聖女に王子と幼馴染をとられて婚約破棄「犯人は追放！」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で価値の高い女性だった。

第65話

「彼は結婚してました。奥さんと子供がいて……」

数日後、その日の仕事が終わってお茶を飲みながら雑談をしていた時だった。長身でモデル体型の美女のニーナが言う。声は深い悲しみに満ちていた。言い終わると哀れみを感じる雰囲気で顔を伏せた。

ニーナの付き合っている彼は救いようのないクズ男だが、それでもニーナは好きで結婚も考えていた。少し前に彼に結婚してほしいと熱烈なプロポーズを受けたから信じていた。だが彼は、ずっと前に結婚していた。ニーナの付き合っていた男は妻子持ちであることが発覚した。

「別れたの？」

セリーヌは優しく声をかける。ニーナに彼と別れたのかと尋ねた。

周りには、セリーヌの元婚約者のフレッドに幼馴染のアラン。セリーヌが経営する精霊のレストランで、右腕的存在のアルバートとルーカス兄弟。弟のルーカスは事故で足を失っていたが、セリーヌの神秘的な力によって今は完全に治っている。アルバートとルーカス兄弟はセリーヌに多大な恩を受けましたと感謝して働いている。

その四人の男性はそれぞれ性格は異なるが、完壁なまでに整った美しい顔をしている。そして過去にはフレッドとアランとは色々あったが、現在は全員がセリーヌの事を心から愛している。

周りには、その他の同僚もニーナを心配そうな様子で見守っている。

「まだ別れてません」
「どうして？」

ニーナは気まずそうな顔をしたあと言いにくそうに答えた。セリーヌは努めて冷静に言った。まずはニーナの気持ちを確かめるのが大切だと思っていた。

「分からないんですけど、たぶんまだ彼のことが好きなんだと思います」

ニーナの心は悲しくてやるせない思いだった。男には妻子がいて騙されていたのに、ニーナはまだ好きだという。デートしても割り勘にするような心のせまいけち臭い男なのに、と思いながらセリーヌは困った表情をした。

ニーナの話によると、男は単身赴任をしているのでニーナをしょっちゅう家に呼んで食事を作らせていた。ちなみに男はニーナが買ってきた食材のお金も払っていない。ニーナは男に都合のいいように使われているのだ。

「ニーナそんな奴とは別れた方がいい！」
「そうだな」

アランは押さえていた苛立ちが爆発した。体が熱くなるほど怒りを感じてニーナに別れた方がいいと鋭い語気で言った。フレッドもアランの意見に賛成する。

店で接客をしているアランは、ホールリーダーのニーナには仕事を教えてもらってお世話になっている。だから助けたいという気持ちが強かった。フレッドは調理をしている。厨房内では一番の下っぱだが、見事な包丁さばきで筋がいいと先輩たちに褒められている。

「相手はなんて言ってるの？」
「奥さんと別れるからって……だから私も信じて待ってます」
「それは嘘だから彼を連れてきなさい」

セリーヌは再び言葉を口にする。ニーナは男の言うことを信じているようだが、男がニーナに言ったことは嘘だとわかる。都合のいいニーナを失いたくなかったのだろう。ニーナは美人で性格も良いし。

私が男と話をつけるから連れてきなさい、セリーヌは決意を秘めた目でニーナを見つめて言った。

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