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仕組まれたお見合い。

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ぽかぽかと暖かい春の昼下がり。

仕事が終わり、私『八重樫 千冬(やえがし ちふゆ)』は家に向かいながら歩いていた。


「明日の仕事先は・・・マンションで、掃除のみか。」


自分のケータイに入ってる仕事の予定を確認する。

私の仕事は『家政婦』。

会社からメールでお客さんのデータが送られてくるのを受け、仕事内容を把握していく。

もちろん出社もするけど。


「えーっと、『掃除箇所は床のみ。机の上にあるものなどは一切触らないこと』ね。おっけ。」


ケータイを見つめながら歩いてると、画面が『着信』に切り替わった。

ピピっと鳴る音に、私は誰からの電話なのか確認した。


「お母さんだ。」


画面に現れたのは『母』の文字。

私は通話ボタンを押した。


「もしもし?」

「あ、千冬?今、仕事?」

「ううん、帰りだよ?なんか用?」


突然の電話に何の用かと思って問うと、母はとんでもないことを言い始めた。


「千冬って彼氏いなかったわよね?」


『彼氏』。

高校時代から数えると、何人かとは付き合ったことがある私。

でも、私が抱えてる『病気』のせいで付き合った人とは毎回別れていた。

そのこともあって、もう誰とも付き合わず一人で生きて行こうと思っていたのだ。


「いないし、いらない。」


そう伝えると電話の向こうから母の呆れるような声が聞こえてきた。


「もー・・そんなこと言って・・・。『お見合い』してみない?」

「・・・はい?」

「だって千冬ももう26でしょ?そろそろ結婚考えないと・・・。」

「前も言われてお見合いしたけどさぁ・・・。お断りした理由も言ったよね?」


お母さんに言われて何回かした『お見合い』。

私の職業を言ったらみんな決まって同じセリフを言うのだ。


『キミと結婚したら家政婦ができる。』


「みんな私の事見てないじゃん。家のことをしてくれる『家政婦』が欲しいだけ。私、収入もそれなりにあるから一人で生きて行けるし。」


利用されるだけの結婚なんて御免だ。

愛がない結婚生活なんて何意味があるのかわからない。


「そうは言っても・・・もう受けちゃったし。」


軽い感じでぼそっと呟かれた母の言葉。

私はその言葉を聞き逃さなかった。


「・・・えぇ!?」

「だから今度の日曜日、『モンテール・カフェ』に行ってね?時間はお昼の2時。よろしくー。」


そう言われて切られた電話。

切られたケータイを、呆然と見つめるしかできなかった。


「もー・・・・。」


勝手に見合いの話を決めてしまった母。

ドタキャンも考えたけど、相手側に迷惑が掛かってしまうが頭をよぎる。


「・・・行くしかないか。」


どうせ私の職業を聞けば過去の見合い相手と同じ発言をするに決まってる。

ならその時に断ればいいだけのことだ。

『行った』という事実さえあれば、母の面目も潰れないだろう。

そう考えてるときにメールが飛んできた。

差し出し人は・・・母だ。


『相手は笹倉 秋也(ささくら しゅうや)さんだからねー。』


そのメールを見て、私はふと、自分の名前を近しいものを感じた。


「・・・『秋』って漢字なんだ。私と同じ季節の漢字。」


お断りする相手なのに親近感を覚えた私。

ほんの少しだけ楽しみになりながら、日曜日を待つことになったのだった。

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