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決意3。

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かざね「こんにちはー。」



楽譜屋さんに来た私は、顔なじみの店員さんのところに向かった。



店員「あぁ、いらっしゃい、姫宮さん。」

かざね「こんにちは。今日は上がった楽譜と、お話があってきました。」

店員「何かな?」



私は引っ越すことを店員さんに話した。

引っ越し先は海外。

もう戻ってくることは無いかもしれない・・・と。



店員「そう・・・。」

かざね「今までありがとうございました。」




深く頭を下げると、店員さんは私に言った。


店員「・・・ネットでデータは送れるけど?」

かざね「・・・・へ?」

店員「メールで楽譜を送ってくれたらいいよ。それなら続けられるんじゃない?」

かざね「・・・確かに。」




ちーちゃんも仕事上、パソコンをよく使う。

ネット環境は整うハズだ。

私のパソコンを買えば・・・編曲の仕事は可能になる。




店員「パソコンは、向こうのを選べばいいよ。環境が整ったら・・・連絡して?」



そう言って店員さんは名刺を渡してくれた。




かざね「『春夏冬《あきない》 響輝《ひびき》』って・・・コンクール審査委員長の!?」




珍しい苗字だから覚えてる。




春夏冬「姫宮さんの編曲した曲、売れ行きがいいんだよ。僕としても手放したくない。」

かざね「あ・・りがとう・・ございます・・・?」

春夏冬「それに・・・『KANA』が編曲したって公に出たら・・・もっと売れそうだしね。」

かざね「!?・・・なんでそれ・・!」



全世界に拡散された私の曲。

『無料』ということもあってか、いろんな所で耳にするようになってきた。

でも私だってバレてないハズなのに・・・。




春夏冬「僕の耳も舐めてもらっちゃ困るよ?あのコード編成、大好きなパターンでしょ。」

かざね「うっ・・・。」

春夏冬「もうちょっと濁らせても面白いと思うけど?」

かざね「・・・努力します。」




店員さんの怖い一面を知ってしまった私。

編曲の仕事は続けることにして、楽譜屋さんをあとにした。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









何日か後に、ユウトさんや音楽団のみんなにも挨拶をし、私は出発の準備を整えていった。

マンションの荷物は、全て船便で向こうに送る。

到着するのはおよそ1か月後。

私が着いて少ししたら届く計算だ。




かざね「着替えとかは先に持って行かないと・・・困るよね。」




少し残してスーツケースに詰める。




かざね「あとは・・・梅さん直伝のレシピ。」




ちーちゃんが出発したあとも教えてもらった料理。

だいぶ作れるようになった・・・と思う。




かざね「手も結構使えるようになったし。」




ちーちゃんの手術が上手かったのか、リハビリをがんばったからか、運がよかったからか・・・だいぶ動くようになってきた右手。

しびれも痛みもなく、順調だ。




かざね「向こうでもがんばらないとね。」




スーツケースの蓋を閉めた私。

出発の日まで・・・街をぷらぷらしたり・・・コンサートを聞きに行ったり・・・

名残惜しむように・・・時間を使った。








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ーーーーーーーーーーーーーー







そして出発・・・







ーーーーーーーーーーーーーー









ーーーーーーーーー








かざね「・・・・着いたー!」





飛行機に乗って数時間。

空港の出口に会いたかった人を見つける。




かざね「ちーちゃんっ。」

千秋「反対方向の飛行機には乗らなかったみたいだな。」

かざね「ひどい・・・。」

千秋「冗談だよ。ほら、家にいくぞ。」




私の手を引いて歩き出すちーちゃん。

空港の駐車場まで連れていかれ、車に乗せられた。




千秋「1時間くらいかかるから・・・疲れてるだろ?寝ときな?」

かざね「大丈夫だよー。」



車の外を流れる景色を見る。

どこまでも真っ直ぐな道。

道路の脇には洋風の建物が建ち並び、一軒一軒がとにかく大きい。




かざね「すごいねー。」

千秋「まぁ・・・こっちは土地がたくさんあるからな。二つ向こうの島はリゾート地だし・・・落ち着いたら観光を兼ねて行ってみるか。」

かざね「行く!・・・家は?もう見つけたの?」



『探しとくから』って言って先に経ったちーちゃん。

1カ月もあれば大丈夫って言ってたけどどうなったのかは知らなかった。



千秋「あぁ。最初はホテルで暮らしてたんだけど、いいとこが見つかったからそこに決めた。」

かざね「楽しみだなぁ。」





車で走り続けること1時間。

ちーちゃんは一軒の家の前に車を止めた。




かざね「?」

千秋「ここだ。」

かざね「ここだって・・・・・・え!?」




2階建ての一軒家。

外壁が・・・真っ白だ。




千秋「かざねの家に似てるだろ?」

かざね「う・・・うん。大きさは全然違うけど・・・。」




私が住んでた家の倍以上はありそうだ・・・。



千秋「間取りも違うけどな。」



車を下りるちーちゃん。

私もくっついて下りていく。




千秋「中、入ってみな?」

かざね「う・・・うん。」




真っ白の大きいドアを開ける。




がちゃっ・・・




キィ・・・と音をたてて開いたドアの向こうは、広い広い廊下が見えた。

天井は高く、開放的な空間だ。



かざね「すご・・・。」

千秋「あっちのほうがすごいぞ?」





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