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あからさまな態度。

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「あ・・!トープさま!セラドンさま!それに・・・カーマインさま。」


マローは俺を見るなり怪訝な顔を見せた。

そして俺から離れるようにしながらトープとセラドンのもとへ行く。


「お二人にご報告したいことがありまして探しておりました!」

「報告?」

「なんだい?」

「・・・。」


俺を無視して報告を始めるマロー。

城ではいつものことだから、俺はその場を離れるようにして森の奥に足を進める。

すると子供たちとマオが俺にくっついて歩いて来たのだ。


「カーマインさんは聞かなくていいんですか?」


トープたちと俺を交互に見ながら聞いてくるマオ。

いつものことに俺は何とも思ってなかった。


「いいんだよ。俺はあとで聞くし。」

「・・・。」


足を進め、ひたすら森の中を進んでいく。

子供たちは俺を心配してか、右と左に分かれて俺の手をぎゅっと握ってきた。


「にーちゃん・・・。」

「うん?奥で俺と遊ぶか?」


そう言ったとき、俺を見ていたのかマローが大きな声で叫んだのだ。


「子供たち!!カーマインさまに触れちゃだめだよ!!」


その言葉に俺は振り返った。


(あいつ余計なことを・・・)


怒るような表情で俺たちを見てるマロー。

俺はその言葉を聞かなかったことにして足を進める。


「ちょ・・マロー、その言い方はないだろ?」

「そうだよ、カーマインを毛嫌いしないで欲しいんだけど。」


トープとセラドンの声が耳に入り、俺は少し頬が緩んだ。

あの二人は理解してくれてるからそれでいいのだ。


「あ・・・!にーちゃん!あそこ行こうよ!枯れた木のとこ!」


空気を読んだのか子供の一人がそう提案してきた。


「枯れた木のとこか?結構遠いけど・・・お前たち家の仕事は大丈夫なのか?」


町の子供たちのほとんどは家の手伝いをしてる。

兄妹の世話や、親の仕事の手伝いなんかが多いのだ。


「夕暮れまでに帰れば大丈夫!」

「俺も!・・・マルーンのやつも来ればよかったのにな!」


いつも3人いる子供たちだけど、今日は二人しかいない。

一人は家の仕事で来れなかったようだ。


「よーし!じゃあ急いでいくぞ?しっかり掴まってろよ?」


そう言って俺は一人を肩の上に乗せた。

もう一人は腹を抱えるようにして抱きかかえ、マオの脇腹に手を回して持ち上げる。


「ひゃぁ!?」

「わぁっ・・!」

「うわっ・・!?」

「行くぞーっ!!」


俺は足にぐっと力を入れた。

そして・・・


(風よ、少し力を分けてくれ。)


そう念じると集まって来る風を俺は足元に集中させていった。

そして踏み込んでいた足で思いっきり地面を蹴る。


「うわぁ!?」


ぐんっ・・!と、走りだした俺は風の力を使ってどんどん加速していく。

目に見える木を避けながら、子供たちとマオを落とさないように森を走っていった。


「すげぇ!にーちゃん!速い速い!!」

「これがにーちゃんの『力』!?かっけぇぇ!!」

「ははっ、まぁ、『力』ではないけど・・・いっか。」


子供たちはスピードに興奮していたけど、俺は何も言わないマオが気になって覗き込んだ。

するとマオは両手を使って自分の顔を覆ってしまっていたのだ。


「あ・・悪い、マオ。怖かったか?」


そう聞きながらスピードを落としていくと、マオは首を横に振っていた。


「やっ・・ちょっと初めての体験なので・・・」

「悪い悪い。」


馬よりも早いスピードで走っていた俺は、目的の『枯れた木』が近かったこともあって集めていた風を解放した。

徐々にスピードを落としていき、足を止める。


「ほら、この奥が『枯れた木』のとこだ。」


そう言って子供たちを地面に下ろす。

すると子供たちは嬉しそうに駆けていった。


「俺が一番に木に触る!」

「あ!ずるいぞ!俺が一番だ!!」


ぎゃぁぎゃぁ言いながら駆けていく二人を見ながら、マオも地面に下ろした。

すると平衡感覚が狂ったのか、マオの体がふらついたのだ。


「わっ・・・」

「おっと・・・!」


倒れる前に体を支え、真っ直ぐに立たせる。


「大丈夫か?」

「だ・・だいじょぶです・・・」


少し待つとマオはふらつかなくなったようで、子供たちを追いかけるようにして歩き出した。

俺も一緒になって歩いて行く。


(久しぶりに来たけど・・・相変わらずだだっ広い場所だな。)


『枯れた木』があるのは森を抜けたところにある。

だだっ広い草原がどこまでも広がっていて、そのちょうどど真ん中に木があるのだ。


「え・・・これ・・木ですか・・・!?」


マオは『枯れた木』が目に入ったのか、歩いていた足を止めた。

口を開けて木を見上げてる。


「見たことなかったのか?」


そう聞くとマオは上を向いたままゆっくり歩きだした。


「こんな大きな木・・見たことない・・・」


そう言いながらマオは近づいていき、枯れた木の幹に触れた。


「これ・・・何メートルあるんですか?」


幹に触れながら歩いて行くマオ。

俺も一緒に幹に触れながら答えた。


「幅は50m、ぐるっと回ると170mくらいある。」

「そんなに!?」

「あぁ。」


もうボロボロになってしまってる木の皮が手にくっついてくる。

枝だけの隙間から空が見え、葉っぱなんかない。


「この木・・枯れてるんですか?」


幹を優しく撫でながら聞いてくるマオに、俺は首を横に振った。


「わからない。」

「『わからない』?」

「もう何百年も前から葉をつけないんだが、朽ちるわけじゃなさそうなんだよ。」


枯れた木は朽ちて土に還るもの。

でもこの木だけは枯れてるように見えるけど朽ちないのだ。


「栄養とかの問題ですかね・・・。」

「それはわからないな。」


そんな話をしながら足を進めるマオ。

歩きながら枝を見上げて何かを見つめてるように見えた。


「・・・あれ?この木って・・・『桜』ですか?」


その言葉に俺は首を傾けた。


「さくら?」

「はい。この木の樹皮が桜に似てるような気がして・・・」


マオはその『さくら』という木の説明を始めた。

いろいろ特徴があるらしく、それに当てはまってるのだとか・・・。


「これが桜だったらすごい数のお花が咲きますねぇ・・・。」

「そうなのか?花どころか枝に葉を茂らせてるのを見たことがないけど・・・。」


俺が生まれてからは一度も葉をつけてない『枯れた木』。

昔の人はもっと違う呼び方をしていたようだけど、それはもう昔話の世界になってしまってる。

枯れてから何百年も経つから、もう元の呼び名なんて誰も知らないのだ。


「まだ生きてるならどうにかして咲いて欲しいですね。きっと・・・ものすごくきれいだから。」


そう言って幹に頬を寄せるマオ。

俺はなぜか瞬間、この木が花をつけた絵が見えた気がした。

白に近い色の花びらが・・ひらひらと舞ってるのが見えたような気がしたのだ。


(あれ・・?幻覚か・・?)


そう思って目を擦ってると、子供たちが俺を目掛けて走ってくるのが見えた。

飛び込んできそうな勢いに、俺は身を少し屈めて両手を差し出す。


「にーちゃーんっ!!」

「にーちゃんっ!!」

「よし来い・・・っ!」


同時に俺の胸に飛び込んできた二人。

二人ともぎゅっと抱きしめて俺は抱え上げた。


「すっげぇ!にーちゃん!」

「かっこいいな!!にーちゃん!!」


嬉しそうに笑う子供たち。

この笑顔を守るのも、俺たちの仕事だ。


「ほら、こけないように遊んできな?」


そう言って地面に下ろすと、二人は競争するかのように駆けていった。


「じゃああそこまで競争な!!」

「俺が一番に着く!!」


わぁわぁ言いながら駆けていく二人を見てると、マオがじっと俺を見ていた。


「?・・・どした?」


そう聞くとマオは俺が驚く言葉を言った。


「・・・カーマインさんってお城にいた方ですよね?私を・・捕まえに来たんですか?」

「----っ!!」



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