病気で療養生活を送っていたら親友と浮気されて婚約破棄を決意。私を捨てたあの人は――人生のどん底に落とします。

２６話

「ふ、ふざけるな！クラウドお前は精神に異常をきたしている。本気で言ってるなら病院でお前の頭に問題がないか検査してもらえ！」

ラウルは恐怖心を振り払うように、荒っぽい言い方でクラウドに暴言すれすれの言葉で反論した。普通の人とかけ離れた頭をしている。とても常人とは思えないとクラウドを狂人扱いした。

脳が完全に破綻してるから病院に行って頭の中身を厳しくチェックしてもらえとさえ言った。ラウルは敵対心を剥き出しにした顔でクラウドを睨みつけながら怒鳴るように叫んだ。

「僕の頭は正常だよ。ラウルの頭と違ってね」
「なっ、なんだとおおおぉぉーーーっ！き、貴様ああああああ！許さあああああああん!!」
「ラウル様、落ち着いてください！」

クラウドは目の前で怒っているラウルを落ち着かせて冷静に対処しようと考えていたが、興奮が抑えられず怒りで震える姿を見ると到底無理だと思ってわざと挑発的な言葉を言う。

クラウドは我ながら図太い振る舞いをしたと思ったが、予想していた通りラウルは額に青筋を張らせ大激怒してきた。ラウルが固めた拳を振り上げてクラウドを殴りかかろうとした時だった。アイリスがいきなり二人の間に割り込んで立って、ラウルに落ち着くようにと凛りんとした美しい声を放った。

「アイリス僕を止めるな！こいつは殴らないとわからないんだ。アイリスもわかるだろう？それにさっき殴られた恨みもあるんだ！」
「ラウル様、どうか心をお鎮めになってください！」

アイリスの制止する声にもラウルは烈火のごとく激怒し聞く耳を持たない。ラウルは特別に阿呆なくせに蛇みたいに執念深い性格をしており、嫌なことを言われたりされたりしたら絶対に忘れない脳をしている。アイリスが現れる前のことだが、ナタリアと押し問答を繰り返していたら突然クラウドに殴られたことをラウルは思い出した。

クラウドは一部始終を見ていた。最初は男女が何やら揉めている感じだったけど問題はないように思えた。だが男性のほうが暴力的な手段を取り始める。立ち上がった女性の腕をつかみ男性が荒っぽい口調で何か叫んでいた。

（痴話喧嘩にしてはやり過ぎだな。これは放っておけないな……）

クラウドは冷静な判断力と強い正義感を持ち合わせている。ナタリアが痛いと小さな悲鳴をあげた時に、女性が物や道具のように扱われているような気がして我慢ならなくて体が勝手に動いていた。

この時ラウルはナタリアに婚約破棄を取り消せと迫った。ナタリアが黙っているとラウルは腕を強く握った。しだいに力を強めてくるにつれナタリアの顔は険しくなって苦しそうな声をだした。ナタリアは困難な状況に追い込まれていて、どうすることもできないという感じだった。

その時に、颯爽さっそうと登場しラウルを殴ってナタリアを救う。ナタリアの右腕は見るからに痛そうに赤く腫れあがっていた。倒れたラウルは立ち上がって喧嘩腰で食ってかかろうとするが、相手が友人で隣国の王太子であるクラウドだとわかると驚いた顔をしていた。

その後ラウルの方が悪いから乱暴な挨拶を交わしたとクラウドに言われると、不満そうな顔をしながらもラウルは自分の非をしぶしぶ認めた。だがラウルは根に持っていて、いつかクラウドを殴ってやろうと心の中に秘めておいた。今はその絶好の機会が到来したと心の中で歓喜していたので、アイリスに僕を止めてくれるなと妥協しないという目ですっごく真剣な顔で叫んでいた。