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ケガ。
しおりを挟む今の季節は冬。
今日は土曜日。
時間は夕方の5時だ。
「おつかれさまでしたー。」
「明日はよろしくお願いしますー。」
『明日』の話がされている場所はコンサートホール。
たった今、リハーサルが終わったところ。
ユウト「かざねちゃん、明日の演奏よろしくね。」
私に声をかけてくださったのはこの音楽団の指揮者さん。
私と5つくらいしか違わないのに立派に指揮者をされてる。
姫宮 かざね「はいっ。明日もよろしくお願いしますっ。」
この音楽団で『ピアニスト』として在籍する私。
音楽団の団員たちはみんな仲が良く、いつも和気あいあいとした空気の中でリハが行われる。
そんな空気感が居心地良くて大好きだ。
ユウト「かざねちゃんはこのまま帰るの?」
ピアノの側に置いておいた鞄に楽譜をなおしてるときに、ユウトさんが聞いてきた。
かざね「はい。ちょっと寄り道して帰ろうかなーって考えてますけど。」
ユウト「それ、俺も一緒に・・・・・・。」
団員「ユウトさーん!ここ!もう一回聞いてもいいですかーっ!?」
ユウトさんの言葉を遮るようにして団員の一人が叫んだ。
ユウト「あー・・・・今、行く!・・・気をつけてね。」
かざね「?・・・はい。じゃあ明日。」
リハも終わったことだし、家に帰ろうと私は荷物を全て持った。
舞台裏を歩きながら腕時計の時間を確認する。
かざね「楽譜屋さん、まだ開いてるよね、17時だし。」
音楽団の収入は、ハッキリ言って少ない。
それだけで食べて行けるはずもなく、私は楽譜屋さんでもバイトをしてる。
それは『編曲者』としてのバイトだ。
かざね「あるといいなー・・単発の仕事。」
そんなことを考えながら下りる階段。
考えごとをしてると階段の段数を間違えるもので・・・
私は最後の一段を見事、踏み外した。
かざね「きゃぁ・・・っ。」
どさっ・・・!
かざね「いたたたた・・・・・。」
なんとか両手は死守しながら落ちた私。
でも一瞬、左足がおかしな方向に向いた自信があった。
かざね「捻ったかも・・・。」
そーっと体を起こして足を床につく。
ずきっ・・・!
かざね「!?・・・いぁっ・・!」
雷が落ちたかのような激痛が足に走った。
かざね「やっちゃった・・・。まだ左足だからセーフかな。」
これがもし『手』だったら大惨事だ。
二度とピアノが弾けなくなるかもしれない。
かざね「左ならほとんど使わないし・・・よかったー。」
そんなことを考えながら近くに座れるところを探す。
幸いにもすぐ近くにベンチを見つけ、そこに腰かけた。
かざね「病院・・・行ったほうがいいよね。」
ずきずきと痛む足は放っておいたら酷くなりそうな気がした
こんな勘は当たるものだから・・・病院に行くことにした。
鞄からケータイを取り出して、近くの病院の検索をかける。
でも今日は土曜日だ。
そして今は夕方。
どこもやってるわけがなく、なかなか病院が見つからない。
かざね「えー・・休日診療で探したらいいのかな・・。」
検索方法を変え、ケータイをスクロールしていくと現れた『休日診療』の文字。
かざね「あ、大学病院?・・・整形もあるって書いてある。ここだな。」
私は病院を見つけ、ケータイでタクシーを呼んだ。
出来れば歩いて病院に行きたいところだけど、ケガしたのが足だから・・・
かざね「背に腹は代えられない・・・。」
明日のコンサートのことを考えたらタクシーで病院に行くしか道はなかった。
財布の中に残ってるのは2万円。
今月はこれでどうにか生きないといけない。
かざね「うぅぅ。病院が・・・1万あったら足りる・・?タクシーが2千円くらいだとして・・・残りは8千円。あと2週間もあるのに・・・」
私は立ち上がり、ホールの出口に向かう。
ちょうどその時にやって来たタクシー。
かざね「すみません、大学病院までお願いします。」
運転手「かしこまりました。」
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