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「え!?」

「は!?」


俺の言葉に二人は口をぽかんと開けて驚いていた。

兄妹だからか、その姿がよく似てる。


「おそらくあの犯人は服役することになる。数年で出所してくるだろうけど、ハルが国内にいればどうにかして探し当てるかもしれない。でもそれが海外になれば・・・」

「!!」

「!!」


ハルもお兄さんも俺の考えを理解してくれたのか、驚きながらも表情が明るくなった。


「海外移住が可能かどうか、2~3年くらいかけて世界にでてみない?」


本格的に移住するならしなくてはいけない用意が山ほどある。

国もすぐに決めれるものじゃないし、ハルの仕事の需要もある。

その調査や治安、そのほかもろもろ調べないといけないことがあるのだ。


「わ・・私は仕事をほとんどしてないから大丈夫だけど・・・涼さん、仕事・・・」

「俺は大丈夫。ネットさえあればどこでも仕事はできるし。・・・それに実は事業を拡大しようかと思ってて。」

「え!?」


更に驚くハルに俺は自分ができる最大限の笑顔を見せた。


「あいつがハルを探しに来るんなら、あいつが探せないところに逃げちゃえばいいんだよ。」


そう軽く言うと、ハルはぽかんと口を開けたあと、くすくすと笑い始めた。


「ふふっ、そんな考え方があったんだね。」

「『どうやって隠れるか』じゃなくて『探せない場所に行けばいい』んだよ。」


そう伝えると、ハルはしばらく笑っていたけど、何かを思い出したのかその表情が曇った。

その瞬間を、俺とお兄さんは見逃さない。


「ハル、他に何かあるんだな?」


そうお兄さんが聞いたあと、ハルは諦めたように笑いながら答えた。


「ちょっと・・・人の顔がすぐそばに来るのが怖くて・・・。」


ハルはここ最近のことを話してくれた。

誰かに覗き込まれたりすると息がしにくくなることを。


(それで最近青ざめてるときがあったのか・・。)


毎日何かしら表情が強張ってるときがあったけど、その理由を今知ることができた。

俺は知らないうちにハルの恐怖心を煽っていたのだ。


「一種のトラウマだな。」


お兄さんがそう言ったあとハルは首を傾げながら聞いた。


「トラウマ・・?」

「心的外傷な。主な原因は身に危険を感じるような出来事。フラッシュバックしたり、急に何もかもが怖くなったりする。」

「そう・・なんだ・・・。」

「すぐに治る人もいるにはいるけど・・・まぁ、ハルの場合は環境を変えるのがいいかもな。犯人が出てきたら不安にかられるだろう。」


病気の治療法に関して俺は素人でわからないけど、お兄さんの言うことがハルには合ってそうだと俺も思った。

なら、『海外移住』はハルにとってプラスなことが増えるかもしれない。


「ハル、海外に行こう。」

「海外・・・。」

「向こうで住めば、あいつに会うことはもう無いだろう。安心も出来て、気分転換もできて・・・多分、華道家の仕事ができる。」


そう言うとハルは驚きながら俺を見た。


「『華道家の仕事が増える』?」

「うん、日本の文化って海外の需要が結構あるんだよ。本場のものとなればさらに需要は見込める。体調を考えながら仕事をするのもいいと思うよ?」


ハルは俺の言葉に少し視線を下げて悩み始めた。


「ま、それは追々でいいし・・・。とりあえず海外移住で話を進めてみない?無理そうだと判断したらまた考えればいい。」


できれば海外移住が一番いいと思ってるけど、国内にとどまるなら俺が持ってるツテを全て使ってハルを守る。

あとはハルの気持ち次第だ。


「今日はどうする?念の為に泊って行くか?」


話の大筋が決まったからか、お兄さんはまたパソコンを操作しながらハルに聞いた。


「帰る。」

「わかった。・・・薬、出してやろうか?睡眠の類のものしか出せれないけど。」


ハルはその言葉を聞いて、首を横に振った。


「いらないのか?まぁ、欲しくなったらいつでも出してやるから来いよ?」

「うん、ありがと。・・・じゃあ帰るね。」


椅子から立ち上がったハルの腰元を支え、俺はお兄さんに頭を下げた。


「・・・こんな形でお会いすることになってすみません。今度正式にご挨拶させていただきます。」


そう伝えるとお兄さんは一枚の名刺を俺に見せるように手に持った。

あれは・・・俺の名刺だ。


「この一枚でだいたいわかりますよ。妹のこともよく考えてくれてるようですし。」

「それでも必ずご挨拶に伺います。」

「・・・病院に事前連絡くださいね。」

「わかりました。ありがとうございます。」


もう一度頭を下げ、俺とハルは病院をあとにした。


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