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3人組。
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翌日。
朝、宿で目を覚ました私は自分の家に必要なものを買うために町に出た。
食器や布団、キッチン道具なんかを見て回っていく。
「この辺はあんまり見てなかったから新鮮で楽しいなぁ・・・。」
宿暮らしではあまり物を買うことはできなかったから、あえて見てこなかったところだ。
雑貨屋さん系は好きだったけど、前は時間が無くて足を運ぶことはできなかった。
寝る前にスマホでショップを覗いて、そのまま寝墜ちてしまうなんてことしょっちゅうだったことを思い出す。
「やっぱり自分の目で見て触って決めるのが楽しいよねー。」
前の世界の物とは比べ物にならないくらい、不揃いのものがお店には並んでいた。
どこかが歪んでるフライパンに、一つとして同じものがないお皿。
布団も微妙に大きさが違っていて、なんだか味があるように見えてきた。
「まぁ、前の世界も一点物とかあったからそんな感じかな?全部手作りだと思うし・・・すごいなぁ。」
職人さんが作ってる物を一つ一つ見ながら、私は必要なものを買っていく。
木でできたコップにお皿、フライパンにお鍋、それに大きめの桶など、細々としたものを買っていく。
支払いはカバンから銅貨を取り出して払っていくのだけど、私は手持ちが少なくなってきてることに気がついた。
いや、手持ち自体はまだまだあるけど、銅貨がもう底を尽きそうなのだ。
(しまった・・・この町じゃ多分両替なんてできないだろうし・・・どうしよう・・・。)
残った銅貨を握りしめ、私は買った物を持って一旦家に戻ろうとした。
その時・・・
「・・・すごくたくさん買ってるみたいだけど、この町の名産品?」
そう言って私に声をかけてきた人がいたのだ。
「え?」
声のした方に視線を向けると、そこに3人の男の人が立っていた。
薄手のラフな長袖の服に土で汚れたパンツを履いて、斜めがけのカバンをかけてる。
左手には二重になった腕輪のようなものが見えた。
「皿に服に・・・桶?随分いろいろあるみたいだけど?」
私の手にある物を覗きながら聞いてくる男の人たち。
私は驚きながらもこれらを買った理由を説明することにした。
「えっと・・・家で必要なものなんです。」
「家?キミはこの町の住人さん?」
「いえ、・・・あー・・住人なのかな?ちょっと微妙な感じしますけど・・・」
私はこの近くに家を建てたことを説明し、そこに住むのに必要なものを買っていたことを追加で説明した。
すると3人は納得してくれたようで、各々自己紹介を始めてくれたのだ。
「俺はカーマイン。」
「俺はトープ。」
「僕はセラドン。獣の討伐をしながら旅をしてるんだよ。」
「!!・・・討伐!・・・あ、私は万桜です。」
驚きの職業の人に出会った私だったけど、一人、どこかで出会ったような気がしていた。
声に・・・聞き覚えがあるのだ。
(カーマインって人・・・どこかで会ってそうな気がする・・。)
短髪で背が高い彼は、体つきががっちりしていた。
獣を討伐する旅をしてるくらいなら体は鍛えていそうだけど・・・何か引っかかる気がするのだ。
(会ってるならお城か城下町、それかここに来る道中の町・・・)
じっと見ながら考えてると、その男の人はふぃっと視線を逸らしてしまった。
あまりまじまじ見るのも失礼かと思って、私は踵を返す旨を伝える。
「あの・・私はこれで・・・」
そう言って家に帰ろうとしたとき、ふと私の視線に入った物があった。
それは・・・花瓶だ。
「わ・・!すごくかわいい・・・!」
粘土を乾燥させて作ったような一輪挿しの花瓶。
少し立体に花の絵も描かれていて、私の目は奪われてしまった。
「お!お嬢ちゃん、その花瓶気に入ったかい?」
私が見てることに気がついたお店のおじさんが声をかけてきた。
「はいっ、すごくかわいいですね!」
「だろう?15リルだけどどうだい?」
そう言われ、私は手持ちを頭の中で計算した。
(銅貨は2枚・・・あとは銀貨と金貨しかない・・・)
一つ15リルで商売をされてるお店に、1000枚も銅貨があるとは思えなかった。
もしあったとしても、おつりが足りなくなることは必至。
それが安易に想像できるのに、買うことなんかできるはずない。
「・・・また今度にしようかなー。」
「そうかい?次まで残ってるかどうかわからないけど・・・」
「・・・。」
『銀貨しかない』と言えば買わせてくれるのかなと思いながらも、私はおじさんに笑顔を向けた。
「じゃあ今度来た時にあったら買いますっ。」
「わかったよ、また来ておくれ。」
とりあえずは諦め、私は足を家に向けた。
そして数歩歩いたとき、さっきの3人組の一人、カーマインさんが私の肩を掴んだのだ。
「『マオ、何で買うのを諦めたんだ?』」
そう聞かれ、私の頭の中はその言葉がぐるぐると回り始めた。
(何でって・・・銅貨がないからだけど・・この人に言う必要ある?)
手に持ってる荷物がいっぱいだったからとか、今日はたくさん買ったから止めておくとか、いろいろ言い訳は浮かんでくる。
そのうちのどれかを使って答えればいいだけのはずなのに、なぜか私の口から出た言葉は本当のことだった。
「・・・銅貨がもうないから。銀貨で払うとお店の人のおつりがなくなるかもしれないから買えないの。」
そう言ったあと、私は『なぜ本当のことを言ったのか』と自問した。
なぜか本当のことを言いたくなり、答えてしまった自分自身が不思議に思えて仕方がない。
「??」
「俺、銅貨持ってるから替えてやるよ。」
そう言ってカーマインさんはカバンから革袋を一つ取り出した。
「この袋に1000枚入ってる。お前の銀貨と交換な。」
「え?え?」
よくわからないまま両替が済まされてしまった。
「助かるけど・・・いいんですか?」
カバンから銀貨を取り出すと、カーマインさんは私の手から銀貨を取って代わりに銅貨の入った革袋を手渡してくれた。
「俺たちもあまり重たいのは困るからな。お互い様ってやつだ。」
「お互い様・・・」
「ほら、あれ買うんだろ?」
カーマインさんはさっき私が見ていた花瓶を指さしていた。
今持ってる銅貨で買えるのだ。
「!!・・・おじさんっ、やっぱりそれ下さいっ。」
私はもらった革袋から銅貨を15枚取り出して支払い、花瓶をゲットした。
割れないように桶に入れ、上機嫌でカーマインさんにお礼を言う。
「ありがとうっ・・・!」
「!・・・いや。」
背が高いカーマインさんを見上げながらお礼を言い、私は家に戻った。
とりあえずリビングのテーブルに荷物を置き、宿に戻る。
すると受付のカウンターのところに3人の姿があったのだ。
(あ、そっか。ケルセンに宿は一つしかないからここに泊まることになるんだ。)
受付の邪魔しないように上にあがろうと、私はそっと歩いて行く。
すると店主さんとの会話が聞こえてきたのだ。
「・・・2か月!?」
「あぁ、この辺りで大型の獣が目撃されてるんだ。討伐まで時間がかかるだろうから・・・とりあえず2か月分払っておくよ。」
そう言って『トープ』と名乗っていた人がカウンターに革袋をいくつか置き始めた。
(一人一泊1銀貨だから・・・2か月なら60銀貨。3人分なら180銀貨必要だ・・・。)
とんでもない大金だけど、獣を討伐してるなら報奨金がでてるのだろう。
そして今話していた大型の獣を討伐したらまた報奨金が出て・・・
(宿泊費は必要経費ってとこなのかな?)
そんなことを考えながら、私は階段を上がっていく。
すると店主さんが私にしてくれた説明と同じ説明を始めた。
「トイレと風呂は1階。朝と晩はご飯出すから昼だけどっかで食べておくれ。」
「了解。」
「世話になる。」
「ご飯、楽しみだなー。」
そんな話を聞きながら私は自分の残り宿泊数を考えた。
家を建ててもらってる間、延長してもらっていたのだ。
(明日で最後だったはず。・・・結構長く泊まったなぁ。)
店主さんのご飯はどれも美味しかった記憶がある。
宿の中もいつもきれいで、明日で泊まるのが最後かと思うと少し寂しくさえ思ってしまう自分がいるのだ。
(まぁ、遊びに来ることもできるし。)
この町を出て行くわけじゃない。
いつでも来れると思いながら私は宿の部屋に入っていったのだった。
翌日。
朝、宿で目を覚ました私は自分の家に必要なものを買うために町に出た。
食器や布団、キッチン道具なんかを見て回っていく。
「この辺はあんまり見てなかったから新鮮で楽しいなぁ・・・。」
宿暮らしではあまり物を買うことはできなかったから、あえて見てこなかったところだ。
雑貨屋さん系は好きだったけど、前は時間が無くて足を運ぶことはできなかった。
寝る前にスマホでショップを覗いて、そのまま寝墜ちてしまうなんてことしょっちゅうだったことを思い出す。
「やっぱり自分の目で見て触って決めるのが楽しいよねー。」
前の世界の物とは比べ物にならないくらい、不揃いのものがお店には並んでいた。
どこかが歪んでるフライパンに、一つとして同じものがないお皿。
布団も微妙に大きさが違っていて、なんだか味があるように見えてきた。
「まぁ、前の世界も一点物とかあったからそんな感じかな?全部手作りだと思うし・・・すごいなぁ。」
職人さんが作ってる物を一つ一つ見ながら、私は必要なものを買っていく。
木でできたコップにお皿、フライパンにお鍋、それに大きめの桶など、細々としたものを買っていく。
支払いはカバンから銅貨を取り出して払っていくのだけど、私は手持ちが少なくなってきてることに気がついた。
いや、手持ち自体はまだまだあるけど、銅貨がもう底を尽きそうなのだ。
(しまった・・・この町じゃ多分両替なんてできないだろうし・・・どうしよう・・・。)
残った銅貨を握りしめ、私は買った物を持って一旦家に戻ろうとした。
その時・・・
「・・・すごくたくさん買ってるみたいだけど、この町の名産品?」
そう言って私に声をかけてきた人がいたのだ。
「え?」
声のした方に視線を向けると、そこに3人の男の人が立っていた。
薄手のラフな長袖の服に土で汚れたパンツを履いて、斜めがけのカバンをかけてる。
左手には二重になった腕輪のようなものが見えた。
「皿に服に・・・桶?随分いろいろあるみたいだけど?」
私の手にある物を覗きながら聞いてくる男の人たち。
私は驚きながらもこれらを買った理由を説明することにした。
「えっと・・・家で必要なものなんです。」
「家?キミはこの町の住人さん?」
「いえ、・・・あー・・住人なのかな?ちょっと微妙な感じしますけど・・・」
私はこの近くに家を建てたことを説明し、そこに住むのに必要なものを買っていたことを追加で説明した。
すると3人は納得してくれたようで、各々自己紹介を始めてくれたのだ。
「俺はカーマイン。」
「俺はトープ。」
「僕はセラドン。獣の討伐をしながら旅をしてるんだよ。」
「!!・・・討伐!・・・あ、私は万桜です。」
驚きの職業の人に出会った私だったけど、一人、どこかで出会ったような気がしていた。
声に・・・聞き覚えがあるのだ。
(カーマインって人・・・どこかで会ってそうな気がする・・。)
短髪で背が高い彼は、体つきががっちりしていた。
獣を討伐する旅をしてるくらいなら体は鍛えていそうだけど・・・何か引っかかる気がするのだ。
(会ってるならお城か城下町、それかここに来る道中の町・・・)
じっと見ながら考えてると、その男の人はふぃっと視線を逸らしてしまった。
あまりまじまじ見るのも失礼かと思って、私は踵を返す旨を伝える。
「あの・・私はこれで・・・」
そう言って家に帰ろうとしたとき、ふと私の視線に入った物があった。
それは・・・花瓶だ。
「わ・・!すごくかわいい・・・!」
粘土を乾燥させて作ったような一輪挿しの花瓶。
少し立体に花の絵も描かれていて、私の目は奪われてしまった。
「お!お嬢ちゃん、その花瓶気に入ったかい?」
私が見てることに気がついたお店のおじさんが声をかけてきた。
「はいっ、すごくかわいいですね!」
「だろう?15リルだけどどうだい?」
そう言われ、私は手持ちを頭の中で計算した。
(銅貨は2枚・・・あとは銀貨と金貨しかない・・・)
一つ15リルで商売をされてるお店に、1000枚も銅貨があるとは思えなかった。
もしあったとしても、おつりが足りなくなることは必至。
それが安易に想像できるのに、買うことなんかできるはずない。
「・・・また今度にしようかなー。」
「そうかい?次まで残ってるかどうかわからないけど・・・」
「・・・。」
『銀貨しかない』と言えば買わせてくれるのかなと思いながらも、私はおじさんに笑顔を向けた。
「じゃあ今度来た時にあったら買いますっ。」
「わかったよ、また来ておくれ。」
とりあえずは諦め、私は足を家に向けた。
そして数歩歩いたとき、さっきの3人組の一人、カーマインさんが私の肩を掴んだのだ。
「『マオ、何で買うのを諦めたんだ?』」
そう聞かれ、私の頭の中はその言葉がぐるぐると回り始めた。
(何でって・・・銅貨がないからだけど・・この人に言う必要ある?)
手に持ってる荷物がいっぱいだったからとか、今日はたくさん買ったから止めておくとか、いろいろ言い訳は浮かんでくる。
そのうちのどれかを使って答えればいいだけのはずなのに、なぜか私の口から出た言葉は本当のことだった。
「・・・銅貨がもうないから。銀貨で払うとお店の人のおつりがなくなるかもしれないから買えないの。」
そう言ったあと、私は『なぜ本当のことを言ったのか』と自問した。
なぜか本当のことを言いたくなり、答えてしまった自分自身が不思議に思えて仕方がない。
「??」
「俺、銅貨持ってるから替えてやるよ。」
そう言ってカーマインさんはカバンから革袋を一つ取り出した。
「この袋に1000枚入ってる。お前の銀貨と交換な。」
「え?え?」
よくわからないまま両替が済まされてしまった。
「助かるけど・・・いいんですか?」
カバンから銀貨を取り出すと、カーマインさんは私の手から銀貨を取って代わりに銅貨の入った革袋を手渡してくれた。
「俺たちもあまり重たいのは困るからな。お互い様ってやつだ。」
「お互い様・・・」
「ほら、あれ買うんだろ?」
カーマインさんはさっき私が見ていた花瓶を指さしていた。
今持ってる銅貨で買えるのだ。
「!!・・・おじさんっ、やっぱりそれ下さいっ。」
私はもらった革袋から銅貨を15枚取り出して支払い、花瓶をゲットした。
割れないように桶に入れ、上機嫌でカーマインさんにお礼を言う。
「ありがとうっ・・・!」
「!・・・いや。」
背が高いカーマインさんを見上げながらお礼を言い、私は家に戻った。
とりあえずリビングのテーブルに荷物を置き、宿に戻る。
すると受付のカウンターのところに3人の姿があったのだ。
(あ、そっか。ケルセンに宿は一つしかないからここに泊まることになるんだ。)
受付の邪魔しないように上にあがろうと、私はそっと歩いて行く。
すると店主さんとの会話が聞こえてきたのだ。
「・・・2か月!?」
「あぁ、この辺りで大型の獣が目撃されてるんだ。討伐まで時間がかかるだろうから・・・とりあえず2か月分払っておくよ。」
そう言って『トープ』と名乗っていた人がカウンターに革袋をいくつか置き始めた。
(一人一泊1銀貨だから・・・2か月なら60銀貨。3人分なら180銀貨必要だ・・・。)
とんでもない大金だけど、獣を討伐してるなら報奨金がでてるのだろう。
そして今話していた大型の獣を討伐したらまた報奨金が出て・・・
(宿泊費は必要経費ってとこなのかな?)
そんなことを考えながら、私は階段を上がっていく。
すると店主さんが私にしてくれた説明と同じ説明を始めた。
「トイレと風呂は1階。朝と晩はご飯出すから昼だけどっかで食べておくれ。」
「了解。」
「世話になる。」
「ご飯、楽しみだなー。」
そんな話を聞きながら私は自分の残り宿泊数を考えた。
家を建ててもらってる間、延長してもらっていたのだ。
(明日で最後だったはず。・・・結構長く泊まったなぁ。)
店主さんのご飯はどれも美味しかった記憶がある。
宿の中もいつもきれいで、明日で泊まるのが最後かと思うと少し寂しくさえ思ってしまう自分がいるのだ。
(まぁ、遊びに来ることもできるし。)
この町を出て行くわけじゃない。
いつでも来れると思いながら私は宿の部屋に入っていったのだった。
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