くなっていけばジェネレーションギャップを感じるのかもしれないけど、今のところそれもはっきりと感じない。いい意味で親しみやすくて、なんだか少し……安心する。
「華頂さん……。会いに行くよ、明日……必ず」
この足で。
誕生日プレゼントを考えておかなきゃな。
俺は立ち上がり、リビングに戻った。
弟が、「仕事の電話?」と尋ねてくるから、適当に返事をしてお風呂に入った。
弟の紅夜という名前もそうだけど、今まで俺の周りには「赤」を連想させる名前の人が多かった。初めての彼女は「朱里」だった。地元の親友は「赤井」で、みっちょん先輩の苗字も「赤穗」だ。部長の苗字も「赫田」だし、従姉妹は「珊瑚」という名前。華頂さんと出会うきっかけになった新婦の旧姓も「火口」だったから。
赤……。
きっと、俺の運命の相手は「赤に関する名前」だと、過去の俺が教えてくれていたのかもしれない。
「……茜さん、か」
好きとか、そういうんじゃない。だけど……ちょっと気になる存在であることは、間違いない。
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