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第四章:愛
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翌日、弟は大学へ、俺は華頂さんの店へと向かった。弟に、道に迷うなよと言われながら出発したが、四年もこっちに住んでいれば他県と言えど、主要な道は覚えた。買い物する場所も、人気のカフェも、遊ぶ場所もデートスポットさえも、頭に入っている。
誕生日プレゼントを何にしようかと思って、途中スターバックスへ立ち寄った。タンブラーと千円分のカードを購入する。こんなもんで良いだろう。あまり凝ったプレゼントなんか用意したら、恐縮するに違いない。
ついでに、ドライブのお供に自分のドリンクも購入し、華頂さんの店へと再出発する。すると、ぽつぽつ雨が降り出した。
「……雨だ」
大切な日には、雨が降る。
今日はさすがに俺だって分かるよ、大切な日だって。雨が俺達とどんな関係にあるのかは分からない。けどきっと「雨が降らなきゃいけない」んだろう。俺は土で、彼は花だから、雨はきっと俺達を結ぶ大切な何かなんだ。
「大事にしよう」
あの日。
初めて会った日、突然降り出した雨に彼は言った。「大事にこなそう」と。
俺もそうしようと思うよ。雨の日を大事に過ごしてみようと思う。見える世界が、少し変わる気がするから。
お店の近くにある駐車場に車を止め、青い傘をさす。時刻は十時を半時間ほど回ったところだ。
KachoFugetsuとローマ字で書かれた二階建てのお洒落な店。ここの店主ががたいのいいお喋りなおじさんというのが信じられない。店頭には見たことのないスタッフが忙しそうに仕事をしていて、軒先の花が色とりどりに客を出迎えている。
道路を挟んでお店を見つめ、彼がこの店で生まれ育ったことを感慨深いと思った。
『勿忘草! こんなに可愛ければ、忘れるはずがないわ!』
夢の中の彼女の声が蘇る。軽やかに舞って、『待ってて、すぐに戻るわ』と花を摘みに行った。
彼女は本当に忘れなかった。俺の事を、決して忘れなかった。だからこそ今世、花屋の子供として生まれてきたのだろう。
「ありがとう……、華頂さん」
花を愛し、花に愛される男。足の悪い俺を担げるくらいの筋肉男に……、キミは今なれているよ。あんなに可愛かったのに、俺よりずいぶん大きくなってしまった。
それでも、それが「嫌だ」とは全然思わないよ。有り難うと強く思う。
俺はだめだな……、何も覚えてなくて、ずっとキミに寂しい思いをさせ続けた。
横断歩道を渡り、店先で立ち止まる。
「いらっしゃいませ」
可愛らしい女の子が声を掛けてくれて、俺は傘を畳んで店へと入った。
花のいい香りがする。白を基調にした清潔感のある店内。壁にはブリザーブドフラワーで作ったのだろう壁掛けフラワーが所狭しと掛けられている。結構いいお値段だ。独身・独り身の男には、そう簡単に手が出せる代物ではない。相当お金を持て余さない限り、このメルヘンなお花を家に飾ろうとは思わないだろう。
店の中には二階へと続く螺旋階段があり、俺は上を見上げた。二階は何があるのだろうか。
じっと見てしまう俺に、近くに居たスタッフが声を掛けてくれた。
誕生日プレゼントを何にしようかと思って、途中スターバックスへ立ち寄った。タンブラーと千円分のカードを購入する。こんなもんで良いだろう。あまり凝ったプレゼントなんか用意したら、恐縮するに違いない。
ついでに、ドライブのお供に自分のドリンクも購入し、華頂さんの店へと再出発する。すると、ぽつぽつ雨が降り出した。
「……雨だ」
大切な日には、雨が降る。
今日はさすがに俺だって分かるよ、大切な日だって。雨が俺達とどんな関係にあるのかは分からない。けどきっと「雨が降らなきゃいけない」んだろう。俺は土で、彼は花だから、雨はきっと俺達を結ぶ大切な何かなんだ。
「大事にしよう」
あの日。
初めて会った日、突然降り出した雨に彼は言った。「大事にこなそう」と。
俺もそうしようと思うよ。雨の日を大事に過ごしてみようと思う。見える世界が、少し変わる気がするから。
お店の近くにある駐車場に車を止め、青い傘をさす。時刻は十時を半時間ほど回ったところだ。
KachoFugetsuとローマ字で書かれた二階建てのお洒落な店。ここの店主ががたいのいいお喋りなおじさんというのが信じられない。店頭には見たことのないスタッフが忙しそうに仕事をしていて、軒先の花が色とりどりに客を出迎えている。
道路を挟んでお店を見つめ、彼がこの店で生まれ育ったことを感慨深いと思った。
『勿忘草! こんなに可愛ければ、忘れるはずがないわ!』
夢の中の彼女の声が蘇る。軽やかに舞って、『待ってて、すぐに戻るわ』と花を摘みに行った。
彼女は本当に忘れなかった。俺の事を、決して忘れなかった。だからこそ今世、花屋の子供として生まれてきたのだろう。
「ありがとう……、華頂さん」
花を愛し、花に愛される男。足の悪い俺を担げるくらいの筋肉男に……、キミは今なれているよ。あんなに可愛かったのに、俺よりずいぶん大きくなってしまった。
それでも、それが「嫌だ」とは全然思わないよ。有り難うと強く思う。
俺はだめだな……、何も覚えてなくて、ずっとキミに寂しい思いをさせ続けた。
横断歩道を渡り、店先で立ち止まる。
「いらっしゃいませ」
可愛らしい女の子が声を掛けてくれて、俺は傘を畳んで店へと入った。
花のいい香りがする。白を基調にした清潔感のある店内。壁にはブリザーブドフラワーで作ったのだろう壁掛けフラワーが所狭しと掛けられている。結構いいお値段だ。独身・独り身の男には、そう簡単に手が出せる代物ではない。相当お金を持て余さない限り、このメルヘンなお花を家に飾ろうとは思わないだろう。
店の中には二階へと続く螺旋階段があり、俺は上を見上げた。二階は何があるのだろうか。
じっと見てしまう俺に、近くに居たスタッフが声を掛けてくれた。
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