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第一王子ライラック。

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翌朝、私はお城の北側に位置する塔にやってきた。

カーマインさんとトープさん、それにセラドンさんが一緒だ。


「こんな薄暗いところに王子さまがいるんですか・・?」


歩いてる塔は湿っぽく、陽の光が殆ど入って来ないような場所だった。

階段を上ると隅には苔のようなものもあり、吸い込む空気もどよんとしてる気がする。


「あぁ。病弱だからってここに押し入れられてる。」

「ここにいる方が病気になりそうなんですけど・・・」


足を滑らさないようにしながら階段を上り、塔のてっぺん近くまで行ったとき、小さな扉が現れた。

その扉をトープさんがノックする。


「王子、マオを連れてきました。」


取っ手に手をかけて扉を開けると、中は薄暗い空間が広がっていた。

小さな小さな窓が一つにベッドが一つ。

部屋の中をぐるっと囲うように本棚がある。


(なんか・・おかしな部屋・・・)


灯りが無いのに本がたくさんあることに違和感を覚えながら私は部屋の中に足を踏み入れた。


「お前がマオか?ようこそケルス王国へ。ビリジアンが失礼をしたようで申し訳ない。」


ベッド上で本を片手にロングヘアの男の人がそう言った。

この人が・・・第一王子のライラックさんだ。


「・・初めまして、マオです。この国のご挨拶の仕方が分からないのでご容赦ください。」


そう言って頭を下げると、王子さまは笑いながら話してくれた。


「ははっ、いいんだよ、楽に話してくれ。」

「ありがとうございます。・・・ところで私はどうしてこちらに・・・」


ざっとは聞いていた呼ばれた理由。

真意を確かめたくて私は張本人である王子さまに聞いてみたのだ。


「それはこの本に書かれてることなんだが・・・マオは枯れた木のことは知ってるか?」

「はい。カーマインさんたちやこの国の人たちにいろいろ聞きました。」

「そうか。・・・じゃあ昔話といこう。」

「?・・・昔話ですか?」

「あぁ。」


王子さまは開いていた本をパタンっと閉じ、遠くを見るようにして話し始めた。


「昔昔のそのまた昔。最強と呼ばれし植物使いがいました。」


その植物使いがいた時代はまだ枯れた木・・つまり原初の木がたくさん花をつけていた時代でした。

この木が国を豊かにしてくれてることを知っていた植物使いは、その原初の木と唯一話をすることができる者でした。

『なぜこの国を豊かにしてるのだ?』

そう植物使いが問うと、原初の木はこう言ったのです。

『アイタイヒトガイル。』

植物使いはその言葉を聞き、国を豊かにしてくれてる礼としてその者を召喚する陣を研究しました。

植物使いが生きてるうちに何度かその陣を発動させたものの、どれも空振り。

その植物使いが世を去る前に『原初の木の為に召喚を』と言っていたのだが、その召喚の陣はいつしか『木の為』ではなく『国の為』にすり替わって行ってしまったのです。

そしてこの飢饉が訪れました。

召喚の陣を発動させるのは今だと思った国は、マオとキララをこの世界に呼ぶことができたのです。


「・・・と、いう話だ。どうだ?興味深いか?」

「興味深いかと聞かれても・・・え、あの木は誰かを待っていたということですか?」

「そうらしい。そしてあの木はこうも言ってたと文献に書かれてる。『コノセカイジャナイ』と。」

「この世界じゃない・・・?」

「そうだ。あの木は・・・マオの世界のものじゃないか?」


そう言われ、私はハッと気がついた。

あの木の種類は『桜』。

この世界に二つとして同じ木がないのなら、あの木は・・・


「そう・・かもしれないです。見覚えがある木・・と、いうかよく見てた種類の木なので・・・」

「なら、やはりマオかキララを召喚したかったのだろうな。お前たちのどちらかが前の世界に嫌気をさしたときにこちらの世界と繋がったと考えるのが妥当だろう。」

「嫌気をさしたとき・・・・」


その言葉を聞いた瞬間、自分に心当たりがあることに気がついた。

今川先生がやらかしてくれたことと膨大な仕事量に何もかもが嫌になった時にこの世界にやって来たのだから・・・。


(え・・もしかして本当に『私』が呼ばれた?でも今川先生の可能性・・・いや、あの人は前の世界に嫌気なんてさしそうにない・・・うーん・・・)


悩むようにして俯き、考えてると王子さまが急にむせこんだ咳をし始めた。


「ごほっ・・!ごほっごほっ・・!!」

「大丈夫ですか!?」

「王子・・!しっかり・・・!」


カーマインさんとトープさんが駆け寄って背中を擦り、セラドンさんが近くにあった水を王子さまに手渡してる。


「あ・・あぁ・・もう体中が痛くてな・・長くはなさそうだ。」

「そんなこと言わずに・・・!」

「そうですよ!」


必死に王子さまを元気づけようとしてる3人だけど、私は彼が一体何の病気なのか知らなかったのだ。

こんな錆びれた塔に閉じ込められてるくらいなら深刻な病気かもしれないけど、誰一人として感染症の対策なんかしてない。


「あの・・何の病気なんですか?王子さま・・・。」


そう聞くとカーマインさんたち3人は俯いてしまった。

聞いてはいけないことだったのかと思ってると、王子さまが少し笑いながら説明をしてくれたのだ。


「医者は『わからない』って言ってるんだよ。」

「わからない?」

「とても小さかった頃に風邪を引いて・・・誰かに移さないようにこの塔に入れられてからどんどん体が弱くなっていった。筋力も落ちてまともに歩くこともできないし、腕や足を触ると骨が痛むようになっていって・・・」


どうも王子さまの症状は筋力の低下と骨がもろくなっていってることらしい。

それ以外は元気そうで、歩けないことから塔から出れず、本ばかり読んでいたのだとか。


「ははっ・・・この国の指揮を執るのが弟のビリジアンだと思うとなかなかこの世を離れることができないのさ・・・。」


笑いながらそういう王子さまだったけど、私は一つこの症状に心当たりがあった。


「医者は匙を投げてるんですよね?なら私に試させてもらえませんか?」


そう聞くと4人は顔を見合わせていた。

でも私がこういうのをわかっていたかのように、二つ返事をくれたのだ。


「いいよ?医者は何もできないって言ってたし、マオに賭けるのも悪くない。」

「!!・・・ありがとうございます。」

「で?何をする?薬か?祈祷か?」


そう言われ、私はこの部屋にある唯一の窓を指さした。


「日光浴です!」




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