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帰国。
しおりを挟むかざねさんの演奏を聞いてから4日が経った。
この4日間、朝はゆっくり目に起きてご飯を食べて・・・
買い物をして・・観光して・・
夜も早い目に帰ってきて買ってきたものを眺めたりしていた。
時間が経つのは早いもので・・・今、私たちは帰りの飛行機の中にいる。
初めて乗るプライベートジェットってやつは・・・慣れない。
慶「・・・寝とく?すぐに着くよ?」
かえで「うーん・・・寝れそうにない・・。」
慶「ごろごろ転がってるだけでも違うけど・・・。」
慶さんはソファーみたいなところに座っている。
私は少し離れた一人用の椅子に座って景色を見ていた。
窓から見えるのは雲。
他には・・・雲。
さらに・・・雲。
ほんと雲しか見えない。
慶「帰ったらリョウが迎えに来てくれてる。そのまま病院な?」
かえで「うん・・・。」
かざねさんの演奏会のあとから、慶さんと『赤ちゃん』に関しての話は一切してない。
体調は気を使ってくれてるけど・・・『できてたら』とか『生まれたら』とかの話はしなかった。
もし病院に行って『妊娠』を告げられたらこの先どうなるのか不安になってくる・・・。
生活が変わってしまうのか・・慶さんがどう思うのか・・・。
そんなことを考えながら窓の外にある雲を見つめてると、慶さんが口を開いた。
慶「・・・・かえではさ・・子供欲しい?」
かえで「そ・・れは・・・・。」
『欲しい』といえば欲しい。
大好きな慶さんとの子供だから尚更欲しい。
でもそれは私一人の考えだ。
父親になる慶さんの考えも重要になる。
かえで「慶さん・・は?」
慶「俺は・・・そうだな。なんて言ったらいいんだろうな・・・。」
かえで「?」
慶さんはソファーから立ち上がって私のところに来た。
私のシートベルトを外して抱え上げ、ベッドに連れていかれた。
かえで「?」
慶「俺はかえでを手放したくない。」
かえで「?・・・うん?」
慶「だから・・・かえでに子供が宿ったら・・・俺から離れられなくなるだろ?育てなきゃいけないし。」
かえで「うん・・そうだね・・?」
慶「だから一日でも早く・・孕ませたかった。」
かえで「・・・・え?」
慶さんは私の身体を押して、ベッドに沈めた。
慶さんもころんっと横に寝転がる。
慶「かえでにずっと側にいて欲しくて・・・子どもが欲しかった。」
かえで「じゃあ・・・もし今妊娠してたとしたら・・・赤ちゃんのことは好きじゃない・・?」
私自身、慶さんから離れるつもりはない。
でも、慶さんは私が離れるんじゃないかと思って不安だったことになる。
私を手放さないための材料としての赤ちゃんなら・・・慶さんは愛してくれないのかと思った。
慶「まさか。かえでが産む子供なら一生愛してるよ。ただ・・・・」
かえで「『ただ』?」
慶「かえでがいつも一番なだけで。」
優しい笑顔で私の頬を撫でる慶さん。
その笑顔は、私を愛してくれてるのがよくわかったけど・・・
同時に赤ちゃんのことも大事にしてくれるだろうことがわかった。
慶さんは・・・優しい人だから。
かえで「・・・ふふ。」
慶「待てよ?今できてたらいつの時の子だ?」
指を折って数えていく。
慶「あ・・・かえでを久しぶりに抱いたときか。」
かえで「あ・・・・・。」
慶「かえでが初めて『気持ちイイ』って言った時な。」
かえで「!?・・・言わないでぇ・・・。」
慶「もう覚えたもんな?どこが気持ちよくて・・・なんて言うのか。」
かえで「むー・・・もう忘れたもんっ。」
顔をぷぃっと背けて見せる。
すると慶さんは私の顔を捕まえて、くぃっと引き戻した。
かえで「!?」
慶「なら思い出すまで抱くだけだけど?」
かえで「!?!?」
慶「まー・・できてたら抱けないし・・・確認が終わってからだな。」
かえで「んむっ!?」
ちゅっと口を塞がれる。
かえで「ぷはっ・・!シないって言わなかった・・!?」
慶「シなきゃいいんだろ?キスは・・・大丈夫だもんな?」
ちゅー・・・
かえで「んんっ・・・!ぷはっ・・!無理無理っ・・!」
慶「なんで?」
かえで「私がシたくなっちゃうー・・・。」
顔を両手で隠して足をじたばたと動かした。
慶「ははっ。なら産まれた後だな。とろっとろに溶かせてやるから覚悟しとけよ?」
もう私のお腹に赤ちゃんがいることが前提で話す慶さん。
『若に知らないことは無い』って春斗さんに言われたことが頭をよぎった。
かえで「まさか・・・私のお腹に赤ちゃんがいるのは・・・確定なの!?」
慶「さすがにそこまではわからないよ・・・授かりものなんだし。あと2時間もすれば空港に着く。検査、楽しみだな。」
飛行機が着陸するまでの間、慶さんはずっと私を抱きしめていた。
もしかすると慶さんも・・・不安なのかもしれない。
一つの命がここに宿っているかもしれない。
もし宿っていたら・・・その命を守りながら育てていかないといけない。
それはきっと・・・想像できる範囲をはるかに超える出来事が待ってると思うから。
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医師「・・・ご懐妊ですね。おめでとうございます。」
帰国した私たちは、リョウさんに運転してもらって病院に来ていた。
すぐに検査をしてもらい、医師から告げられた言葉は『懐妊』だった。
かえで「うそ・・・ほんとに・・?」
医師「今、3カ月ですね。もう心音も確認できてますし・・。母子手帳をもらいに行って、来週検診に来てくださいね。」
一通り資料を手渡され、私は診察室から出た。
待合で慶さんとリョウさんが待っている。
慶「どうだった!?」
診察室から出てきた私に、慶さんが駆け寄りながら聞いてきた。
さっき医師に言われた言葉を思い出しながら伝える。
かえで「・・・・今、3カ月目だって・・。母子手帳もらって・・来週検診・・・。」
そう言うと慶さんは私を抱きしめた。
慶「やった・・・!」
かえで「喜んで・・くれるの?」
慶「当たり前だろ!?しっかり体調を管理しないとな・・・!」
ぎゅーっと抱きしめてくれる慶さん。
そのことで私自身に実感が沸いたのか、涙が出てきた。
かえで「ふぇっ・・よかった・・慶さんが喜んでくれて・・・よかったぁ・・・。」
慶「え?」
かえで「いつも慶さん、私を大事にしてくれて・・・私も慶さんのこと好きってもっといいたいのに伝えれなくて・・・でも赤ちゃん・・・慶さんの赤ちゃん産めたら・・・私が慶さんのことすごく好きって伝わるかなって思ったー・・・。」
慶「えぇぇ?そんなこと思ってたのか?かえでが俺のこと大好きなの知ってるから・・・。」
かえで「うー・・・。」
慶「あー・・ほらほら泣くな。お腹の子がびっくりするだろ?」
かえで「無理ー・・・。」
溢れてくる涙を両手で拭いながら慶さんも私の涙を手で拭いてくれた。
それでも涙は止まらずに、私は泣きながら病院をあとにした。
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慶「どう?落ち着いた?」
車に乗せられて十数分。
だんだん落ち着いてきた私は涙が止まっていた。
かえで「ごめん・・・。」
慶「いや、妊娠中は情緒不安定にもなりやすいって聞くし・・・。まぁ、泣き止んだならよかったよ。ほら、市役所見えてきたよ。」
リョウさんの運転する車は市役所の駐車場に入った。
私は車を下りて、慶さんと一緒に市役所に入る。
慶「母子手帳ってどこにもらいに行くんだ?」
かえで「どこだろう・・・。」
悩みながら案内板を眺めてると、一人の所員さんが私たちに声をかけてきた。
所員「神楽さま・・・?」
慶「え?・・・あぁ、ちょうどよかった。母子手帳ってどこにもらいにいけばいいのかな。」
所員「!!・・・ご案内します!!」
慶「いいよ。仕事あるだろ?どこかだけ教えてくれないか?」
所員「母子手帳なら・・・福祉課になりますね。」
慶「そっか。ありがとう。」
慶さんは私の手を引いて、福祉課に向かって歩き始めた。
歩き始めたけど・・・なぜかいろんな人に声をかけられてる。
「神楽さま!?今日のご用件は・・・。」
慶「いい。私用だから。」
「神楽さま・・・!なにか不備でもありましたでしょうか・・!」
慶「大丈夫。いつもありがとう。」
すたすたと歩く慶さんに・・・私は聞いてみることにした。
かえで「慶さん・・・?市役所もお仕事で来るの?」
慶「うん。交通整備とかは基本的に役所を通さないとできないしね。他にもあるけど・・・かえでは知らなくていいよ。」
かえで「そ・・なんだ・・・。」
『知らなくていい』といわれて少し悲しかったけど、私に理解できる自信もなかった。
慶「あ、あそこだな。」
慶さんが指を指した『福祉課』の看板。
一緒に窓口に行き、申請する。
かえで「すみませんー。」
所員「はーい。」
かえで「母子手帳をいただきたいんです。」
所員「『妊娠届』ですね。病院から妊娠の証明書をもらいましたか?」
かえで「えーっと・・・。」
さっき病院の先生に手渡されたものを全部出してみる。
一枚ずつ見ていくと、確かに証明署が入ってあった。
かえで「これ・・ですよね?」
その紙を渡すと所員さんは確認してくれ・・・
所員「はいっ。じゃあお渡しするものがあるのでちょっとお待ちくださいねー。」
かえで「はい。」
その所員さんは奥に入っていき、大きな紙袋を下げて戻ってきた。
かえで「!?」
所員「こちら、色々入ってますので・・・一応ご確認いただいていいですか?」
かえで「はっ・・はいっ・・・。」
所員「まず、母子健康手帳、次に母親学級のお知らせ、検診の手引き、もしもの為の救急指定病院の案内・・・・・・・・・」
かえで「えっ・・と・・・あ、これですね?これとこれと・・・あれ?これは?」
所員「それはこちらですね。」
かえで「あ、なるほど。」
たくさんの書類や冊子を紙袋から出していく所員さん。
私は言われたものがあるのか確認するだけで手一杯だった。
所員「ーーーーーー・・・・・・以上になります。」
かえで「ぜ・・全部あったと思いますー・・・。」
所員「何かわからないことがありましたらいつでも連絡してきてくださいね。あとは本屋さんとかでも出産に関するものとかありますし、ご活用ください。」
かえで「わかりましたっ。ありがとうございます。」
紙袋に全てを入れると、慶さんがそれを持ってくれた。
慶「ん。」
かえで「ありがと。」
さっき通ってきた道を戻るようにして歩いてると、おもむろに慶さんが私に聞いてきた。
慶「かえでってさ・・・オンとオフが激しいよな。」
かえで「・・・へ?」
慶「最初に出会った頃はさ、きびきびしてて・・・しっかり者だったんだけど、だんだん俺に慣れてきたのかふわふわした感じになって・・・でも『仕事』として料理とか買い物とかしてるときはしっかりしてて・・・。さっきも所員にいろいろ確認なんかしちゃって・・・なんか複雑。」
かえで「複雑って・・・意味がわかんないよ・・・。」
慶「俺無しじゃ生きて行けなきゃいいのにって思う。」
かえで「・・・。」
むくれながら私の手を引く慶さん。
私はその手をぎゅっと握って見せた。
慶「?」
かえで「私は・・・慶さんがいないと生きて行けないよ?でも・・・支えたいとも思ってるから・・うーん・・なんて言ったらいいのかな・・。」
頭を悩ませてると慶さんが繋いでいた手を離した。
かえで「?」
その手を私の頭において、わしゃわしゃと撫でる。
かえで「!?」
慶「うん。わかってる。俺を幸せにしてくれるんだもんな。」
かえで「・・・うんっ。」
慶「・・・あ、言うの忘れてた。」
かえで「?」
慶さんは歩いてた足を止めて、私の肩を抱いた。
ぐぃっと引き寄せて・・・
慶「・・・俺の子をお腹に宿してくれてありがとう。何があってもかえでとお腹の子を全力で守るから。」
そう言ってくれた。
かえで「よろしくお願いします。・・・ふふ。」
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